artscapeレビュー
松本陽子/野口里佳「光」
2009年09月15日号
会期:2009/08/19~2009/10/19
国立新美術館[東京都]
絵画と写真、2人の女性アーテストによる2人展。松本に「光は荒野のなかに輝いている」(1992~93)というシリーズがあり、野口にも「太陽」(2005~08)というシリーズがあるなど、一応「光」というテーマがゆるく設定されているが、実際には2人の独立した回顧展といってよい。
野口は1990年代の「フジヤマ」(1997)から近作の「虫と光」(2009~)まで、意欲的に作品の幅を広げ、ライトテーブルを使ったインスタレーション(「白い紙」2005)や、島袋道浩との共同制作のビデオ作品(「星」2009)などさまざまな手法にチャレンジしはじめている。ちょうど伊島薫の太陽の作品を見た後だったのでより強く感じたのだが、照明を暗く落とした部屋に、スポットライトをあてて作品を見せる「太陽」のインスタレーションなどを見ると、野口と伊島の世代では、展示の意識と仕上げにかなり差がついてしまっているように感じる。90年代以降、印刷媒体からギャラリーや美術館での展示に作品の最終的な発表の媒体が変わったことの影響とその消化のあり方の違いが、端的にあらわれてきているのだ。
もう一つ松本の作品を見ながら考えたのは、同じく「光」を扱うにしても、絵画と写真ではその見え方が違ってくるということ。絵画は「光」を現在形で、その生成や変化の相でとらえることができるのに対して、写真はどうしても過去形、「かつてあった出来事」としてしか定着することができない。それを何とか「生まれつつある」形で提示するために、野口はさまざまな工夫を凝らしている。ブレ、ボケ、滲み、ハレーション──論理的で明晰な構造を備えた野口の作品にそのような「揺らぎ」が付加されているのはそのためなのだろう。
2009/08/23(日)(飯沢耕太郎)