artscapeレビュー
渡邊聖子「否定」
2010年03月15日号
会期:2010/02/23~2010/02/28
企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]
どちらかというと「ゆるい」写真展が多い明るい部屋の企画にしては、洗練と緊張感のバランスがほどよく保たれている展示だ。渡邊聖子は昨年の「写真新世紀」で佳作に入賞している若手女性作家だが、これまでは自分の方向性をひとつにまとめ切れていない迷いが見られた。ところが今回の展覧会では、確信を持って作品を選び、会場を構成している。自分のなかで、何か吹っ切れたところがあったのではないだろうか。
展示はテキストと写真の二つの部分に分かれる。テキスト部分では、まず「鏡を見なくてもわかる/今、あなたはうつくしいはずだ」という文章が提示され、それが二重、三重に否定されていく。それと対置されているのが、家の近くの道端でほとんど無作為に拾ってきたという石をクローズアップで撮影し、A3判くらいの大きさに引き伸ばした7点の写真で、テキストにも写真にもちょうどその大きさにカットされた板ガラスが被せられている。渡邊の意図を完全に読み解くのはむずかしいが、テキストと写真が相補うことで、モノクローム─カラー、確かさ─不確かさ、揺らぐもの─固定されているものといった対立軸が生まれ、見る者を思考の迷路に誘い込んでいく。その手つきに、迷いがないので、タイトルとは逆に「これでいいのだ」と思わされてしまう。いつのまにか否定─肯定という対立軸を含めて、その関係性がなし崩しに解体し、同じ現象の裏と表のように見えてくるのだ。
今回の展示は、彼女の飛躍のきっかけになりそうだ。そののびやかな構想力、思考力をさらに積極的に展開していってほしい。
2010/02/24(水)(飯沢耕太郎)