artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

東アジア文化都市2017京都 アジア回廊 現代美術展

会期:2017/08/19~2017/10/15

二条城、京都芸術センター[京都府]

日中韓3カ国から選ばれた3都市が、1年間を通じてさまざまな文化交流プログラムを行なう国家プロジェクト「東アジア文化都市」。今年は日本の京都市、中国の長沙市、韓国の大邱広域市で行なわれており、京都市の中核的な事業が「アジア回廊 現代美術展」だ。昨年の奈良市では、東大寺や薬師寺などの著名7社寺を会場に大規模な現代美術展を行なったが、今年の京都市は会場を二条城と京都芸術センターの2カ所に絞り、凝縮感のあるイベントに仕上げた。アーティスティック・ディレクターを務めたのは建畠晢で、出展作家は25組。うち日本人作家は13組を占める。その大半は京都出身・在住者だが、本展の意図を最も体現していたのは彼らではなく、小沢剛、チェン・シャオション(昨年11月に死去)、ギムホンソックの日中韓3アーティストから成る「西京人」ではなかったか。また、対馬、沖縄、台湾、済州島の祠をリサーチした中村裕太+谷本研(彼らは京都組)も本展にふさわしかった。展覧会としては普通に楽しめる本展だが、建畠がチラシに記したメッセージを読むと、同意しつつも無力感を禁じ得ない。

周知のように、今、世界では排他的で偏狭な思想が渦巻き、テロや紛争も絶えることがありません。しかしこうした時期だからこそ文化芸術による相互理解とコミュニケーションの可能性を推し進めようとする《東アジア文化都市》のプロジェクトの意義は大きいといわなければなりません[本展チラシより]

もちろん文化交流は大切だし、世界が緊迫している今だからこそ相互理解を深めるべきという意見には賛成だ。でも、このような展覧会をいくら繰り返したところでテロや紛争は減らないし、日中韓の関係は変化しない。むしろインバウンドの増加や日本製アニメの浸透のほうがよほど効果があったのではないか。筆者は最近、大規模芸術祭に同様の感想を抱くことが多い。芸術にはまだ失望していないが、芸術祭には飽きてしまったのだろう。

2017/08/18(金)(小吹隆文)

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藤田嗣治天井画 特別展示

会期:2017/08/11~2017/08/29

迎賓館赤坂離宮本館[東京都]

赤坂の迎賓館で藤田嗣治の天井画が公開されるというので見に行く。この情報を知ったのはもう予約が締め切られたあとなので、開門の朝10時前に正門前に駆けつけてみると、すでにかなりの人だかり。団体客のようだ。西門に移動し、セキュリティチェックで30分ほど待たされてようやく入場できた。迎賓館に入るのはもちろん、建物を見るのも初めてだ。思ったより大きいが、まるで西洋の宮殿のコピー。と思ったら、よく見ると屋根に鎧兜をまとった戦国武将の彫刻が載っていて、かなりキッチュだ。設計はジョサイア・コンドルに学んだ片山東熊。奈良博や京博の本館、東博の表慶館も彼の設計だ。館内に入ると、壁や柱には触れないようにとのお達しで、築100年以上たつのに壁は不自然に真っ白。数百年の歴史をもつ西洋の宮殿に比べれば青二才といった趣で、ホンモノなのにフェイク感が漂っている。
藤田の天井画は、1935年に銀座の洋菓子屋コロンバンの天井を飾るために描かれたもので、計6点ある。戦時中は戦火を逃れるために運び出されて保管されていたが、1975年に迎賓館に寄贈されたという。今回は本館の3室に分散され、いずれも天井ではなく白い仮設壁に掛けられている。大きさは各150号くらいだろうか、のちの《アッツ島玉砕》よりひとまわり小さい。主題は田園で2、3人の人物や天使が戯れるという甘美な、というより陳腐なもの。いずれにせよパリ時代の乳白色の裸婦に比べれば明らかに精彩を欠いており、60年を超す画業のなかでも最悪の作例だと思う。もしこのあと藤田が戦争画を描かなかったら、20年代にパリで狂い咲いたものの、帰国後はパッとしない陳腐な画家としてフェイドアウトしていたかもしれない。おそらく藤田もそれを自覚し、危機感を抱いていたはずで、だからこそ戦争画に活路を見出したのではないか。館内には小磯良平の作品も2点あって、それぞれ美術と音楽を主題にしたもの。小磯は戦争画だろうがバレリーナだろうが、なにを描かせても似たようなタッチで同じような完成度で仕上げてくる。藤田とはえらい違いだ。

2017/08/17(木)(村田真)

札幌国際芸術際2017 その3

[北海道]

札幌国際芸術際の芸術の森エリアへ。美術館は、入り口に刀根康尚の視覚詩インスタレーションや中庭に鈴木昭男の聴く場所群はあるものの、ほぼクリスチャン・マークレーの個展だった。楽器としてのレコード、リサイクル、道ばたのゴミによるアニメーション、そして大友良英らとの競演の記録などをうまく見せるなあと感心する。工芸館は、ボアダムスの∈Y∋による闇の中の光の海のインスタレーションだった。1時間見せるたびに、メンテナンスで1時間クローズする不思議な形式は、実物を見ると、ああこういうことかと納得した。これは巧拙で判断するタイプの作品ではない。制作への執念のエモーションに包まれるような空間の体験だった。有島武郎旧邸では、鈴木昭男による点音のアーカイブを展示する。音のアーティストでかためた芸術の森エリアは、ガラクタ系アートと同様、芸術監督の大友色がよく出ている。なお、この建物は3度目の訪問だが、洋風の外観と内部の和風のギャップの激しいのが興味深い。屋根や窓の収まりにそのしわ寄せがきているのだが、当初の離れた部屋に声を伝える仕組みも室内に残っている。また札幌市立大学の清家清が設計した建物では、空中ブリッジを使い、毛利悠子がサウンド・インスタレーションを展開していた。前回のSIAFのとき、彼女は清華亭の和室で細やかな作品だったが、今回は眺望がよい、長い空間をいかしてダイナミックなスケールで介入を行なう。ただ、ルートが一方通行を指定されているため、まず最初に坂道を登るのがちょっとしんどい。

写真:上から、芸術の森エリア、有島武郎旧邸、鈴木昭男、毛利悠子

2017/08/16(水)(五十嵐太郎)

札幌国際芸術際2017 その4

[北海道]

都心に戻り、再びまちなか展示をめぐる。CAI02では、クワクボらの札幌ブルーラインとさわひらきの過去作の展示を行なう。前者は、これまでのような日用品の集合ではなく、ベタに札幌のランドマークのミニチュアを置き、やたらノスタルジックな音楽を流している。大衆受けはすると思うけど、これではさすがに作品としては後退しているのではないか。またガラクタに注目する芸術祭の趣旨とも違う。金市館ビルの梅田哲也の展示は、上部が空っぽになったデパートのワンフロアをまるごと使い、あいちトリエンナーレの岡崎や豊橋の会場に近い雰囲気だ。おそらくカプセル状の円窓に触発され、球をモチーフにしつつ、ガラクタがメカニカルに連動するインスタレーションである。音響の発生とガラクタの再利用という意味において、今回の札幌芸術際らしさが最もよく出ていると思う。北海道教育大の文化複合施設HUGにて、さわひらきが北海道で制作した新作の映像とインスタレーションを見る。この会場も探すのにえらく苦労した。公式ガイドの粗い地図と鑑賞ガイドと住所一覧をつき合わせても、札幌の一街区は大きいので、結局、近くに来るとしばらく迷う。これは正確に場所をプロットした適度な縮尺の地図がひとつちゃんと用意してさえあれば、解決することなのに。駅前で「サッポロ発のグラフィックデザイン~栗谷川健一から初音ミクまで」展を見る。デザインから切り取る札幌の歴史であり、五陵星や七陵星などのシンボル、オリンピックなど内容は興味深い。札幌の建築もここで少し紹介している。ただ、会場を「プラニスホール」と地図で書かれても、たどりつくのに苦労する。なぜなら、この名称は11階の部分のみを示すものであって、建物全体の名称ではないからだ。地元の人にとっては常識なのかもしれないが、少なくともタクシーの運転手はわからなかった。

写真:上から、札幌ブルーライン、梅田哲也、北海道教育大の文化複合施設HUG

2017/08/16(水)(五十嵐太郎)

第11回 shiseido art egg:菅亮平展〈インスタレーション〉

会期:2017/07/28~2017/08/20

資生堂ギャラリー[東京都]

ギャラリーを入った正面のいちばん大きな壁面に、真っ白くて作品のない(でもベンチはある)展示室を右へ左へ正面へと次々通過していく映像《エンドレス・ホワイトキューブ》が映し出されている。映像内の展示室は実物ではないし、ミニチュアかとも思ったがそうでもなさそうだし、たぶん資生堂ギャラリー(の大きいほう)をモデルにCGで作成したものだろう。対面の壁には縦横それぞれ70-80個ずつ正方形のマス目が書かれた4枚の《マップ》が掛けられている。なにかと思ってよく見ると、各マスの天地左右のいずれかの辺またはすべての辺に切れ目があり、これを出入口と見立ててマス目を展示室と見なせば、超巨大美術館または無限美術館の(部分的な)平面図であることが理解できる。白くて正方形の展示室が無限に連なるホワイトキューブ地獄、といってもいい。映像作品はこの無限の展示室を巡っていたのだ。
奥のギャラリーには白いプリントが5枚。よく見ると画面内側にもうひとつ白い矩形が浮かび上がり、いや浮かび上がるというより、パースがかかっているので奥に引っ込んでいるように見え、ホワイトキューブの壁を表象したものであることがわかる。これを壁にうがたれたニッチ(壁龕)または陳列棚と見ることも可能だ。タイトルは個展名と同じく《イン・ザ・ウォール》。映像ともどもホワイトキューブの壁の向こうに延々と展示室が連なる幻想を誘発させる優品だ。

2017/08/16(水)(村田真)

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