artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

鏡と穴──写真と彫刻の界面 vol.1 高木こずえ

会期:2017/04/08~2017/05/13

gallery αM

2014年に東京・品川のキヤノンギャラリーSで開催された高木こずえの「琵琶島」は、2012年に東京工芸大学のエントランスロビーに設置された、高さ12メートルの同名の立体フォトコラージュ作品をもとに、そこに組み込まれた写真群を「発掘して調査」した連作の展示だった。2017年4月から18年3月にかけて、光田ゆりのキュレーションで7回にわたってgallery αMで開催される連続展「鏡と穴──写真と彫刻の界面」の第一回目にあたる今回の高木の個展でも、その掘り起こしと再構築の試みがさらに続いていることを確認することができた。
キヤノンギャラリーの展示ではあまり目立たなかったのだが、今回はデジタルプリント(それ自体にさまざまな加工が施されている)の画像の一部を「現実に復元」するために布などで立体化したオブジェ、プリントをかなり忠実に油彩画で描き直した絵画作品も、展示のかなり大きな部分を占めている。もともと高木には、写真家の領域から大きくはみ出していく志向性が備わっていたのだが、近年それがさらに強化、拡張しているように感じられる。「私にとって、写真は世界を複製するためのものではなく、それを別の何かに変身させるためのものだったのではないか」という認識が間違っているとは思えない。だが、「変身」にあまりこだわりすぎると、自己言及の隘路に落ち込んでしまうのではないかという危惧は残る。
「琵琶島」はたしかにさまざま可能性を孕んだ作品だが、その世界に没入しはじめてからすでに5年以上が過ぎている。かつて写真集『MID』(赤々舎、2009)で見せてくれた、一瞬一瞬の未知の偶発性に身を委ねるような姿勢が、やや薄らぎつつあるのではないだろうか。そろそろ、新たな被写体にも向き合ってほしいものだ。

2017/04/18(火)(飯沢耕太郎)

上田義彦「森の記憶」

会期:2017/04/14~2017/07/02

Gallery 916[東京都]

本展の会場の入り口近くには、上田義彦が1990~91年にアメリカ・ワシントン州の原生林で撮影した「QUINAULT」のシリーズから5点の作品が展示されていた。ネイティブアメリカンの聖地だという深い森の奥に、8×10インチ判のカメラを手に踏み込んで撮影したこのシリーズに捉えられているのは、下草や蘚苔類が巨木に絡みつくように群生した、ミクロコスモスというべき眺めである。上田はそれを、大判カメラの描写力を極限近くまで活かして、画面の隅々までピントを合わせたパンフォーカスで撮影した。結果として、それらの写真はあくまでも鮮鋭な、細密画を思わせるマチエールの作品として成立することになった。
ところが、それから約20年後に屋久島の森で撮影された2つのシリーズ「Materia」(2011)と「M.River」(2012)では、まったく正反対といえそうなアプローチが試みられた。ここではシャープなピントや、明確だがスタティックな絵画的構図は完全に捨て去られ、曖昧で不安定な画面構成、ブレやボケによる滲みなどが目につくようになる。光、風、水などのアクシデンタルな要素を積極的に取り入れることで、揺らぎつつ変容していく森の姿が浮かび上がってきた。その違いは、おそらく上田自身の写真家としての姿勢が、この20年ほどのあいだに大きく変わったことに対応しているのだろう。つまり、今回の展覧会に出品されていた3シリーズには、彼の外側に「風景」として対置されていた森が、内なる森として意識され、再構築されていく、そのプロセスが刻みつけられているのだ。
森をある種のバロメーターとするような作品制作の営みは、これから先も続いていくのではないだろうか。今回は過去形の森のシリーズの展示だったが、次回はぜひ現在進行形のアプローチを見てみたい。また、これまでバラバラに発表されてきた森の写真を集大成する写真集出版の企画も期待したい。

2017/04/18(火)(飯沢耕太郎)

田中梢個展 遠くにいても近くにいる様な

会期:2017/04/17~2017/04/22

ギャラリー白3[大阪府]

砂丘越しに見える海や、崖沿いの海岸を主題にした油彩画を出品。作品の特徴は大胆な構図だ。画面を斜めに横切る砂丘、垂直に切り立った崖、海の水平線が、ベージュ、黒、青の色面分割と共に描かれている。つまり、具象画でありながら抽象画の要素も併せ持っているのだ。それでいて風景の中には人々の姿も小さく描かれており、どこか親密な雰囲気が感じられる。作者によると、作品の主眼は「風景の中に偶然写り込んだ人々を描くこと」。旅先では、ほんの一瞬出会った人から忘れられない印象を受けることがあり、それが日常生活では解けなかった疑問のヒントになる場合がある。そうした自分と他人の距離感や関係を表現したいと思っているのだ。作品のサイズはどれも小さく(20号と3号)、必要最小限の要素で表現されている。それゆえ観客はぐっと近づいて作品を覗き込むことになるが、それも作者の狙いであろう。

2017/04/17(月)(小吹隆文)

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017

会期:2017/04/15~2017/05/14

二条城二の丸御殿ほか[京都府]

毎年4月~5月に京都市内の各地で開催されるKYOTOGRAPHIEも、5回目を迎えた。昨年くらいから、スポンサーの数も増え、充実した展示を見ることができるようになってきたが、今年はさらに規模が拡大し、国際的な写真祭としての運営スタイルがすっかり定着してきた。
今回の写真祭のテーマは「LOVE」。下手すると陳腐になりがちなむずかしいテーマだが、価値観が極端に引き裂かれたこの時代に、あえてシンプルなメッセージを発するという実行委員会(代表/ルシール・レイボーズ、仲西祐介)のメッセージが伝わってきた。ロバート・メイプルソープ、荒木経惟、ルネ・グローブリなど、国際的に名の知られている写真家だけでなく、老夫婦の日常を6年かけて撮影したハンネ・ファン・デル・ワウデの「Emmy's World」(嶋臺ギャラリー)、失踪して命を絶った従兄弟とその祖母を追った吉田亮人の「Falling Leaves」(元・新風館)、沖縄の戦争の記憶を掘り起こした山城知佳子の「土の唄」(堀川御池ギャラリー)など、地味だが着実な仕事をしている作家にきちんと目を向けている。全体的に、ぎりぎりのバランスで構成されたスリリングなラインナップが実現していたと思う。
歴史的建造物、寺院、町家、蔵などの、京都らしい環境を活かしたインスタレーションに力を入れているのも、KYOTOGRAPHIEの特徴といえる。特に今回は、二条城二の丸御殿台所、東南隅櫓で開催されたアーノルド・ニューマン「マスタークラス─ポートレートの巨匠─」展が出色の出来映えだった。おおうちおさむによる展示構成は、鏡を含めたパネルを巡らせ、観客を魅惑的な視覚の迷路に誘い込むようにつくられていた。写真作品をただ見せるのではなく、どの展示も視覚効果に気を配って注意深く練り上げられていることは、特筆してよいだろう。
実行委員会が主催するメインの展覧会だけでなく、サテライト展示の「KG+」も50以上に増えて、充実した内容のものが多かった。シンポジウム、ポートフォリオレビューなども含めて、これだけの数の企画を一日で回るのはむずかしい。だが、何日かかけてじっくり見てみたいと思わせるような写真祭に成長しつつあるのは確かだ。

2017/04/15(土)(飯沢耕太郎)

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ファッションとアート 麗しき東西交流

会期:2017/04/15~2017/06/25

横浜美術館[神奈川県]

いつもと違う博物館的な展示になっており、近代における日本から西洋への輸出品(室内着)、日本での洋装受容(皇后の礼服)、西洋のジャポニスム(装飾モチーフ、ポワレのコルセット解放と着物の影響など)をたどる。美術館らしく、参考資料として同時代の絵画も活用している。

2017/04/14(金)(五十嵐太郎)

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