artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

「今様」─昔と今をつなぐ

会期:2017/04/05~2017/05/21

渋谷区立松濤美術館[東京都]

美術、彫刻、工芸において、日本の伝統的な技法によって制作を行なっている現代美術作家の作品と、それらの技法、イメージソースとなった「本歌」である古美術を組み合わせて見せるという展示。ハワイ大学マノア校日本美術史准教授のジョン・ショスタック氏の企画監修により、ハワイ大学およびホノルル美術館を会場に開催された展覧会の日本展だ。「今様(いまよう)」は、「当世風」「現代的スタイル」という意味を持つ古い言葉。ここに出品されているのは、そうした古さと新しさという矛盾した要素を制作に取り入れている作家の作品ということになる。さらに言えば、日本の現代美術を、アメリカ人の日本美術史研究者の視点で読み解くという、時間軸的にも空間的にも非常に複雑な構造の企画なのだ。参加作家は、染谷聡(漆工)、棚田康司(木彫)、山本太郎(日本画)、木村了子(日本画/陶芸)、石井亨(染色)、満田晴穂(金工)の6名。日本人としては見知った伝統技法と、これまた別の文脈で既知の現代的モチーフとの組み合わせに現われたズレには、しばしばユーモアを見て取ることができる。なかでも山本太郎の「ニッポン画」や、木村了子のイケメンを主題にした屏風は、古典のパロディと見ることもできるかもしれない。しかしながら、いずれの作品も「本歌」に用いられている技法、素材に真剣に取り組んでいるところが、様式やモチーフの表面的な引用にとどまるパロディとは一線を画していると言えよう。
建築家 白井晟一による松濤美術館の空間に、作家たち自らが手がけたという展示がとても印象的だ。日本の現代美術における伝統主義を考察するショスタック氏のテキストも興味深い。[新川徳彦]

2017/04/04(火)(SYNK)

千田高詩との対話

会期:2017/03/27~2017/04/08

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

長く横浜を拠点に活動を続けた千田高詩の生誕100年を記念する回顧展。戦前に東京美術学校を出て、50-60年代には読売アンデパンダン展に出品、来日したアンフォルメルの推進者ミシェル・タピエにも注目されたという。会場には「モダーン」という言葉が似合う抽象絵画が並ぶが、彼の功績は作品そのものよりもむしろ美術教育者としての側面にあるようだ。1965年に弘明寺に「創造のアトリエ」を開き、「ワークショップ」という言葉がなかった時代から創造性を重視する美術教育を実践。彼の提唱した「みんなみんなアーティスト」は、思想的背景は異なるとはいえ、世代的に近いヨーゼフ・ボイスの「人間はだれでも芸術家である」を思い出させる。世が世なら千田も世界的に影響力を持っただろうか。

2017/04/02(日)(村田真)

ヴォルス 路上から宇宙へ

会期:2017/04/01~2017/07/02

DIC川村記念美術館[千葉県]

ぼくが「現代美術」を知った70年代には、ヴォルスをはじめアンフォルメルの評価はもっと高かったように思うが、その後、抽象表現主義の評価の高まりとは対照的に徐々に低下していったような気がする。これは戦後美術におけるフランス(パリ)とアメリカ(ニューヨーク)の覇権争いも関係しているかもしれない。ともあれ、すっかり忘れたころにやってきたヴォルス展だ。導入は、というより前半は写真。点数でいえば約4割を写真が占める。第二次大戦前から戦中にかけて撮られたもので、モチーフはマックス・エルンストらのポートレートをはじめ、道端に寝そべる浮浪者、ぬれた舗道、ウサギや鶏肉、野菜や果物など。なんのために撮ったのかわからないところがいい。撮った意図はあるけど、発表する意図はないみたいな。
絵のほうは1930年代末から亡くなる51年までの10年余りのもので、紙にグワッシュか版画(ドライポイント)が大半を占め、油彩は5点しかない。でもこの小さなグワッシュ作品がなんともいえず病的で、心に染み入る。これはヴォルスの生来の特異な資質と、戦中を敵国人としてフランスですごした特殊な状況が生んだ絵画であって、モダンアートの尺度で計ってもあまり意味がないように思う。写真と同じく、描くモチベーションは高くても、それを発表したり残したりする意志は薄かったんじゃないか。ヴォルスの作品は、15歳年上の世話女房(もはや死語)がいなければ世に出なかったかもしれない。

2017/04/01(土)(村田真)

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「I am an ‘object’」

会期:2017/03/10~2017/04/04

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

ZEN FOTO GALLERYのディレクターのアマンダ・ロの企画による「I am an ‘object’」展には、西村多美子、安楽寺えみ、殿村任香、Tokyo Rumando、萬一一、鄭 の6人の女性写真家、アーティストが出品していた。1948年生まれの西村から、台湾出身で1985年生まれの鄭 まで、年齢も国籍もキャリアもさまざまだが、「object」というテーマで彼女たちの作品をくくったことで、面白い展示が実現した。
「object」は日本語で言えば「対象」、「目的」であり、写真の「被写体」という意味でも使われる。彼女たちの作品にも、むろん「object」が登場してくるのだが、それらの用法はかなりかけ離れたものだ。西村や殿村のように「観察により対象の像を写し出す作品」もあれば、安楽寺やRumandoのように「写真家自身が被写体であり主体でもある作品」もある。また台湾出身の2人の写真家の作品は、「物体を組み合わせて主題のイメージを創り出す作品」に分類できるだろう。だが、写真を見ているうちに、その「object」の提示の仕方が、やはり男性写真家たちのそれとは違っているように思えてきた。端的に言って、女性写真家たちの「object」と写真家本人との距離はとても近く、ほとんど同化している場合すらある。その生々しい触覚的な表現には、思わずたじろいでしまうほどの切迫感があった。
ZEN FOTO GALLERYでは、普段は個展を中心に企画が組まれているが、時折開催されるグループ展もなかなか面白い。また別の角度から、女性写真家たちの仕事を取りあげてほしいものだ。

2017/04/01(土)(飯沢耕太郎)

飯沼英樹 アマゾン ナイル タクラマカン

会期:2017/03/11~2017/04/15

SNOW Contemporary[東京都]

リゾート地の女性たちをモデルにしたような木彫が10点ほど。台座を除いて大きめのものでも50センチ程度の小ぶりの彫刻で、彫りはザックリしていて彩色されている。特徴的なのは台座と本体が一体化していること(いわゆる一木彫り)、大半は床に置かず壁に掛けていること。もし床に置くものを彫刻、壁に掛けるものを絵画と定義すれば、これらは彫刻というより絵画(レリーフ)に近い。おもしろいことに、壁掛けの作品の背後に、部屋を一周するように上は青、下は黄土色に塗り分けた帯を設置し、さらに床に砂まで敷いている。これによってグッとポップでキッチュな印象が強まった。

2017/03/31(金)(村田真)