artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

山口蓬春と安田靫彦

会期:2010/10/16~2010/12/23

山口蓬春記念館[神奈川県]

神奈川県立近代美術館から歩いて5分の地にあるのにこれまで行ったことがなかったが、今日はステキなおねえさまたちとご一緒させていただいているので、ちょっとのぞいてみることに。小高い山の中腹に建つ建物は、蓬春が晩年をすごした住居を改装したもの。手入れの行き届いた広い庭に、ただ公開しておくだけではもったいない画室(若手作家に貸して公開制作してもらうとか)、窓から相模湾を一望にする眺め……。おっと葉山のご用邸が見えるではないか。やっぱ皇居新宮殿をその絵で飾っただけのことはあるわい。

2010/12/05(日)(村田真)

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プライマリー・フィールドII

会期:2010/12/04~2011/01/23

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

BankARTスクールの「美術館ツアー」番外編で、元受講生のステキなおねえさまたちと訪れる葉山の旅。3年前の「プライマリー・フィールド」展に続く第2弾で、前回が80年代に登場した作家が中心だったのに対し、今回は少し若返って、高橋信行、小西真奈、保坂毅、三輪美津子、東島毅、伊藤存、児玉靖枝と90年代以降に活躍する作家たちが中心。また、前回は立体が圧倒的に多かったが、今回は逆にほとんどが(レリーフや刺繍も含めればすべて)絵画で、しかも具象イメージを用いる作家が多いのが特徴だ。興味を惹かれたのは、最初の部屋のなかば抽象化されたフラットな高橋信行の絵から、筆跡を残しつつ風景写真に基づいて描く小西真奈の部屋に移動したときに、ある種の安心感を覚えたこと。これはなんだろう。抽象化されているとはいえ高橋の絵にはまだ具象イメージが残っているから、具象と抽象の違いではないし、また、フラットとはいえ筆跡も認められるので手の痕跡の有無でもない。たぶんこれは絵の持つ情報量の違いではないかしら。高橋の絵は色彩も形態も整理されているため、見る者は深く考えずに次に進んでしまうが、小西の絵は具体的に細かく描かれているためつい見入ってしまい、滞在時間も長めになるのだ。もちろんそれは高橋の絵の欠点ではなく、次から次へと作品を見ていかなければならないグループ展のトップバッターの宿命ともいえるもの。ちなみに、小西の次には抽象レリーフの保坂が続き、その次が写真的リアリズムを中心とした三輪で、その次が抽象の大作を出した東島……と続いている。試みに、最後にもういちど高橋の部屋に戻ったら、さきほどよりずっと興味深く見ることができた。キュレーションの妙味であり、グループ展の魔力である。

2010/12/05(日)(村田真)

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彫刻家エル・アナツイのアフリカ

会期:2010/09/16~2010/12/07

国立民族学博物館[大阪府]

アフリカのガーナ出身で、現在はナイジェリアを拠点に活動するエル・アナツイは、1989年にポンピドゥーセンターで開催された「大地の魔術師」展で一躍脚光を浴び、以後、アフリカを代表する現代アート作家として活動している。しかし、欧米で彼の作品は美術館と博物館の両方で展示されており、西洋的文脈のアートと民族工芸の狭間で宙吊りにされた状態になっているのだとか。非西洋圏のアーティストが多少なりとも直面するこの問題に対して、美術史と文化人類学双方の視点からアプローチしようと試みたのが本展だ。ただ、実際の展示を見ると、少なくとも私にはオーソドックスな美術展に見えた。確かに彼の作品の背景となっているアフリカの美術工芸品も共に展示されているが、だからといって上記の問題に踏み込んでいると言えるのだろうか。意識し過ぎると却って西洋美術史の文脈に取り込まれてしまうことを危険視したのかもしれないが、もう少し踏み込んでほしかったというのが本音だ。

2010/12/04(土)(小吹隆文)

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蜷川実花「noir」

会期:2010/11/27~2011/12/25

小山登美夫ギャラリー[東京都]

Taka Ishii Galleryの上の階の小山登美男ギャリーでは、同じ日に蜷川実花展もオープンした。芸能人関係の花輪の多さが、今の彼女の勢いを物語っている。ただ、肝腎の展示には少し違和感を覚えた。
今回の「noir」のシリーズは、あの2008~10年に東京オペラシティアートギャラリーを皮切りに全国巡回した「地上の花、天上の色」展の最後のパートで予告されていたものだ。華やかな極彩色の「蜷川カラー」を極端に「noir(黒)」の方へ傾けることで、魑魅魍魎がうごめくようなバロック的な世界をこの世に出現させる。その意図はよく理解できるし、もともと蜷川の中に潜んでいた闇、死、狂気への志向を解放しようとする興味深い実験といえる。ただ、壁にプリントをべたべた貼付ける見せ物小屋的な展示は、以前のポップな作品には合っていても「noir」にはあまりふさわしくないように思える。ここは、虚仮威しでもハイブラウな、洗練された展示空間を作り上げてほしかった。フレームに入れて展示されていた作品もあったが、それもやや中途半端に感じた。
同じことは、同時に発売された写真集『noir』(河出書房新社)にもいえる。この本も作品の内容と造本、レイアウト、印刷などがあまりうまく合っていないのではないだろうか。可能性を感じるシリーズだけに、ぜひぴったりとした器を見つけてほしいと思う。

「noir」2010
© mika ninagawa
Courtesy of Tomio Koyama Gallery

2010/12/01(水)(飯沢耕太郎)

ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス展

会期:2010/9/018~2010/12/25

金沢21世紀美術館[石川県]

タイヤ、履き古した靴、バケツといったガラクタのドミノ倒しのヴィデオ作品《事の次第》、着ぐるみのネズミとクマが登場する一連の映像作品のほか、写真作品「ソーセージ・シリーズ」、粘土作品や彫刻作品など、フィッシュリ&ヴァイスの初期から最近までの代表的な活動が展示室だけでなく、通路や光庭なども使って紹介された。展示のボリュームとしての見応えもあるが、なかでも面白かったのが約90点の粘土のオブジェが並んだ展示室。まるで子どもがつくったようなユルい粘土造形の数々の、間の抜けたイメージやユーモラスな表情は、タイトルによっていっそう物語世界を広げていく。世界の混沌をあぶり出し、見る者を連想へと一気に導く言葉の威力もさることながら、なんでこんなにばかばかしくも鋭い言葉を思いつけるのだろうと思う痛快なウィットの数々に脱帽だった。

2010/12/015(日)(酒井千穂)

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