artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
西澤諭志「写真/絶景 そこにあるもの」

会期:2009/05/01~2009/05/27
INAXギャラリー[東京都]
小山泰介の「entropix」の世界を、もう少し引き気味に見渡すと西澤諭志の「絶景」になる。ここから見えてくるのも、合成樹脂に覆いつくされてしまった表層の連なりだ。若い世代が嗅ぎつけた世界の見え方が、どうやらはっきりと形をとりつつあるようだ。
撮影場所は、彼が在学していた東北芸術工科大学の校舎内らしい。テーブルや椅子、ソファ、プラスチックのバケツ、ブラインド──何の変哲もない、決して高級ではない(かといって安物でもない)日常的な家具が配置された光景が、大判カメラで切り出され、ほぼ等身大まで引き伸ばされてインクジェットプリントに焼き付けられている。ところが、壁に残るテープの貼り痕、積み上げられたソファ、テーブルの上の傷、ブラインドの向こう側にちらりと見える人の影などが、意味付けの一歩手前くらいで宙吊りにされていて、なぜか心をざわめかせる。そのたたずまいは、見方によっては現代美術のオブジェのようでもある。場所を特定する情報を巧みにカットし、「どこでもないが、どこでもありそうな」眺めを画面に再構築していく手続きがなかなかうまい。
このシリーズをどんなふうに展開していくのか。小山泰介もそうなのだが、次の一歩の踏み出し方が大事になってきそうだ。
2009/05/16(土)(飯沢耕太郎)
原口典之 展 社会と物質

会期:2009/05/08~2009/06/14
BankART Studio NYK[神奈川県]
1970年前後の東京を中心に展開した美術運動「もの派」。その代表的な美術家として知られる原口典之の大々的な回顧展が、神奈川県横浜市のBankART Studio NYKで開催中だ(6月14日まで)。
展示された作品はどれも力強い存在感を放っている。「ファントム」は、ベトナム戦争で出撃した戦闘機の尾翼部分を実寸大で再現した巨大な立体作品で、「オイルプール」は大きな長方形の型に廃油をなみなみと湛えた原口の代表作だ。いずれも、倉庫を改装した広々とした空間に負けず劣らず、圧倒的な迫力を誇っている。
けれども、その存在感は素材の物質的な重量だけに由来しているわけではない。たしかに「ファントム」の機体は見上げるほど大きいが、アルミニウムの表皮の内側には最低限の構造しかないから、ハリボテのような軽薄さも感じさせる。
海底ケーブルに使われるという巨大なゴム管を輪切りにした立体作品も、素材からは想像できないほどの硬度と重量が見る者を圧迫する一方で、中心が空洞であるせいか、その先に広がる会場外の海面を見通すと、爽快感すら覚えるほどだ。
重さと軽さ、中身と表面。原口作品の圧倒的な存在感は、こうした物質の両義性にもとづいている。ものそのものを直接的に提示することによって、新しい世界のありようを開示するという点でいえば、たしかに「もの派」の作品にはちがいない。しかし、それだけなのだろうか。
鏡面のように世界を対称的に映し出す「オイルプール」を覗きこむと、反転した天井の像であるにもかかわらず、床下にもうひとつの世界が広がっているように錯覚してしまう。そのクリアなイメージは、空間との関係性を重視する「もの派」の作法とは対照的だ。だとすれば、原口作品は「もの派」という美術運動よりはるかに深い、人類にとっての根源的な原点を探り当てているのではないだろうか。洞窟壁画の前に集まっていた原始人たちは、躍動する動物たちを岩壁に描きつけることで、つまり物質の両義性を開示することによって、豊かなイメージを励起させていたにちがいないからである。
2009/05/16(土)(福住廉)
Chim↑Pom 捨てられたちんぽ
会期:2009/05/16~2009/05/17
ギャラリー・ヴァギナ(a.k.a.無人島プロダクション)[東京都]
Chim↑Pomの新作が二日間限定で急遽公開された。ホワイトキューブに仕立てられた会場に入ると、正面の壁に、ただひとつ、男性性器がとりつけられている。「よくできたFRPだな」と感心していたら、時折ニョキニョキと動き出したから「電動仕掛けにして工夫したのかな」と思ったけど、よくよく考えてみたらChim↑Pomがそんな手の込んだ機械をつくるわけがない。そこで初めて気がついた。おい、水野! おまえ、壁の向こうからちんぽだけ出してるだろ! そう、この作品は文字どおりChim↑Pomにとっての原点回帰を告げる記念碑である。いろいろあったけど、初心忘れるべからず。もう一度ここからやり直そう、ということなのだろう。
2009/05/16(土)(福住廉)
遠藤一郎 個展「Super Canvas」
会期:2009/04/11~2009/05/16
清澄白川FARM[東京都]
未来美術家・遠藤一郎の個展。卒展を終えた後の美大で大量に廃棄されたキャンバスを会場の床や壁の全面に敷き詰め、その上におびただしい手形と、遠藤の十八番である単純明快なメッセージを描きつけた。美大生の集大成ともいえる絵画作品の上に踊る「未来へ」「旅は終わらない」という文字は、とくに明るい未来がないまま旅に出発しなければならない美大生への応援歌のように見えたが、ことは美大生に限るわけではないだろう。いまや誰もが同じように未来に向けた旅を続けなければならないからだ。
2009/05/16(土)(福住廉)
日野田崇 個展「変形アレゴリー」

会期:2009/05/16~2009/06/13
イムラアートギャラリー[京都府]
漫画の語法を大胆に導入した陶オブジェで知られる日野田。今回は、邪鬼らしきものを踏んづけてポージングする2体と、葱坊主のような1体、内と外の区別がない抽象的な形態のオブジェ2点、土下座のようなポーズで壁面に貼りつけられた1体などが出品された。オブジェの表面はグラフィティー調の絵で埋め尽くされ、刺青のよう。会場の床と壁面には、カッティングシートによる漫画のコマや記号を思わせる模様が貼られている。陶芸が持つ質感やリアリティを残しつつも、どんどん立体と平面が融合した世界へ進みつつある日野田の現状が良くわかった。
2009/05/16(土)(小吹隆文)


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