artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
大・開港展

会期:2009/09/19~2009/11/23
横浜美術館[神奈川県]
横浜港開港150年を記念する展覧会。サブタイトルに「徳川将軍家と幕末明治の美術」とあるように、お約束のペリーの肖像画やベアト撮影の写真、歌川(五雲亭)貞秀の横浜浮世絵はもちろん、横浜とは直接関係ない幕末・明治のビザールな美術工芸品もたんまり出ていてうれしい。高橋由一の《美人(花魁)》や、初代宮川香山のスーパーリアリズム高浮彫陶器もある。珍しいのは最後の将軍徳川慶喜の描いた油絵(由一より早い!)と、慶喜をはじめとする徳川家を描いた川村清雄の肖像画。川村は幕府御庭番(庭掃除をするのか)を務めた旗本の家に生まれたため徳川家とつながりがあり、勝海舟が将軍の肖像画制作を斡旋したという。こりゃ開国博よりずっとおもしろいしタメになる。って開国博は見なかったけど。
2009/11/02(月)(村田真)
ムラギしマナヴ「水墨画と武者絵展」

会期:2009/11/01
Id Gallery[京都府]
10年をかけて描き溜めてきた武者絵(!)と、それとは異なる趣きで描いた水墨画を発表。1日だけの個展だったので諦めかけていたけれど、運良く見逃さずにすんだ。空間にところせましと展示されていた武者絵がとにかく凄い。サムライ(?)の表情やその動作の描写、生々しい筆致に目が吸い寄せられる。画面から言葉や音が飛び出てきそうな画力の説得力に感動。水墨画は円山派や狩野派の絵画のイメージと重なるものが多く、記憶をくすぐる。描かれた動物や人物のモチーフがまたチャーミングなのでやたら笑いがこみ上げるのだが、強烈だったのは「お金かしてください」という筆書きとともに描かれた微妙な表情の子犬の絵。何の絵のモチーフだったかとモヤモヤしていたら、その日の晩、一緒に会場を訪れた友人から「これか?!」と円山応挙《朝顔狗子図杉戸》の画像つきのメールが届いて嬉しくなった。史実や、その脈絡を整理したうえで描かれたスケッチも半端な量ではなく圧巻。絵の巧さやウィットに富んだユーモアセンス、それに丁寧な仕事ぶりに裏打ちされたムラギしさんの偏執的な面がうかがえる魅力的な個展だった。
2009/11/01(日)(酒井千穂)
原久路「バルテュス絵画の考察」

会期:2009/10/27~2009/11/01
なんとも不思議な作品。静謐な雰囲気のモノクロームのポートレートが並んでいるのだが、それらは皆どこかで見たような印象を与える。それもそのはず、すべて「20世紀最大の画家」バルテュスの作品の構図をそのままなぞり、モデルを使って活人画風にその場面を再現しているのだ。とはいえ、フランスの豪奢な邸宅は日本家屋に置き換えられ、モデルはセーラー服や学生服を着ていて、背景の家具・調度もそれぞれ別なものになっている。だが全体としてみると、バルテュスの《居間》(1942/47)、《美しい日々》(1944/49)、《本を読むカディア》(1968)などの作品の雰囲気は、とてもよく再現されているといえるだろう。そのエッセンスにかなり深く肉迫しているように感じられるのだ。
作者の原久路がなぜこんな作業を思いついたのかは知らない。どちらにしても、絵画の画面を写真に移し替えていくのには、大変な手間と時間がかかり、繊細な集中力が必要だったことは容易に想像がつく。「絵画の空気遠近法を表現するために」、テレビの撮影などで使う濃縮した液体で霧を発生させる機械を利用しているのだという。また、バルテュスの絵のポーズは実際にやってみると、かなりアクロバティックで無理な体位のものが多いのだそうだ。そんな苦労を楽しみつつ、細かな作業に無償の情熱を傾けている様子が、画面からじわじわと伝わってきた。絵画と写真の独特のハイブリッド様式のスタイルが形をとりつつあるように見える。
2009/11/01(日)(飯沢耕太郎)
笹倉洋平 展「ツタフ」

会期:2009/10/27~2009/11/08
neutron kyoto[京都府]
笹倉洋平の新作展。笹倉の作品は採光や照明、展示空間の特徴などによって印象がまったく違ってくるため、展示がたいへん難しいと思われるが、今展でも時の経過や変化の絶えない自然の事象を連想させる圧倒的な線の力を見せていた。縦横無尽に黒い線が画面を駆け巡る、一見極めて自由奔放なイメージの表現だが、至近距離で見ると、不気味なほど神経質で繊細な描写がうかがえるのが面白い。止まることなく脈々と体内をめぐる血管のようでもあり、キラキラと水面が輝く海の光景のようでもあり、いずれにしろ触れられない脆弱さと圧倒的な力強さが混在する。京都に続き、東京でも新作展を開催。次はどのような空間になるのかとても気になる。
2009/10/31(土)(酒井千穂)
過去に存在した(美術教育の)未来──木水育男の児童画教育の例

会期:2009/10/28~2009/11/08
木水育男という方を私は知らなかったが「我が家の玄関に子どもの絵を」と提唱し続けた教育者で、展覧会は、その50年余り前の美術教育と児童画の例を展示するという内容。海辺の地域の人々の仕事の様子、学校生活、針仕事をする母親など、日常の一コマを観察しながら描いた子どもの作品は、どれも丁寧に描き込まれていてじつに生々しい。こんなにも嬉しさや切なさなどの感情が画面ににじみ出るものなのかと思い知らされる味わいがあり引込まれていくものが多かった。急に風が冷たくなった日に見たせいもあるだろうが、冷たい指先が温まっていくような感覚を覚えて打たれる展覧会だった。
2009/10/31(土)(酒井千穂)


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