artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:ヤノベケンジ×ウルトラファクトリー「MYTHOS ミュトス」展

会期:2010/06/19~2010/09/23

入善町 下山芸術の森 発電所美術館[富山県]

ヤノベケンジと、彼が主宰する京都造形芸大内の工房「ウルトラファクトリー」が共同で展覧会を開催。元発電所というロケーションにふさわしく、電気的に稲妻を発生させる装置を持ち込んでヤノベならではの世界を構築するのだとか。会場の特異性は彼らにとって武器になるかもしれないが、一方で戦うべき敵となる恐れもある。両者がどこまで突っ切った表現を展開できるかに注目したい。

2010/05/20(木)(小吹隆文)

プレビュー:会田誠《滝の絵》公開制作

会期:2010/06/08~2010/06/20

国立国際美術館[大阪府]

今年1月から4月にかけて国立国際美術館で開催された「絵画の庭」展にも出品されていた、会田誠の《滝の絵》。展覧会終了後も同じ位置で展示され続けていたが、それは6月に行なわれる公開制作のためだった。はた目には完成しているように思われる本作だが、会田に言わせれば未完成作で、2007年に発表した後も何度か手を入れているそうだ。今回の公開制作は、完成に向けた最後の加筆を目指しているらしいので、完成の瞬間を目撃するレアな機会となる可能性が高い。

写真:© AIDA Makoto courtesy of Mizuma Art Gallery
Photo of work in progress
※注意事項:時間帯により作家が不在のこともございますので、あらかじめご了承ください。

2010/05/20(木)(小吹隆文)

鞍馬口美術界隈

会期:2010/05/15~2010/05/16

鞍馬口界隈のアーティストスタジオ[京都府]

15日と16日、鞍馬口付近では、寺島みどり、生駒啓子、安喜万佐子らといった複数の作家が一斉に、それぞれの普段の制作現場を公開するオープンスタジオ企画が行なわれていた。「超京都」開催日に重なっていたが、その告知はけっこう地味なもので私もすっかり忘れていた。運良く思い出して最終日に寺島みどりさん、安喜万佐子さん、池上恵一さんのお宅を訪問。どのアトリエ(自宅)も御霊神社の周辺で、古い町並みの住宅街にある。同志社大も近いが、長年京都で暮らしていても訪れたことのなかった界隈であり、歩きながら目にする町の風景も新鮮だ。寺島みどりさんのアトリエからすぐの御霊神社の大木の緑が印象に残る。作家が実際に日頃見ている風景とその作品のイメージが重なっていく時間だった。

2010/05/16(日)(酒井千穂)

sowaka clip 11 城戸みゆき

会期:2010/05/07~2010/05/30

sowaka[京都府]

二つのスペースで異なるシリーズを発表。ひとつはこれまでに制作してきた家型の小オブジェ。白いシンプルな形をしているが、レンズの覗き窓から中を見ると別世界が広がっている。もうひとつは民家の屋根のミニチュアを大量に作って宙吊りにしたインスタレーション。広島市の郊外にある彼女の実家から街中に出かける際の景色を題材にしたそうだ。いろんな形の屋根がふわふわ浮かんでいる姿には、童話的な優しさと幻想性も感じられる。サイトスペシフィックな作品制作やワークショップにも使えそうなので、今後の展開に注目したい。

2010/05/15(土)(小吹隆文)

春木麻衣子「possibility in portraiture」

会期:2010/05/14~2010/06/12

TARO NASU[東京都]

春木麻衣子は画面の大部分が黒、あるいは白の地で覆い尽くされた作品を発表してきた写真家。その闇や光を透過して、身を捩るようにして見えてくるイメージに独特の緊張感がある。これまでは純粋な風景作品だったのだが、2008年頃から画面に「人」の影が登場するようになり、今回の個展ではポートレートの領域にさらににじり寄ってきている。それでも、ロンドンの大英博物館の階段を昇り降りする観客の姿を捉えた「outer portrait」(白)、ニューヨークの街頭をスポットライトのように照らし出したシリーズと、窓の隙間から見えるチュニジアの石壁と通行人を撮影したシリーズから成る「whom? whose?」(黒)の両作品とも、これまでの彼女の取組みから大きく隔たっているわけではない。だが、着実に表現の幅を広げ、新たな方向に進んでいこうという意欲が強く感じられる展示だった。
僕はポートレート、つまり他者の存在と向き合うことは、春木にとってとても重要なテーマになっていくのではないかと思う。これまでどちらかといえば「inner」な領域にこだわり続けてきた彼女が、「outer」に自分を開いていくきっかけになっていくのではないだろうか。いまのところ、まだ舞台のような場所を設定して、そこに「通行人」を呼び込むようにして撮影されているのだが、さらにこの試みを進めていけば、もっと身近な「顔の見える」他者が出現してくるかもしれない。そんな予感も感じられる展示だ。

2010/05/14(金)(飯沢耕太郎)