artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

第7回 新鋭作家展 見しらぬ故郷/なじみの異郷

会期:2018/07/14~2018/09/02

川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]

同展は「新鋭作家展」という公募展をベースとし、そこで選出されたアーティストの作品プランを1年近くかけて学芸員と揉み、市民たちに揉まれながら地域と関係づけていくプロジェクト型の展覧会。ぼくも審査員の1人だが、選んだ作品がそのまま展示されるわけではなく、ヘタしたら揉まれるうちに原形をとどめないほど変わってしまうかもしれないという、審査員にとっても恐ろしい展覧会なのだ。今回(昨年)選ばれたのは津田隆志と力石咲の2人。

津田は川口市内を流れる旧芝川をフィールドワークしつつ、川面に映る街の風景を撮影した写真の展示を中心に、フィールドワークで得た資料や映像などを公開するプラン。結果はほぼプランどおり、いやプラン以上の成果を上げていたように思う。会場を2つに分け、最初の部屋で旧芝川から引き上げた2台の自転車、空き缶をピンホールカメラに仕立てて街の風景を撮った写真、水鏡に映った市民のポートレート写真などを展示し、次の部屋でメインの川面に映る風景写真を天地逆にして並べた。審査の段階では後者の風景写真だけで十分だと思ったが、川から引き上げた自転車や水鏡によるポートレート写真を導入することで、川面の写真がより身近に、よりおもしろく見られるようになった。

力石は街で見つけた日用品を毛糸で編みくるむ《ニット・インベーダー in 川口》をはじめ、《リリアン建築》《空気を編み包む》の3案を提案したものの、時間的な制約のため《ニット・インベーダー》のみ実施。街の鋳物工場でつくられた印刷機やマンホール、だるまストーブ、市民から借りたギターや太鼓などを黄色いニットで全部または一部を包んでいた。よくがんばりましたが、これが街のなかにあればインパクトがあるけど、なにがあってもおかしくないアートギャラリーに展示すると目立たず、ただの「作品」にしか見えない。彼女の作品はストリート・アートこそふさわしい。ただ、川口の建築写真の一部を黄色い毛糸で編み包んだ作品は、クリストの完成予想コラージュも彷彿させ、別の可能性を感じた。

2018/07/27(村田真)

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画廊からの発言 新世代への視点2018

会期:2018/07/23~2018/08/04

ギャラリー58+コバヤシ画廊+ギャラリーQ+ギャラリイK+ギャルリー東京ユマニテ+ギャラリー川船+ギャラリーなつか+藍画廊+ギャルリーSOL[東京都]

熊谷で最高気温を更新する41.1度を記録したクッソ暑いなか、銀座・京橋の画廊巡り。ギャラリー58の渋川駿は、キャンバス布に内臓を描いて壁に100点ほどびっしりと張り巡らせ、床に古着を散乱させている。なにこれ? コバヤシ画廊の滝本優美は、S100号のキャンバスに絵具をベッタリつけた一見抽象画、でもよく見ればどれも風景画的な作品を6点。近所の風景だそうだ。ギャラリーQの清水香帆は、いまどきありがちな威勢のいいタッチと明るい色彩の絵画。ギャラリイKの鯉沼絵里子は、半透明のアクリル板を雲形に切って天井から吊るしたもの。奥にはその関連の商品があったが、そっちのほうがおもしろい。

ギャルリー東京ユマニテの向山裕は、相変わらず小動物をユーモラスに描いている。カモが雲の上から急降下する様子を描いた《失神》は、高く飛びすぎたため落下するところ。オシドリを真横から大きく描いた《私の彼》は、メスから見たオスの姿。ムササビが上下に重なってる《偶然》は、2匹のムササビが飛行したら文字どおり偶然に重なってしまったところ、だそうだ。おもしろい。ギャラリー川船の新野耕司は、ドライポイントによるポロックみたいなグルグル描き。地味だけど惹かれる。ギャラリーなつかのチョン・ダウンもドライポイントやエッチングを併用した版画で、稚拙に見えながら味がある。藍画廊のしばたみつきは、床から天井まで10本ほど粘土製のつっぱり棒を立てている。天井まで届いていないもの、途中でコブのあるもの、ひび割れて内部の芯が見えているものなど荒っぽい。奥の部屋にはワインかなにかのコルクを削って壷にした小品が並んでいて、なかにはそれらを縦につなげたブランクーシの《無限柱》みたいな小品があって、それはよかった。ギャルリーSOLの北嶋勇佑は、食べ物や玩具など身近なものを色鮮やかに刷った木版画を展示。きれいに仕上がっているけど、版画に留まらず油絵に挑戦してほしいなあ。

2018/07/23(村田真)

山田實「きよら生まり島──おきなわ」

会期:2018/07/17~2018/07/30

ニコンサロン新宿 THE GALLERY1[東京都]

山田實は1918年、兵庫県生まれ。1920年に一家で故郷の沖縄に戻り、以後、中国大陸で終戦を迎え、シベリアに抑留された1941~53年を除いては、那覇で暮らして続けてきた。2017年に惜しくも亡くなったが、存命ならば100歳ということで、その「生誕100年」を記念して開催されたのが本展である。

山田は沖縄に帰った1953年から那覇で山田實写真機店を営み、沖縄写真界の中心人物のひとりとなった。東松照明をはじめとして、「内地」の写真家が沖縄を訪れたときに、さまざまなかたちで便宜を図ることも多かった。その傍ら、アメリカ軍統治時代から本土復帰に至る沖縄の人や暮らしを丹念に撮影し、厚みのある写真群を残した。今回展示された、金子隆一のセレクトによる1950~60年代のスナップ写真40点を見ると、山田のしなやかだが強靭な眼差しの質がくっきりと浮かび上がってくる。どの写真を見ても、被写体を細部までしっかりと観察しながら撮影しているているのがわかる。例えば少女がコカコーラのマークが入っている缶で水浴びをしている写真があるが、山田は明らかにそこに目をつけてシャッターを切っている。一見穏やかな作風だが、じっくりと見ていくと、沖縄の社会的状況に対する怒りや哀しみが、じわじわと滲み出てくるような写真が多い。

山田を含めた沖縄の写真家たちの系譜を、きちんと辿り直す写真展をぜひ見てみたい。そろそろ、どこかの美術館がきちんと企画するべきではないだろうか。

2018/07/21(土)(飯沢耕太郎)

MONSTER Exhibition 2018

会期:2018/07/21~2018/07/25

渋谷ヒカリエ8/COURT[東京都]

渋谷のヒカリエにて、毎年恒例の「MONSTER Exhibition 2018」のオープニングに足を運んだ。筆者は公募の審査を担当しているが、今年は62組の作品が展示され、クオリティが高い技巧派も増え、賑やかな会場だった。なお、ほかの公募に比べると、怪獣を共通テーマとしながらも、アートとデザインが混ざっていることが大きな特徴である。建築家を含むユニットも2組入選していた。怪獣の足跡にどのような風景を生まれるかを模型で表現したirikichi.と、都市の皮膜をコロコロ(粘着クリーナー)で採取する加治茉侑子/佐藤康平である。いずれもアイデアは面白いが、アート作品そのものが並ぶ会場に置かれると、展示物としてはやや弱かった。一次審査のとき、黄色マニアのイラストレーター、kyo→koはかなりインパクトをもっていたが、会場のドローイングは思いの外おとなしく(作家のほうが強烈)、もっと大きなサイズで徹底的に黄色を使っていれば、良かったかもしれない。

やはり建築だけでなく、写真やイラスト系では、実空間における展示で見ると、アート比べて弱さが生じてしまう。さて、一般を含む投票で決まる最優秀賞は、サイコロ・アートの高島亮三だった。これはコンセプチュアルな作品だが、大量の本物のサイコロを使うことで、モノとしての強度も兼ね備えていた。今回、会場を4周して、個人的に強い印象を受けたのが、おねしょの記憶を引きずる川平遼佑のパンツ絵画であり、作家の切実さを感じる作品だった。懇親会でも、各作家の講評は続いた。昨年は凄いドラゴン女子(中日ではなく、竜が大好き)に感心させられたが、今年は1年かけて国立の銭湯の軒先の生きた木の幹に直接、高さ7mの仏像を彫った仏師、西除暗の作品に驚く。今回の出品作ではなかったので、写真を見せてもらうと、仏像の頭の上から木が生えているようだ。美大卒でないが、あるとき仏像に開眼し、彫るようになったという。現代の円空である。こうした思わぬ逸材に出会えるのが、MONSTER Exhibitionの楽しみだ。

会場風景


高島亮三


川平遼佑(左)、西除暗(右)


2018/07/20(金)(五十嵐太郎)

内倉真一郎「十一月の星」

会期:2018/07/13~2018/08/04

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

東京・広尾のEMON PHOTO GALLERYが主宰するEMON PHOTO AWARDも回を重ね、昨年第7回目を迎えた。今回開催された内倉真一郎の個展は、そのグランプリ受賞の記念展である。どちらかといえば現代美術寄りの作品が目立っていたEMON PHOTO AWARDの受賞作だが、今回の内倉の「十一月の星」は、モノクロームの正統派の写真作品である。僕も審査員のひとりだったのだが、受賞が決定したとき、彼の写真のやや古風なたたずまいが、ギャラリーのスペースにうまくフィットするかどうかがやや心配だった。だが、結果的には、応募作よりもひと回り作品のスケールが大きくなるとともに、ギャラリーの空間構成にあわせて弓形に作品を吊り下げるインスタレーションもうまく決まって、見応えのある展示になっていた。

内倉は 1981年、宮崎県生まれ。今回の展示のテーマは2016年の第一子の誕生である。ともすれば紋切り型な解釈に陥りがちな被写体ではあるが、クローズアップを多用してストレートな表現を心がけ、赤ん坊の生命力の根源に迫ろうとしている。審査の時点では、テンションの高い写真が多く、やや押し付けがましく感じるところもあった。だが、展示では植物や風景のイメージをうまく配して表現を和らげている。また妊娠中の妻の写真を加えたことで、シリーズとしての膨らみも生じてきた。

とはいえ、この作品は文字通りのスタートラインだと思う。新たなテーマにもチャレンジすることで、作品世界のさらなる展開を期待したい。

2018/07/19(木)(飯沢耕太郎)