artscapeレビュー

絵本界の巨匠 モーリス・センダック

2010年08月01日号

会期:2010/06/03~2010/07/13

教文館ナルニアホール[東京都]

《かいじゅうたちのいるところ》で知られる絵本作家、モーリス・センダックの展覧会。展示はリトグラフのほか、映像や絵本などで構成されていた。《まよなかのだいどころ》《わたしたちもジャックもガイもみんなホームレス》など、センダックの絵本で育った者にとっては幼年期に形成された心象風景に改めて直面させられるような気恥ずかしさを覚えてならないが、今回の展示で初めて知ったのは、センダックが他のクリエイターによる絵を積極的に模倣していたということ。ランドルフ・コールデコット、アーサー・ヒューズ、ウィンザー・マッケイ、そしてウォルト・ディズニー。先人たちのなかにセンダックを惹きつける「何か」があり、それを模倣することによって彼自身のなかに眠っているその「何か」を探り当てようとしたのだという。「巨匠」といえども、いやだからこそというべきか、このような模倣(パスティーシュ)と無縁ではなかったという事実は、ポストモダニズム以後も依然としてオリジナリティの神話が根強く残っている芸術の世界を逆に浮き彫りにしている。

2010/06/24(木)(福住廉)

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