artscapeレビュー
5 Rooms 感覚を開く5つの個展
2017年01月15日号
会期:2016/12/19~2017/01/21
神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]
それぞれ異なった領域で活動するアーティストたちの作品が、「感覚を開く」という基準で選出され、個展の集合として展示されていた。たしかに出和絵理(陶芸)、染谷聡(漆工芸)、小野耕石(シルクスクリーン)、齋藤陽道(写真)、丸山純子(インスタレーション)という5人の出品作家の仕事は、普段はあまり働かせることのない始原的、根源的な感覚を呼び覚まし、開放していく力を備えているように感じる。
そのなかでも特に心を揺さぶられたのは、聾唖のハンディを抱えながら活動する齋藤陽道の、写真によるインスタレーション《あわい》である。展示は2つのパートに分かれている。3枚の大きなパネルに、それぞれ29枚の写真画像を約10分かけてスライド上映する作品には、これまで齋藤が積み上げてきた写真家としての力量が充分に発揮されていた。1枚の画像が少しずつあらわれ、くっきりと形をとり、次の画像と重なり合いながら消えていく。その間隔は21秒だそうだが、息を呑むような緊張感があり、もっと長く感じる。画像の強度がただ事ではない。生まれたばかりの赤ん坊→花火→土手の上の2人の少年→正面向きの魚の顔→抱き合う2人→鹿の首を抱く少女→白いオウムと若い男→光のなかで赤ん坊を抱く女→牛の骨を抱えた少女。画像の連鎖のごく一部を抜き出してみたのだが、これだけではまったく意味不明だろう。だが、スライド上映を見ているうちに、それらの画像のフォルム、色、そして意味の連なりが、厳密な法則にしたがって、絶対的な確信を持って決定されているように思えてきた。
やはり「あわい」と名づけられたもうひとつのシリーズも面白かった。こちらは、3枚の写真を重ね合わせてフレームに入れ、透過光で照らし出している。スライド映写の途中の「重なり合い」の効果を、画像を多層化することでフリーズするという試みである。これまでは、オーソドックスな展示と写真集が中心だった齋藤の活動領域が、いまや大きく拡張しつつあるようだ。特に「スライドショー」という形式は、齋藤にとって、さらなる未知の可能性を孕んでいるのではないだろうか。よりバージョン・アップした展示を見てみたい。
2016/12/19(月)(飯沢耕太郎)