artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
5 Rooms 感覚を開く5つの個展
会期:2016/12/19~2017/01/21
神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]
それぞれ異なった領域で活動するアーティストたちの作品が、「感覚を開く」という基準で選出され、個展の集合として展示されていた。たしかに出和絵理(陶芸)、染谷聡(漆工芸)、小野耕石(シルクスクリーン)、齋藤陽道(写真)、丸山純子(インスタレーション)という5人の出品作家の仕事は、普段はあまり働かせることのない始原的、根源的な感覚を呼び覚まし、開放していく力を備えているように感じる。
そのなかでも特に心を揺さぶられたのは、聾唖のハンディを抱えながら活動する齋藤陽道の、写真によるインスタレーション《あわい》である。展示は2つのパートに分かれている。3枚の大きなパネルに、それぞれ29枚の写真画像を約10分かけてスライド上映する作品には、これまで齋藤が積み上げてきた写真家としての力量が充分に発揮されていた。1枚の画像が少しずつあらわれ、くっきりと形をとり、次の画像と重なり合いながら消えていく。その間隔は21秒だそうだが、息を呑むような緊張感があり、もっと長く感じる。画像の強度がただ事ではない。生まれたばかりの赤ん坊→花火→土手の上の2人の少年→正面向きの魚の顔→抱き合う2人→鹿の首を抱く少女→白いオウムと若い男→光のなかで赤ん坊を抱く女→牛の骨を抱えた少女。画像の連鎖のごく一部を抜き出してみたのだが、これだけではまったく意味不明だろう。だが、スライド上映を見ているうちに、それらの画像のフォルム、色、そして意味の連なりが、厳密な法則にしたがって、絶対的な確信を持って決定されているように思えてきた。
やはり「あわい」と名づけられたもうひとつのシリーズも面白かった。こちらは、3枚の写真を重ね合わせてフレームに入れ、透過光で照らし出している。スライド映写の途中の「重なり合い」の効果を、画像を多層化することでフリーズするという試みである。これまでは、オーソドックスな展示と写真集が中心だった齋藤の活動領域が、いまや大きく拡張しつつあるようだ。特に「スライドショー」という形式は、齋藤にとって、さらなる未知の可能性を孕んでいるのではないだろうか。よりバージョン・アップした展示を見てみたい。
2016/12/19(月)(飯沢耕太郎)
紙神
会期:2016/12/09~2016/12/18
東京都美術館[東京都]
これも都美セレクションで、こちらは紙を使った展覧会。いや、タイトルの「紙神」を「カミガミ」と読ませるくらいだから、紙と神を同一視しているわけで、紙を使わせていただいてる、または紙に使われてるというべきか。おみくじもあるが、引いた紙片を結んだ様子も無意識のインスタレーションといえるかもしれない。
2016/12/18(日)(村田真)
「日本画の王道」─11人の拓く日本画の現在─
会期:2016/12/06~2016/12/18
東京都美術館[東京都]
都美が選んだグループ展に会場をタダ貸しする「都美セレクション」のひとつで、「現在日本画研究会」という11人のグループ展。「現在日本画」を名乗るくらいだから革新系かと思ったら、日本画の範疇にすっぽり収まるいかにも日本画な絵ばかり。たしかに「日本画の王道」だ。1点だけ、海辺の風景を俯瞰した伴戸玲伊子の《流水譚》は、川や田畑に津波が押し寄せているようにも見え、妙に不穏な空気を漂わせている。
2016/12/18(日)(村田真)
下瀬信雄「つきをゆびさすⅡ」
会期:2016/12/07~2016/12/20
銀座ニコンサロン[東京都]
山口県萩市在住の下瀬信雄は、1960年代からポートレート中心の写真館を営みながらコンスタントに写真展を開催し、写真集を刊行してきた。2005年に伊奈信男賞を受賞した「結界」シリーズもそうなのだが、身辺の光景を題材としながら、万物が呼応するような深みのあるイメージの世界を構築していく。だが、2013年に銀座ニコンサロンで開催された同名の個展の続編にあたる本展の会場には、いつもの下瀬の展示とはやや異なる眺めが広がっていた。
中判、あるいは大判のフィルムを使ったモノクローム・プリントを基調としていた作品が、B1サイズに大きく拡大されたデジタル・カラープリントになっている。「金環食の日」、「帆船が来た日」、「湧き上がる雲」など、彼の周囲に起こる出来事をスナップして提示していることに変わりはない。ただ、色鮮やかでコントラストがあるカラープリントは、視覚的なインパクトが強い分、目の前の光景にそっと触手を伸ばしていくようなデリケートさを欠いている。撮影場所も、萩を中心として山口や岩国まで広がってきていた。だが、そのことをネガティブに捉える必要はないのではないだろうか。むしろ下瀬のようなベテラン写真家が、使い慣れた機材やテクニックに安住することなく、果敢に新たな表現の可能性にチャレンジしていることを評価すべきだろう。
カラーバージョンの「つきをゆびさす」が、このまま続いていくのか、またモノクロームに回帰するのかはわからない。おそらく長期のシリーズになることが予想されるので、次の展開を注意深く見守っていきたい。なお、この展示は2017年1月19日~25日に大阪ニコンサロンに巡回する。
2016/12/18(日)(飯沢耕太郎)
シェル美術賞展2016
会期:2016/12/07~2016/12/19
国立新美術館[東京都]
シェル美術賞は1956年から断続的に続いてきた現代美術の公募展で、今年60周年、45回目を迎えたという。けっこうなことだが、応募数を見ると、00年代は千人前後から1500点ほどの応募があったのに、10年代から徐々に減り、今年は570作家による791点と半減しているのが気にかかる。とはいえ500人以上が応募するのだから大したもんだ。うち4人の審査員が選んた53点の作品と、過去の入選作家から選んだ4人の作品を展示。草花をのせたテーブル上の皿を真上から捉えた木村鮎子の《白昼夢のままごと》と、石膏像やイーゼルが立ち並ぶアトリエ風景を描いた椙山奈津子の《石こう室》は、どちらも装飾的・平面的で色彩も美しい。模様のついた布を部分的に脱色して木枠に張った池上怜子の《たがそで》は、装飾を扱いながら攻撃的で好ましい。以上3人とも島敦彦氏の選定。ぼくと趣味が似ているようだ。ほかに、時計を90度傾けて半分だけ描いた吉田一民の《絵画》、グラフィティをキャンバスに移植したようなしまだそうの《VITA NOVA Ⅰ》がよかった。
2016/12/17(土)(村田真)