artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
Palla/河原和彦 作品展「イコノグラフィー2『銀河』」
会期:2010/05/07~2010/06/06
ギャラリーKai、銀杏菴[大阪府]
1点の写真を何度も折り返して重ねることで驚くべき世界を表出させる、Pallaこと河原和彦。本展では海岸の岩場や大阪の港湾を素材にした新作の写真作品を発表。モノクロを選択したことにより、まるで水墨画のように幽玄なビジュアルが表現された。別会場の銀杏菴(今年で築100年の長屋)では、床の間で映像作品を展覧。空間とのマッチングが良く、スチール作品以上にマジカルな作品に仕上がっていた。
2010/05/08(土)(小吹隆文)
アートフェア京都
会期:2010/05/07~2010/05/09
ホテルモントレ京都[京都府]
アートマーケットは東京に集中するが、京都はこれまで伝統産業や文化を守るだけでなく、最先端の美術も育んできた。その土壌を足がかりに今後、美術の市場、ひいては地域経済の確立を目指すことをコンセプトに京都で初めて開催された現代美術アートフェア。33画廊が参加していた。ゴールデンウィーク中でもあり混雑を予想していたのだが、初日の午前中は大雨のせいもあってか会場は空いており、思いがけずゆっくりと見て回ることができた。全部見終わるのに4時間ちかくもかかってしまい我ながら驚いたが。翌日も、アートに接する機会は日頃はほとんどないという知人を案内。ある画廊で気に入った作品を購入し、どこに飾ろうかとつぶやくその人の少し嬉しそうな顔を見て私まで良い気分に。ホテルを会場にしたアートフェアは以前からあるが、公式ブログでは、会場周辺の観光名所や近隣の飲食店が紹介されるなど、京都の町歩きのための情報が発信されていたり、アートフェアというよりも京都の滞在時間自体を楽しむイメージづくりが開催前から工夫されていた。アートへの興味のきっかけにつながれば良いと思う。次回以降の動向も気になる。
2010/05/07(金),05/08(土)(酒井千穂)
リフレクション/映像が見せる“もうひとつの世界”
会期:2010/02/06~2010/05/09
水戸芸術館現代美術ギャラリー[茨城県]
映像作品を集めた企画展。藤井光、Chim↑Pom、八幡亜樹からジェレミー・デラー、ライアン・トゥリカーティン、ローラン・モンタロンなど、9組のアーティストがそれぞれ映像作品を発表した。たとえば地下鉄の駅のホームにまで映像広告が進出しつつあるほど、映像が現代社会の隅々にまで浸透している今日、映像を芸術表現として価値づけるハードルはかつてないほど高くなっている。そんじょそこらの映像作品ではYOUTUBEのそれに勝てないし、わざわざ数百分の時間を費やして美術館で退屈な映像を見てやるほど現代人は暇でもないからだ。だとすれば、映像作品を見る基準は2つある。ひとつは映像の内容がおもしろいか、つまらないか。もうひとつは映像の見せ方、つまりインスタレーションとしておもしろいか、つまらないか。前者で抜群だったのは、マティアス・ヴェルカム&ミーシャ・ラインカウフ。ベルリンの地下鉄に手漕ぎ車で潜入したり、停車中の鉄道やバスなど公共機関の乗り物の窓ガラスを勝手に清掃する様子をとらえた映像は、じつに楽しい。乗員の大半は怪訝な顔で警戒感を強めるが、なかには好意的に対応する者もいて、制度の良し悪しがじつのところ制度を運用する人間の良し悪しと大いに関わっていることを鮮やかに示した。後者の点で際立っていたのは、宇川とさわひらき。個室トイレでサイケデリックな視覚体験に興じる鑑賞者の姿を監視カメラによって別室で流すという宇川の作品は、ともすると安易な神秘性に回収されがちな視覚体験を通俗的な空間と監視社会のメタファーによって社会性とうまく接続させた。回転するコインなどの映像を回転するスピーカーからの音響とともに見せたさわひらきは、とりわけ映像の内容と形式を有機的に組み合わせることに成功しており、出品作家のなかでも抜群の完成度を誇っていた。
2010/05/07(金)(福住廉)
アートフェア京都
会期:2010/05/07~2010/05/09
ホテルモントレ京都 4階客室[京都府]
ホテルのワンフロアを会場に、33の画廊と2つの企画が参加。形式自体に新味はないが、京都初の本格的現代アートフェアとして注目を集めた。というのも、京都は作家を多数輩出しているが、現代アートのマーケットではないというのが通説だからだ。しかし、近代以前の美術工芸のコレクターは確かに存在するし、観光資源と組みわせることで地元以外の客層を呼び込むこともできる。工夫次第で京都を現代アートのマーケットとして確立できるのではないか、というのが主催者たちの思惑だったようだ。本稿執筆時でまだ正確な成績は確認できていないが、独自に幾つかの画廊にリサーチしたところ、予想よりも好結果だったとの返事を得た。もちろん画廊により好調・不調はあろうが、全体としては良好なスタートを切れたのではなかろうか。2年目以降の更なる飛躍に期待が持てそうだ。
2010/05/07(金)(小吹隆文)
秦雅則「シニカル」
会期:2010/05/04~2010/05/09
企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]
秦雅則は昨年来、自身もメンバーのひとりである企画ギャラリー・明るい部屋で「ネオカラー」「キーキーなく悪魔」「角死」「死角」といった個展を次々に開催して来た。これらを元にして、東京都写真美術館の「写真新世紀2009」の会場で開催された「幼稚な心」展の成果を加えて会場を構成したのが、今回の「シニカル」展である。
会場の中央に机が置かれ、そこに写真の束がいくつか置かれていて、それぞれの束には、以下のようなキャプションが付されている。「他人」「数多くの他人の中から選択された44名の他人」「知人と友人」「愛してると言ってほしそうな知人と友人(その人の目は本人のもの)」「知人と友人と私が混在している知人と友人と私(私、もしくは他人の身体の一部が移植されている)」「知人と友人によって撮られた私」。写真には着色されたり、合成などの加工が施されたりしたものはあるが、おおむね何の変哲もないスナップ写真の集積である。だが、写真の束を手にとって、めくりながらつらつら眺めていると、何かしら吐き気のようなものがこみ上げてくる。その「実存主義的」な感情がどこに由来するのかはわからないが、写真と写真の間からこみ上げてくる気持ち悪さはただ事ではない。
秦の写真作品は、今回の展示もそうなのだが、一見荒っぽく、雑なものに思える。だが、写真展のタイトルや作品に付されたキャプションを見てもわかるように、緻密な思考と丁寧な作業工程によって練り上げられている。そのユニークな仕事ぶりは、もっと注目されてもよいのではないだろうか。
2010/05/06(木)(飯沢耕太郎)