artscapeレビュー
第1回所沢ビエンナーレ美術展 引込線
2009年11月01日号
会期:2009/08/28~2009/09/23
西武鉄道旧所沢車両工場[埼玉県]
昨年の「所沢ビエンナーレ・プレ美術展」に続いて、同じ時期に同じ会場で催された美術展。前回と同じコンセプトにもとづきながらも、参加作家を大幅に増やし、展示スペースも増床して、かなり大規模な展覧会となった。ベテランから中堅、新進のアーティストまで37名による作品を3つの会場に分けて展示していたが、なかでもすぐれていたのが前回では使われていなかった第3会場。直線の線路に沿った細長い空間だが、その空間的な特性を巧みに利用した秀作が多かった。トーチカなど戦争の遺構を撮るシリーズで知られる写真家の下道基行は、戦争で使用されていた滑走路の現在の写真と、その現場を記す地形図をあわせて発表したが、写真と地図のなかの滑走路と会場の床に敷かれたレールをパラレルにあわせることで、写真と地図に閉じ込められた空間的な奥行き感に、よりいっそうの拡がりをもたらしていた。巨大な織物を2枚、空間に垂れ下げた手塚愛子も同じようなセンスが伺えるが、そうしたセンスとはまったく無関係に、この会場でひときわ異彩を放っていたのが増山士郎。会期中の全般にわたって、夜間は運送業のアルバイトに出掛け、日中は会場内に設置した小屋で睡眠をとるというパフォーマンスをおこない、その面接の様子を記録した音声と映像のほか、履歴書や業務契約書、バスの時刻表など細々とした書類も一挙に発表した。契約していた海外のコマーシャル画廊がつぶれ、なくなく日本に帰ってきた増山を待っていたのは、住む場所も働く場所もない、まさに貧困問題だったが、増山の作品がすぐれているのはそうしたリアルな問題をまざまざと見せつけると同時に、おのずと問題への対策をも提示しているからだ。面接で「自分の性格を一言でいうと?」と聞かれ、さんざん迷った挙句「……体力です」と答えた増山には、貧困を乗り越えていくたくましさがある。
2009/09/22(火)(福住廉)