artscapeレビュー

「方法マシン」によるピアノ独奏『サーチエンジン─ピアニスト炎上─』

2009年05月01日号

会期:2009/03/29

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

『複々製に進路をとれ 粟津潔60年の軌跡』展の関連企画として催された方法マシンの公開パフォーマンス。ネット上から無作為に拾い上げた楽譜をその場でプリントアウトし、それをピアニストの岡野勇仁がすぐさま演奏、使い終わった音符をシュレッダーにかけるというパターンをいくども繰り返した。タイトルにある「ピアニスト炎上」は、かつてじっさいに燃えるピアノを弾いた山下洋輔の過激なパフォーマンスを下敷きに、ネット上の「炎上」も含意されているらしいが、そのねらいはどうあれ、結果的には、残念ながら美術館における通常のピアノ演奏会のように見えてしまった。方法マシンのメンバーが音符をダウンロードするのに手間取り、妙な間ができてしまったのとは対照的に、ピアニストはどんな楽譜が来ようとも、即座に演奏してみせ、その卓越した技術力だけが際立っていたからだ。けれども、よくよく考えてみれば、コンセプトを練り上げる段階で、ピアニストが決して「炎上」しないことは明らかだったはずだ。これを前衛の衣を借りながらも、じつは穏当に遂行される公立美術館のパブリック・プログラムのひとつとしてとらえるか、それとも前衛を継承しようにも、それが不可能にならざるをえない時代の悲喜劇とみるかで評価は分かれるだろう。一観客の勝手な言い分をいっておけば、美術館で中途半端な前衛意識に彩られたピアノの演奏会を聞くくらいなら、たとえ前衛の焼き直しだと批判されるとしても、燃え盛るピアノを見てみたいし、その巻き上がる炎のなかで演奏するピアニストであれば、なおのこと見てみたい。

2009/03/29(日)(福住廉)

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