artscapeレビュー

高木こずえ「GROUND」/「MID」

2010年03月15日号

日本橋高島屋6階美術画廊X/第一生命南ギャラリー[東京都]

会期:2010年2月17日~3月15日/2月17日~3月12日

1985年生まれの高木こずえの潜在能力の高さは、今回の二カ所の個展でも充分に発揮されていた。赤々舎から昨年刊行された二冊の写真集『GROUND』と『MID』に沿った展示だが、それぞれ微妙にその内容を変化させている。
日本橋高島屋6階美術画廊Xの「GROUND」では、メインになる150.4×125.4センチの大きな二枚組の作品と、それらを「更に細かく分解し、それらを構成している元素を確かめていった」小さな作品群を展示している。エレメントの一つひとつは、ヒト、モノ、動物など生命的なイメージの集合体であり、高木はその自己分裂の運動に身をまかせつつ、解体─生成のプロセスを巧みにコントロールする。細部に眼を凝らせば凝らすほど、そこから思いがけない神話的な形象がわらわらと湧き出してくるような仕掛けを作り出すことで、見る者はビッグバンのようなとてつもないエネルギーの噴出の場に立ち会うことができるのだ。今回は、そのカオス状態をさらに推し進めた新作「light」も同時に展示されていた。そこでは、目が眩むような白熱する発光体が、より細かく、鋭角的に分割されている。
第一生命南ギャラリーの「MID」でも、元の写真に大きく手を加えた作品がある。印象的なエメラルド色の眼をした「オトコ」のイメージが、炎のような背景の赤をさらに強調するようにトリミングされているのだ。もともとこの写真は、高木の夢のなかに出てきた姿をなぞって、セットアップして撮影されたものだった。今回の操作によって、悪夢めいた禍々しい雰囲気が強まり、それが展示の全体にも奇妙に歪んだ磁場が生じるように働きかけていた。フレームに入れられた20点ほどの作品の周囲には、小さくプリントされた写真が撒き散らすように貼られているのだが、それらが呪符のようにも見えてくる。
どちらも工夫を凝らしたいい展示だが、彼女の写真の世界はもう一段階スケールアップしていくのではないかと感じる。力作をこれだけ見せられても、まだ潜在的な可能性を全部出し切っているようには思えないのだ。高木にとっては、ここから先が正念場になるだろう。

2010/02/22(月)(飯沢耕太郎)

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