artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

LINK──しなやかな逸脱

会期:2009/10/03~2009/11/23

兵庫県立美術館[兵庫県]

信楽から船に乗って神戸に着いた。ウソ。石山からJRに乗って来ましたよ。ただ、京都で新幹線に乗り換えて新神戸まで行ったのは失敗だった。新快速で直接三宮まで行ったほうがずっと安く、時間もそれほど変わらなかったからだ。よし次回は新快速だ。ってもう2度とミホまで行くか。「リンク」は神戸ビエンナーレの1企画で、招待作家部門という位置づけらしいが、街を活性化させようと始まったビエンナーレなのに、美術館内でやるってのもどうよ。しかも出品作家12人のうち絵画が4人を占めていて、なんか内向きでないか。そんななか、唯一美術館を外に開こうとしたのが島袋道浩だ。美術館の手前の海に面した巨大な地下施設を開放したのだ。この空間は雨水をためる貯水槽のような役割をはたしているらしく、鍾乳洞のようにつららまで垂れ下がっている。入口でヘルメットを渡され、「事故があっても知らないよ」みたいな誓約書にサインさせられて入っていく。美術館のバックヤードツアーというのはあるが、これは美術館とは直接関係ない施設。よく開放したもんだ。

2009/11/13(金)(村田真)

若冲ワンダーランド

会期:2009/09/01~2009/12/13

ミホ・ミュージアム[滋賀県]

日帰りで滋賀県の山奥のミホ・ミュージアムと神戸ビエンナーレを見てしまおうという無謀な旅。まず朝一の新幹線で京都に出て、琵琶湖線で石山まで戻り、バスに50分ほど揺られて信楽の里に到着。バスは1時間に1本しかないので、これを逃すと神戸に行けなくなるのだ。さすが宗教団体のやってる美術館だけあって、桃源郷をイメージしたというロケーションといい、トンネルをくぐって美術館に着くアプローチといい、I・M・ペイ設計のなかば地中に埋もれた建築といい、まるで別世界に来てしまったよう。若冲展は辻惟雄館長の肝煎りだけに、「皇室の名宝」展に出ていた《動植綵絵》を除く代表作の大半を集めましたって感じで恐れ入る。ただ、会期が長いだけに展示替えも多く、いっぺんに見られないのが残念だが。目玉は同展開催のきっかけとなった新発見の《象と鯨図屏風》。オバQみたいな白象と、潮を吹く黒い背中だけしか見えない鯨の対比図で、冗談で描いたとしか思えない。近年、商売や人づきあいが苦手だから絵に走ったとする「若冲=おたく」説が修正を迫られているが、しかしこの絵を見る限り若冲は、フツーの人から「どこ見てんだ?」「なに描いてんだ?」とツッコまれるボケ役として尊敬されていたに違いない。

2009/11/13(金)(村田真)

アジア現代美術展──「ただいま」

会期:2009/09/05~2009/11/23

ギャラリーアートリエ[福岡県]

第4回福岡トリエンナーレと同時期に同建物内で催された展覧会。九州大学文学部の後小路雅弘教授の研究室で学ぶ学生たちが企画した。彼らに選び出されたアーティストは、同トリエンナーレの選考からもれたアジアのアーティストたちから選び出された6人と、日本人のアーティスト2人を加えた、合計8人。狭い空間とはいえ、それぞれ力のある作品が展示された。おおかたの作品に通底しているのは、日々の凡庸な日常にたいする鋭い意識。凡庸な日常風景を切り取った断片を短い映像で淡々と見せる鈴木淳は、彼のライフワークともいえる《だけなんなん/so what?》を、角田奈々は実母の生き様を写真に収めた《狭間》を、それぞれ発表した。なかでもひときわ際立っていたのが、マレーシアから参加したクリス・チョン・チャン・フイ。その映像作品《B棟》はクアラルンプール郊外の団地を一日中ワンカットで延々と撮影し続けたもの。視覚的には共同の廊下や階段を行き交う人びとが小さく見えるだけだが、聴覚的には彼らが交わす言葉や音楽、あらゆる類の生活音などが建物の内外から聞こえてくるので、そこでじつに多様な人びとが暮らしていることがリアルに伝わってくる。日中は主婦たちの世間話や子どもたちの歓声が多いが、夜になると扉を華やかに彩る電飾や廊下から打ち上げられる花火に驚かされ、恋人たちが愛の言葉を囁きあい、やがて鈴虫の音色が夜の空気にこだまする。日常に否定的に介入するのでもなく、安易に肯定するのでもなく、ただ日常そのものを即物的に記録した映像でありながら、じつに豊かな人間の営みを浮き彫りにしてみせた傑作である。

2009/11/13(福住廉)

浅井裕介+狩野哲郎「ジカンノハナ」

会期:2009/11/06~2009/11/28

黄金町スタジオ[東京都]

「時間の花」はミヒャエル・エンデの『モモ』に出てくるモチーフ。浅井も狩野も増殖する植物がテーマなので重なるのだろう。浅井は相変わらず壁にマスキングテープを貼った上に植物ドローイングを延ばしていくほか、ガラス窓に泥絵を描いている。狩野はその隣の部屋に種を山積みして発芽させ、ニワトリを放し飼いしている。浅井のドローイングが狩野の部屋に侵入し、狩野のニワトリが浅井の部屋に闖入する。この「越境感」がふたりの持ち味。

2009/11/12(木)(村田真)

代官山インスタレーション2009

会期:2009/11/01~2009/11/23

旧山手通り+八幡通り+中目黒周辺[東京都]

佳作はあっても、グランプリ該当作品なしという印象だ。小さなビルの屋上にカツラをのせた高橋寛の《他知人》には思わず笑ってしまったが、だからどうだってことでもないし、仮囲いに鏡をはって壁に穴を開けたように見せる武田慎平らの《向こう側》は、一瞬オープンな気分にさせてくれるが、しょせんトリックアートだし、階段の垂直面に地層を現出させた小林祐+小林麻梨菜の《代官山ローム層》には準グランプリをあげたいが、根拠が希薄。で、ほんとの受賞作は、最優秀賞が高橋寛、審査員特別賞が小林祐+小林麻梨菜でした。当たらずも遠からず。

2009/11/12(木)(村田真)