artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

インシデンタル・アフェアーズ──うつろいゆく日常性の美学

会期:2009/03/07~2009/05/10

サントリーミュージアム[天保山][大阪府]

日常のものごとの変化や偶発性をうつろいゆく美としてとらえる、という切り口で国内外17組のアーティストを紹介。会場ではじめに展示されていたのはヴォルフガング・ティルマンスの写真。小学生くらいの子どもと母親がどうやってつくったのかと話しながら熱心に見ている光景を目にして、今展のイントロダクションとしても成功していると思った。スナップ写真のイメージや曖昧な形態に、個人的な経験や記憶も重なり連想が広がる木村友紀のインスタレーション作品は、今展が狙いとしている美術の魅力や楽しさが集約されている。他の展示も映像、絵画、立体など、多岐にわたる内容でじっくりと見たい作品ばかりだ。毎日1時間おきに開催されるという10分間の「展覧会見どころトーク」にも参加してみた。時間も短いが、それでいて作品の解釈や理解に役立つポイントを押さえていてこのガイドもなかなか良かった! 間口は広いが質、量ともに十分満足できる内容だった。

2009/03/29(日)(酒井千穂)

「方法マシン」によるピアノ独奏『サーチエンジン─ピアニスト炎上─』

会期:2009/03/29

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

『複々製に進路をとれ 粟津潔60年の軌跡』展の関連企画として催された方法マシンの公開パフォーマンス。ネット上から無作為に拾い上げた楽譜をその場でプリントアウトし、それをピアニストの岡野勇仁がすぐさま演奏、使い終わった音符をシュレッダーにかけるというパターンをいくども繰り返した。タイトルにある「ピアニスト炎上」は、かつてじっさいに燃えるピアノを弾いた山下洋輔の過激なパフォーマンスを下敷きに、ネット上の「炎上」も含意されているらしいが、そのねらいはどうあれ、結果的には、残念ながら美術館における通常のピアノ演奏会のように見えてしまった。方法マシンのメンバーが音符をダウンロードするのに手間取り、妙な間ができてしまったのとは対照的に、ピアニストはどんな楽譜が来ようとも、即座に演奏してみせ、その卓越した技術力だけが際立っていたからだ。けれども、よくよく考えてみれば、コンセプトを練り上げる段階で、ピアニストが決して「炎上」しないことは明らかだったはずだ。これを前衛の衣を借りながらも、じつは穏当に遂行される公立美術館のパブリック・プログラムのひとつとしてとらえるか、それとも前衛を継承しようにも、それが不可能にならざるをえない時代の悲喜劇とみるかで評価は分かれるだろう。一観客の勝手な言い分をいっておけば、美術館で中途半端な前衛意識に彩られたピアノの演奏会を聞くくらいなら、たとえ前衛の焼き直しだと批判されるとしても、燃え盛るピアノを見てみたいし、その巻き上がる炎のなかで演奏するピアニストであれば、なおのこと見てみたい。

2009/03/29(日)(福住廉)

平町公「大谷の図」

会期:2009/03/15~2009/03/30

上野の森美術館ギャラリー[東京都]

VOCA展と同時期に開催された個展。たとえば三瀬夏之介の絵と比べると、いかにも大味な印象が否めないが、それでも空間の壁を埋め尽くした長大な絵巻は圧巻。簡略化されて描かれた人の姿が、どういうわけかみんな夢遊病者のように見えるのもおもしろい。

2009/03/29(日)(福住廉)

VOCA展2009 現代美術の展望─新しい平面の作家たち

会期:2009/03/15~2009/03/30

上野の森美術館[東京都]

40歳以下の平面の作家を対象とするVOCA展。選考委員は、毎年のように絵画の「貧困」「不作」「窮状」を嘆いてきたが、今回はVOCA賞の三瀬夏之介をはじめ、樫木知子、竹村京、高木こずえなど、新進気鋭の平面作家たちがそれぞれ力作を見せて、見応えがあったように思う。とりわけ、すばらしかったのが、淺井裕介と田中幹。淺井は、従来の「マスキング・プラント」のほかに、紙ナプキン(!)に描いた絵を発表していたが、まるでファミレスで描いたような素振りが、狭いアトリエで鬱屈としている平面作家たちには見られない、健やかなリアリティを感じさせた。「0」(ゼロ)のスタンプを無数に打ちつけた田中幹の絵は、平面の中に無限の宇宙空間を感じさせるという意味ではありがちといえるが、その一方で反復と増殖によって前面化させた0の物質性が、なにをやっても0に帰してしまう暗い虚無感を軽々と乗り越えるほど、すばらしく際立っていた。虚無を虚無のまま描くのではなく、それを前提にしていかに描写するのか、そのありうる解答のひとつを提示していたように思う。

2009/03/29(日)(福住廉)

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第12回岡本太郎現代芸術賞展

会期:2009/02/07~2009/04/05

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

今回はタムラサトル(特別賞)や井口雄介ら光りものも多かったが、坂口竜太や田中麻記子らまっとうな絵も多かった。岡本太郎賞は、巨大お札のインスタレーションと、剃りあげた後頭部に絵を描かせる捨て身のパフォーマンスの合わせ技を見せた若木くるみ、24歳。一見学芸会の余興っぽいが、後頭部を伝わって描かれた彼女自身のドローイングを見ると、なかなか達者な腕前であることがわかる。会期中ずーっと作品のなかにいるらしく、どうやらタダモノではなさそうだ。

2009/03/29(日)(村田真)