artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
佐々木耕成 展「全肯定/OK.PERFECT.YES.」
会期:2010/04/23~2010/05/23
3331アーツチヨダ[東京都]
連休初日に訪れる。3331は廃校となった旧練成中学校を改修したアートセンターで、ギャラリー空間は床まで真っ白なホワイトキューブ。その壁面を埋めつくすように約50点の絵が並んでいる。EやHみたいな記号的形態に赤、青、黄色などの原色をフラットに塗った抽象画。半世紀ほど前の前衛絵画といった印象だ。しかもそれが合板にペンキという安っぽい素材で描かれているのだから、どっちかというとアウトサイダー系を想起させる。しかしこの場合、描かれた内容とペカペカな素材が奇妙にも一致していることに注目したい。作者の佐々木耕成は今年82歳。60年代に前衛芸術運動を展開し、その後ニューヨークに滞在。帰国後は美術界との関係を断って群馬県の赤城山麓にこもり、10年ほど前から絵画制作を再開。近年ますます旺盛な制作意欲を見せているという。それを聞いて納得。彼にとって「なにを描くか」「なにで描くか」「いかに描くか」などもはや問題ではなく、ただ「描き続けること」が重要なのだ。
2010/04/29(木)(村田真)
SEOUL PHOTO 2010
会期:2010/04/29~2010/05/03
Coex Hall B[韓国・ソウル]
今月は忙しい月で、中国から帰った次の週には韓国・ソウルへ飛んだ。写真に特化したアート・フェア「SEOUL PHOTO」に参加するためである。このイベントは2008年から始まったが、最初の年はプレ・イベントだったので実質的には今回で2回目。今年は韓国と日本の22のギャラリーがブースを構え、さらにスペインの写真家たちの特集が組まれ、日本の新人写真家育成プロジェクト「写真ひとつぼ展」(リクルート主催)、「Juna」(ニコン主催)、「写真新世紀」(キヤノン主催)に入賞した若手写真家たちの作品が「Beyond the Award」という枠で展示されていた。ほかにシンポジウムやゲスト作家の森村泰昌の展示(「女優」シリーズ)やトーク・スライド上映などもあり、なかなかしっかりしたプログラムだった。
ただ、見本市会場のような広いスペースの割には参加ギャラリーの数が少なく、ややスカスカの印象は拭えない。韓国のARARIO GALLERYやKukje Gallery、日本のツァイト・フォト・サロンやエモン・フォト・ギャラリーのように、見応えのある作品を持って来たギャラリーもあったが、全体的には盛り上がりに欠けているように感じた。隣の会場で開催されているカメラ・ショーが大変な賑わいなのにくらべると、観客の反応もどこかクールなのだ。実際、いくつかのギャラリーに取材したところでは、あまり作品も動いていないようだ。写真作品の市場開拓というのが大きな目標のはずなので、その意味ではイベントとしてはあまり成功とは言えないだろう。
それでも、昨年の「TOKYO PHOTO」と比較しても、韓国ではこの種の催しがかなりきちんと根づきかけていると感じる。会場には若い学生たちの姿も目立っていたが、たとえば彼らにとっては、展示を見ることで作品制作の具体的な目標をしっかりとつかむことができるだろう。最終的には中国や台湾を含めた、東アジア地域全体の写真と写真家の交流を図る必要があると思う。その拠点として、東京はもはやソウルや北京の後塵を拝しているのではないだろうか。
2010/04/29(木)(飯沢耕太郎)
長谷川等伯
会期:2010/04/10~2010/05/09
京都国立博物館[京都府]
「信春」を名乗っていた時代の精緻な描写の仏画から、京都上洛後、「等伯」となってから晩年までの代表作をほぼ網羅した没後400年の大規模回顧展。入館の待ち時間と館内の混雑を思うと億劫で、もたもたしている間に後期展示が始まり、慌てて出かけた。本展の調査過程で発見され、信春時代の現存唯一とされる金碧画《花鳥図屏風》も話題になっていたが、やはりそれよりも国宝の《松に秋草図屏風》や《楓図壁貼付》がすごい。壮麗な色彩と装飾的なモチーフ、構図のバランスなどさまざまな要素に目を奪われる。そして水墨画の数々、《枯木猿猴図》の猿のいきいきとした描線、なによりも《松林図屏風》の佇まい。空気や光の表現の圧倒的な感動。じつに同一人物なのかと驚くほどイメージが異なる「信春」と「等伯」の画風の変遷を、その背景の解説とともに紹介する会場は、どの展示作品の前も人集り。なので襖にしろ屏風にしろ全体を見ることは叶わず、とてもじっくり鑑賞するという状況ではなかったのが残念だが、それでも100分待ちの看板に怯まず並んだ甲斐はあった。
2010/04/28(水)(酒井千穂)
赤松玉女 個展
会期:2010/04/27~2010/05/09
ギャラリーすずき[京都府]
滲みを生かした画風で、魅惑的な女性たちを描いている。おそらく海外のファッション誌や映画誌がネタ元であろう。刹那的なポップアイコンが永遠性を宿した肖像画として転生するのが興味深い。肖像画という古色蒼然としたジャンルを洗練されたスタイルでよみがえらせた点も評価されるべきだ。会場の片隅にはわが子と共作したドローイング作品も展示されていた。肖像画とはまったく違う雰囲気だが、不思議なバランスで釣り合いがとれていた。
2010/04/28(水)(小吹隆文)
榊原メグミ 展
会期:2010/04/20~2010/04/25
ギャラリーすずき[京都府]
グリーン、ピンク、水色など、明るい色彩の画面に、風船のようなフワフワとしたイメージの丸い木々の風景が描かれている。モチーフは餅なのだと聞いて笑ったが、一見、色面で構成されたその画面はじっくりと見つめていると深い奥行きも感じさせる。そのイメージはギャラリー空間から見える外の新緑の風景と重なって心地よく、記憶に残る春の景色だった。
2010/04/25(日)(酒井千穂)