artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

カン・アイラン 鏡─ユートピアとヘテロトピアの間

会期:2009/05/01~2009/05/31

eN arts[京都府]

カン・アイランの作品といえば、書籍の形をした発光するオブジェ。半透明のプラスティック製ボディの中にLEDが仕込まれたものだが、技術の発展につれて作品の説得力が増していることを本展で実感した。なかには文章が表示される作品もあり、一瞬ジェニー・ホルツァーを連想したのだが、カンの場合は書籍の文章をそのまま表示しているのだった。これは、男尊女卑の気風が今なお残る韓国にあって、知性を得る手段であり、自身の内面を鍛えて自立するためのツールだった書籍に対するオマージュなのだとか。ただ、技術面の進化により発色が著しく向上しており、テキスト以上に色彩が主張しているようにも感じられた。かつて作曲家のスクリヤビンが音楽と色彩の融合を目指したように、彼女の作品も色彩による神秘主義的な表現が見込めるのかもしれない(本人がそれを望むかは不明だが)。

2009/05/02(土)(小吹隆文)

森太三「世界の果て」

会期:2009/04/11~2009/05/03

PANTALOON[大阪府]

オープンが17時ということもあって訪れたのは日も沈みかけた頃。展示はこれまでも森が発表してきた見立ての「風景」だが、雪に覆われた大地を俯瞰するようなイメージもあるこの作品は、その都度、観る者の視線の導線を意識した演出になっていて、空間や観る時間帯によっても表情がそれぞれ異なるため、毎回新鮮な印象と趣きが感じられる。今回は民家を改築した吹き抜けの空間が特徴的な会場。天井から雨粒のような数珠状の玉がぶら下がっていて、視線は必然的に上方へと向かう。誘われるように2階へ続く階段を上ると山脈のように連続する起伏が床面に広がるインスタレーション。白いカーテン越しに射し込む鈍い光が起伏の連なりをいっそう幻想的に見せていた。一方、閉め切られた真っ暗な空間の窓にときどきピカっと稲妻のような閃光が走る作品は新しい試み。静かに移ろう時間を意識させる起伏の作品とは対照的だ。素材や手法は特別なものではないが、どちらもこれから何かが起こるという期待と、兆しを感じさせて演劇を見ているようだった。

2009/05/01(金)(酒井千穂)

梅田哲也 迷信の科学

会期:2009/04/25~2009/05/23

オオタファインアーツ[東京都]

アーティスト・梅田哲也の個展。照明を落とした空間に、既製品を組み合わせた作品がひそやかに点在していた。ゆっくりと回転する扇風機の羽が微かに散らす火花を見下ろしていると、工作に没頭していた幼少期の記憶が呼び起こされるかのようだった。

2009/05/01(金)(福住廉)

万華鏡の視覚──ティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションより

会期:2009/04/04~2009/07/05

森美術館[東京都]

内覧会ではうかつにも見逃してしまったが、傑作があった。それは、リテュ・サリンとテンジン・ソナムによる《人間の存在に関する問答》(2007年)という作品。チベット仏教の修行僧たちが繰り広げる弁証法的な問答を映し出す短い映像作品だが、これがほんとうにおもしろい。一方の修行僧が両手を打ちながらテンポよく次々と問いを発し、軽いプレッシャーを与えながら他方の修行僧に応えさせる訓練法だ。三段論法にもとづいているらしいが、おもしろいのはその応酬の論理的な整合性というより、むしろそのやりとり自体がある種の「芸」として研磨されているところ。文字どおり坊主頭の修行僧たちは一見するとどれも同じように見えるが、彼らの所作や身ぶり、言葉づかいを注意深く見てみると、ある一定の型式を踏まえながらも、それぞれ異なる「芸」を身につけていることがよくわかる。こんな修行であれば、ぜひやってみたいと思わせるほど、楽しそうだ。

2009/04/29(水)(福住廉)

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no name kyoto

会期:2009/04/26~2009/05/05

元立誠小学校[京都府]

3月に横浜のZAIMで行なわれた同展が、GWの京都でも開催。キュレーターによる企画展ではなく、作家主導で幅広い表現が見られるとあって、個々の作品に注目して鑑賞した。私にとって馴染みの薄い首都圏の作家に興味が偏ってしまったが、特に加藤翼の作品は面白かった。それは、巨大な幾何学形態のオブジェを大勢の人間が力を合わせてひっくり返すというものだ。オブジェを倒す行為に必然性があるのかはともかく、倒れた瞬間は見ているこちらもカタルシスに包まれる。今回は映像だったが、一度生で見たいものだ。

2009/04/29(水)(小吹隆文)