artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
大﨑のぶゆき「falls」

会期:2010/11/06~2010/11/26
YUKA contemporary[東京都]
水溶性のメディウムで描いたイメージをあえて水で流し溶かし、その形象をゆっくり崩していく様子を映像として見せる作品。色鮮やかな山水画が崩落するアニメーションだが、水流にあわせて落下する人型のアイコンが崩壊のカタルシスを強調していて、おもしろい。確固としていたはずの基盤や土台が脆くも崩れつつある、現在の不安定な社会制度を重ねて見ることもできるだろう。ただし、この作品の醍醐味は「崩落」や「落下」にあるというより、むしろ「変形」にあるのではないか。少女のイメージを扱った別の作品では、垂直方向から撮影しているからなのか、有形物が重力に従って無形物となって崩れ落ちていく経緯ではなく、ゆったりとした速度で別の形象へと変化していく過程を見せているからだ。崩壊の快楽はもちろんある。けれども、それだけではない。大﨑が視覚化しているメタモルフォーズの観察は、変化の先に待ち受けている未知の可能性を暗示しているのであり、それは必ずしもネガティブなものではないのである。
2010/11/24(水)(福住廉)
ファンタスマゴリア

会期:2010/11/19~2010/12/19
ギャルリー宮脇[京都府]
近年、アール・ブリュットを積極的に取り上げているギャルリー宮脇が、刺激的な企画展を開催した。光に満ちた神秘体験を描写するアンティエ・グメルス、異業の妖精たちが浮遊する絵画を描くルジェナ、女性の裸体画の周囲にキッチュな雑貨品を過剰に貼り付ける山際マリ、自然物や既製品、自作の造形物を組み合わせてシュールなオブジェを制作する濱口直巳、細胞増殖を思わせる生々しい作風の平面や立体で知られる玉本奈々をピックアップした本展だ。アール・ブリュットといっても、彼女たちは障害をもつわけではない。美大で学んだ者もいれば、独学者もいる。ステレオタイプなアール・ブリュット観を排し、特定の枠組みや流行とは無縁で、自己探求的な作風を持つ作家を集めたのだ。この選択は、アール・ブリュットを狭義に捉える原理主義者には邪道に見えるかもしれない。しかし、冷静に考えれば言葉本来の意味に忠実だし、アール・ブリュットの可能性をより広げることにもつながるだろう。実際、作品はどれも赤裸々な魅力に溢れ、文字通り“生の芸術”だった。広義のアール・ブリュットをラインアップに加えることで、ギャルリー宮脇の活動は更に速度を増すであろう。
2010/11/24(水)(小吹隆文)
鯉江真紀子 個展

会期:2010/11/12~2010/12/22
ツァイト・フォト・サロン[東京都]
京都在住の鯉江真紀子は、一貫して風景を多重露光した大きな画面の写真作品を制作し続けてきた。特に今回の個展でも展示されていた、競馬場らしき場所に群れ集う人の群れを、俯瞰するような構図で撮影した作品に執着し続けている。鯉江の心を捉えているのは、人が集団となった時に発する巨大なエネルギーの放出のあり方ではないだろうか。個々の人物を撮影しただけでは見えてこない、圧倒的な群衆のオーラのようなものが、多重露光の操作によってより増幅されて伝わってくる。
しかも、2000年代初頭にツァイト・フォト・サロンで展示されていた作品と比較すると、そのオーラの捕獲装置の精度が増し、洗練されてきているように感じる。2009年に、岡山県倉敷市の大原美術館を舞台にした大規模な個展を成功させたことで、写真作家としての自信が深まっているのだろう。さらに今回の展示では、従来の群衆の多重露光の作品に加えて、シンプルな構図で光と影のコントラストを強調した、2枚組のシークエンス作品もいくつか展示されていた。発想と手法の広がりによって、さらなる飛躍が期待できそうだ。なお、2010年12月中には代表作を集成した作品集『Aura』(青幻舎)が刊行される予定である。
2010/11/24(水)(飯沢耕太郎)
救いのほとけ──観音と地蔵の美術──

会期:2010/10/09~2010/11/23
町田市立国際版画美術館[東京都]
かの瀬戸内国際芸術が「島巡礼」という言葉で表象されがちだったように、昨今の現代アートをめぐる状況は、宗教的なメタファーによって要約できることが多い。聖地を巡礼することによって贖罪なり祈願を神のもとに届けようとすること。そこに現実逃避の側面がないわけではないが、だからといって仏像への広い関心がすべて非現実的な狂騒にすぎないわけでもないだろう。私たちはいま、神や仏といった超越的な存在に救済の願いを仮託せざるをえないほど、生きることに疲弊している。ただし、そうした消耗する生き方というものは、必ずしも現代的な病理の症候ではなく、かつてもいまも、私たちはそのようにして神や仏に依存しながら生きてきたのだ。「ほとけ」をめぐる平面や彫像を展示した本展は、自立した近代的個人という幻想が打ち砕かれてしまったいま、そのような共依存の関係がそれほど悪いものではないということを、静かに語りかけていた。
2010/11/23(火)(福住廉)
しんぞう×窪澤瑛子 二人展「荒野をおよぐ land swimming」

会期:2010/11/20~2010/12/12
竜宮美術旅館[神奈川県]
和洋折衷のドキッチュなラブホを改装した竜宮美術旅館。この魅力的な場所で注目されるには場所以上に作品が魅力的でなければならない。しかもこういう場所では絵画よりも、サイズや形態が可変的なインスタレーションのほうがふさわしい。絵画にとってはハードルが高いのだ。しかし今回しんぞうの絵画はそれをクリアしていたように思う。それはおそらく、彼女(しんぞうは女性だった)の絵が死体のような不吉なにおいを漂わせているからであり、それが性=生を象徴するラブホの空間と拮抗しえたからではないか。インスタレーションの窪澤はまだ力不足の感がぬぐえない。経験の差か。
2010/11/22(月)(村田真)


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