artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
入谷葉子

会期:2009/03/17~2009/03/29
neutron[京都府]
以前もシルクスクリーンの上に色鉛筆の線を重ねた作品を発表していたが、今回は油性の色鉛筆のみを使用。色面で構成した大画面の風景は入谷が昔住んでいた家の玄関や裏庭をモチーフにしている。玄関前やその周辺で撮影した複数の記念写真やスナップ写真をもとにしているが、ごくプライベートな思い出の抽出でありながら、見ているとその光景はこちら側の思い出まで引き出していく。いまはもう跡形もなくなってしまった昔の家の記憶は私にもある。裏庭で落ち葉や廃棄段ボールを燃やしたり、玄関を開けたときに漂ってくる夕飯の匂いなど、外観や雰囲気はまったく異なるのに、入谷の作品からはこれまでアルバムで見る写真からは思い出さなかった嗅覚の記憶がよみがえってくるようだった。鮮やかな色のインパクトも強く、ネガフィルムのような色面構成に想像の「余地」があるせいも大きいだろうが、それは写真よりもリアルな感覚だ。これまでと異なる今回の展開は入谷の作品に新たな魅力をもたらしていた。また次の機会が楽しみ。
2009/03/29(日)(酒井千穂)
六本木アートナイト

会期:2009/03/28~2009/03/29
六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館など[東京都]
夕方5時半ごろぶらぶら歩いて六本木ヒルズのアリーナへ。すでに、メタリックシルバーに輝く高さ7メートルもの《ジャイアント・トらやん》がひかえ、周囲はずいぶんな人だかり。まず、オープニングセレモニーにおエライさんたちがごあいさつし(最後は森美術館の南條史生館長)、ご来賓のご紹介……なんか「六本木アートナイト」のノリと違うなあと思っていたら、ヤノベケンジが登場。関西弁はややスベリがちだが、さすがツカミは心得ていて、あおるあおる。やがてトらやんの目が開き、ボワーッと火を吹く。おーっ。やっぱりデカくて芸がある作品はこういうとき強い、と、その後の開発好明や丸山純子の作品や、日比野克彦ディレクションの「キューブからの指令」などを見て思ったのだった。
六本木アートナイト:http://roppongiartnight.com/
2009/03/28(土)(村田真)
今井久美 写真展「カムフラージュ」

会期:2009/03/24~2009/03/29
アートスペース虹[京都府]
前回はおたく、ロリータ、古着、ギャルなど「○○系」とカテゴライズされるファッションをそれぞれに身にまとった若い女性たちの写真を発表。集団として群れる安心感や、特定の趣向のグループに属する自分を観察し、アイデンティティの問題にアプローチした今井。今回は街中の風景を背にした制服姿の女子高生を撮影していた。スカートやソックスの丈、ヘアスタイル、携帯ストラップやバッグなどの小物が、それぞれの個性やいまの流行を示しているが、今回は、個性よりも制服という制限を隠れ蓑に、むしろ目立たない、突出しないという没個性を望む潜在意識に焦点を当てている。今井はそこに自分の姿を重ねているのだが、そのような集団に自らの身を置き、「カムフラージュ」させていくことは意外と高度な技だし、繊細な面がなければできないことだ。コロコロとつねに変わりゆく流行をつねに観察し、情報に敏感でなければならないし。今展で、若い女子高生の写真から現在の流行をいくつか知ったのだが、そこで今井とは逆に「カムフラージュ」することに鈍感になっている自分に気づいた。
2009/03/28(土)(酒井千穂)
タノタイガ個展 T+ANONYMOUS

会期:2009/03/07~2009/03/29
現代美術製作所[東京都]
アーティストのタノタイガによる個展。風俗嬢に扮したセルフポートレイトのシリーズや、本人のデスマスクを陳列したインスタレーション、木彫りでヴィトンのバッグをつくり、そのフェイクを肩に掛けながらパリのヴィトン本店に潜入する映像作品などを発表した。一見すると、リアルとフェイクの境界を行き来しながら、アイデンティティのありかを模索しているように見えるが、しかし、展覧会のタイトルに暗示されているように、おそらくタノタイガが実践しているのは、唯一無比の存在証明を達成するための「自分探し」などではなく、自分なんてどこの誰でもありうるというニヒリズムの徹底ではないだろうか。だからこそ、ヴィトンのフェイクにもなれるし、風俗嬢にだってなりうるのだし、そうしたある種の柔軟性が生きやすさのヒントであるような気がした。
2009/03/27(金)(福住廉)
トム・フリードマン展“Not Something Else”

会期:2009/03/28~2009/05/02
小山登美夫ギャラリー京都[京都府]
500枚のドローイングを圧倒的なスピードで見せるアニメ作品《Ream》が鮮烈。見る者に考える暇を与えず、意味や解釈を加える以前の「体験」を味わわせてくれるからだ。自分の顔写真をくしゃくしゃに丸めたり皺をつけた《I am not myself》と、緑色の巨大なモンスター《Green Demon》は単純に笑えた。そして極めつけは、スタイロフォームの小さな球を無数に用いた《Island》。小さなピースは生物や社会を構成する単位を示しているようだが、関西出身の私には巨大なネギ焼きに見えてしょうがなかった。
写真:Tom Friedman, Island (2009)Styrofoam and Paint 97.5x95x95cm
2009/03/27(金)(小吹隆文)


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