artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

渡邊晃一「テクストとイマージュの肌膚」

会期:2010/04/28~2010/05/08

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

渋谷・宮益坂上のZEN FOTO GALLERYは、普段は中国の写真家の作品を中心に展示しているのだが、今回の渡邊晃一の個展は日本人作家というだけでなく、写真作品にドローイングも加えたものだった。渡邊は福島大学文学・芸術学系の准教授で、絵画、写真、彫刻、パフォーマンスアートなどにまたがる複合的な領域で仕事をしている。たとえば、今回の舞踏家大野一雄、大野慶人とのコラボレーション作品では、彼らの身体を石膏や発泡スチロールで克明に型取りし、その自分の分身というべきオブジェと生身の舞踏家とが絡み合うパフォーマンスを、写真とドローイングで記録している。大学・大学院時代に徹底して学んだ解剖学の知識と、卓抜なデッサン力を駆使した作品が、枝分かれをするように次々に展開していく過程は、展覧会と同時に刊行された同名の作品集(青幻舎刊)を見ればよくわかるだろう。
たしかに、その細部まで丁寧に仕上げられた作品群(特に1999年の大野一雄が自らの腕の型取りを抱いて踊るセッション)は質が高いものだが、発想がやや予測可能な範囲におさまっているような気がする。ドゥルーズ=ガタリ流にいえば、ツリー状のどこか整合性と秩序を保った構造ではなく、どこに伸び広がり接続するのかわからないリゾーム状の構造があらわれてくるといいと思う。笑いやエロティズムのような、思考を逸脱させ、攪乱するような要素をもっと積極的に取り込むと、この「まじめな」作品世界にひび割れが生じるかもしれない。

2010/05/08(土)(飯沢耕太郎)

國府理 展

会期:2010/05/04~2010/05/16

アートスペース虹[京都府]

國府理の新作展。数年前、事故で重症を負ったアーティスト、永井英男氏との関係から、革張りソファでつくられた電動車椅子、のこぎりがついた松葉杖など特殊器具という実用性をもつ今回の作品が制作された。8日には、ヤノベケンジ、名和晃平、永井英男をゲストに「A.A.A.Project:アーティストは自立し得るのか」というタイトルのアーティスト・トークも開催。作家の制作意欲と身体の不自由、制作スタンスなどのジレンマに接して、同じ作家としてどのような関わりが可能か、そもそも制作手段や方法、その技術において他人の力を借りることを前提にした表現活動では、身体的な障害をもつこともたないことの差はどれほどあり、なにが問題になるのか。問題提起はいろいろあり、ひとつの答えが出たわけではないが、自らの言葉で考えを語る国府とゲストアーティストの、それぞれの誠実な姿勢が印象に残る興味深いトークだった。

2010/05/08(土)(酒井千穂)

会田誠 展「絵バカ」

会期:2010/05/06~2010/06/05

ミヅマアートギャラリー[東京都]

会田誠の新作展。ギャラリーの壁面を覆いつくすほど巨大な平面作品3点と、映像作品などを発表した。おびただしいほどのサラリーマンの死体やOA機器が文字どおり山積みにされた精緻な絵や、中村一美のように絵具を大量に使って「1+1=2」と描いた大味な絵など、絵の風合いを変えながらも、会田誠ならではのアイロニカルな批評精神が十全に発揮されている。そうした「会田誠らしさ」は、東京藝大に伝えられてきた「ヨカチン」という伝統的な宴会芸を現在の美大女子学生に全裸で踊らせた映像作品でも変わらないから、会田誠の真骨頂を楽しめたことはまちがいない。ただ、そうして手を変え品を変えながらやればやるほど、会田誠の孤独感が浮き彫りにされていたようにも思う。「ヨカチン」を踊りきる女子学生の姿には前世紀の画学生文化にたいする郷愁に加えて、その主体が男子から女子に転移してしまったことが暗示されていたし、その女子による乾いた宴会芸にはかつて篠原有司男が感じた「暗然としたもの」はもはや見るべくもない(篠原有司男『前衛の道』美術出版社、2006年、p.22)。サラリーマンを死体の山に見立てたとしても、サラリーマンの絶頂期ともいえるバブル期ならともかく、彼らが現に生存を追い詰められつつある社会状況では、アイロニーの力も半減せざるを得ず、むしろ単純なリアリズムに見られかねない。アイロニカルな作品とは、文脈への鋭い意識を前提としているが、文脈そのものが変質すれば、当然主体の位置関係も変更せざるを得ないし、方法論も代えなければならない。今回発表された作品のうち、少なくとも平面作品については、その修正作業が追いついていないように見えたのは事実である。サラリーマンも表現主義も、仮想敵としては不適切であり、もはやおちょくるまでもないからだ。映像作品については、宴会芸を女子学生にやらせることによって新たな方法論を獲得したように見えたが、それは会田誠の作家性から離れていく傾向であるという点で、孤絶感をよりいっそう強めていた。

2010/05/08(土)(福住廉)

歌川国芳 奇と笑いの木版画

会期:2010/03/20~2010/05/09

府中市美術館[東京都]

歌川国芳の錦絵を見せる展覧会。武者絵や役者絵、美人画、風景画など、(前期と後期あわせて)200点あまりが一挙に公開された。幕府の目を盗むために猫や雀などを擬人化させながら世相を風刺したり、降臨した観音様によって庶民の生々しい本音を引き出したり、絵の技巧はもちろん、絵の届け方にも工夫が凝らされていて、じつに楽しい。アイロニーの絵描きにとってお手本になるような作品ばかりだ。

2010/05/08(土)(福住廉)

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金沢健一 展

会期:2010/05/08~2010/06/12

CAS[大阪府]

決められたモジュールにしたがって鉄板を切断し、積み重ねて溶接した立方体のオブジェを多数出品。溶接の方法により、作品には二つの系統がある。いずれにせよ、硬質かつミニマルな立体のバリエーションを楽しんだ。また、鉄板にバーナーを当てて鉄が溶けていく様子を、バーナーの反対側から撮影した映像作品も出品。徐々に流動体化していく鉄の様子は、立体のハードエッジな作風と対照的だった。

2010/05/08(土)(小吹隆文)