2021年12月01日号
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artscapeレビュー

春木麻衣子「possibility in portraiture」

2010年06月15日号

会期:2010/05/14~2010/06/12

TARO NASU[東京都]

春木麻衣子は画面の大部分が黒、あるいは白の地で覆い尽くされた作品を発表してきた写真家。その闇や光を透過して、身を捩るようにして見えてくるイメージに独特の緊張感がある。これまでは純粋な風景作品だったのだが、2008年頃から画面に「人」の影が登場するようになり、今回の個展ではポートレートの領域にさらににじり寄ってきている。それでも、ロンドンの大英博物館の階段を昇り降りする観客の姿を捉えた「outer portrait」(白)、ニューヨークの街頭をスポットライトのように照らし出したシリーズと、窓の隙間から見えるチュニジアの石壁と通行人を撮影したシリーズから成る「whom? whose?」(黒)の両作品とも、これまでの彼女の取組みから大きく隔たっているわけではない。だが、着実に表現の幅を広げ、新たな方向に進んでいこうという意欲が強く感じられる展示だった。
僕はポートレート、つまり他者の存在と向き合うことは、春木にとってとても重要なテーマになっていくのではないかと思う。これまでどちらかといえば「inner」な領域にこだわり続けてきた彼女が、「outer」に自分を開いていくきっかけになっていくのではないだろうか。いまのところ、まだ舞台のような場所を設定して、そこに「通行人」を呼び込むようにして撮影されているのだが、さらにこの試みを進めていけば、もっと身近な「顔の見える」他者が出現してくるかもしれない。そんな予感も感じられる展示だ。

2010/05/14(金)(飯沢耕太郎)

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