artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

原口典之 展「社会と物質」

会期:2009/05/08~2009/06/14

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

原寸大に再現されたスカイホークの尾翼、10×5メートルの廃油のプール、重さ10トンの巨大ゴムチューブ……。重厚長大の代名詞みたいな作品群が質実剛健な倉庫空間に、ようやく終の住処を見つけましたみたいな風情で鎮座している。たとえば、3階の部屋を仕切る黒い鉄の扉の向こうに、黒い正方形のポリウレタン作品が並んでいるのは偶然ではないはず。作品と建築がいたるところ共鳴しているのだ。もうこのまま原口典之美術館にしてしまったらどうだろう。

2009/05/08(金)(村田真)

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田口和奈「そのものがそれそのものとして」

会期:2009/04/11~2009/05/23

ShugoArts[東京都]

HIROMIXの展示の一階下、ShugoArtsに回って田口和奈の個展を見る。どうやら完全に突き抜けてしまったという印象。
キャンバスに絵を描き、それを撮影して大判のプリントに焼き付けるという手法は、まさに写真と絵画のハイブリッドで、見る者を混乱させるとともに批評言語的にもうまく収まりがつかない。とはいえ、今回の展示では技術的に洗練の極みに達するとともに、テーマがこれまでのような「肖像」ではなく、文字通り「宇宙」に拡大してしまったことで、作品=被造物としてのとんでもない凄みが生じてきている。こうなると、もはや写真でも絵画でもどちらでもいいのではないだろうか。
146.7×120cmの画面に撒き散らされた星々は、「失ったものを修復する」と名づけられているが、これはどうやら印画紙の上に、さらに白い顔料で網点状のイメージが描き加えられているためらしい。この「修復」によって、画面にはさらに二重三重の点滅する奥行きがあらわれ、見続けていると頭がぐらぐらしてくるほどだ。この魔術的空間は、オーストラリアのアボリジニの絵画を思わせる。アボリジニたちは「ドリームタイム」と呼ばれる瞑想状態に入り込むことによって「エネルギー場にひたされた原型の状態」(中沢新一)を経験し、それを図像化しようと試みる。どうやら田口も、彼女なりの「ドリームタイム」に突入しつつあるように思えるのだ。

2009/05/07(木)(飯沢耕太郎)

HIROMIX「Early Spring, Brighten of Your Mind」

会期:2009/04/11~2009/05/16

hiromiyoshi[東京都]

1995年に「写真新世紀」でグランプリを受賞し、その後まさに写真界の寵児となったHIROMIX。だが2000年代以降はその活動が鈍り、影の薄い存在になっていた。イノセントさと脆さをあわせ持つ彼女にとって、写真やアートの世界はあまり生きやすい場所ではなさそうだ。
その彼女のひさしぶりの個展。清澄白河のhiromiyoshiの会場で作品を目にして、ちょっと泣きそうになった。そこにあるのは、キラキラ輝く光の粒子に包み込まれたポートレート、静物(花)、風景である。それに自作のイラストが加わり、男性モデルをやはり光に溶け込ませるように撮影した映像作品も上映されている。写真作品は基本的に彼女の第二作品集『光』(ロッキングオン、1997年)の延長上にある。変わっていないというのが最初の印象だったが、会場にずっといるうちにその「光」の質がまるで違うことに気づいた。以前は子どもがはしゃぐように、さまざまな物理的な光の変化に感応していただけに過ぎないが、今回の展示にあふれているのはむしろ「内在的」といえるような感触の光だ。HIROMIXは祈りのようにその輝きを抱きとっている。
ここでは書ききれないが、僕はHIROMIXの仕事を、1970年代に成立する「純粋少女漫画」の系譜の正統的な後継者と位置づけている(PHP新書で刊行した『戦後民主主義と少女漫画』を参照)。「乙女ちっく漫画」風の彼女のイラストを見れば、その影響関係は明らかだろう。写真や映像の中で、キラキラ瞬いている光は、少女漫画の主人公の瞳の中で輝いているのと同じものだ。

2009/05/07(木)(飯沢耕太郎)

日本の美術館名品展

会期:2009/04/25~2009/07/05

東京都美術館[東京都]

全国約100館の公立美術館から、選りすぐりのコレクション計220点を集めた名品展。なんの意味があるのかと思ったら、美術館連絡協議会(美連協)の創立25周年記念ということらしい。しかし「さすがに名品が集まった」とは残念ながら思えず、「なんだ、かき集めてもこの程度か」というのが正直な感想。これぜーんぶ合わせたってヨーロッパじゃ三流美術館だろうなあ。セガンティーニ(ふくやま美術館)、エゴン・シーレ(豊田市美術館)、ピカビア(広島県立美術館)、岸田劉生(新潟県立近代美術館万代島美術館)、甲斐庄楠音(広島県立美術館)など興味深い作品もあったが。

2009/05/07(木)(村田真)

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鷹野隆大「おれと」

会期:2009/04/28~2009/06/09

NADiff Gallery[東京都]

そのまま地下のNADiff Galleryへ。いつもながら、ぬけぬけとしたタイトルの鷹野隆大の個展である。仰々しい金ぴかやシルバーの額縁におさまった、4×5インチサイズのコンタクトプリントが、壁にずらりと並んでいる。大部分は彼がこれまで発表してきたメール・ヌードのシリーズの副産物というべきもので、全裸のモデルと鷹野本人(こちらも全裸)が、肩を組み、腰に手を回してカメラを見つめる、記念写真的なポートレートである。
なぜこんなことをやろうと思いついたのかはよくわからないが、生真面目さと戸惑いを含んだ表情でこちらを向く二人の表情やポーズが、妙に間をはずしていて笑いを誘う。こういう写真はとかく自虐的になりがちなのだが(深瀬昌久の、互いの舌を搦ませた「ベロベロ」がそうだった)、鷹野がやると風通しのよい「いい加減の」ポートレートに仕上がっている。彼の高度なコミュニケーション能力が的確に発揮された、小品だが味わい深いシリーズだった。なお、ページをめくって動画のような効果を楽しむ写真集『ぱらぱら マリア/としひさ』(Akira Nagasawa Publishing)と『ぱらぱら ソフトクリーム/歯磨き』(同)も同時に発売された。

2009/05/06(水)(飯沢耕太郎)