artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

Mrs. Yuki 足跡

会期:2016/05/13~2016/06/12

駒込倉庫[東京都]

Mrs.Yukiは平嶺林太郎と大久保具視によるユニットで、ヘビを使った作品を展開している。今回はコンクリートのような凝固する流動体にヘビを入れ、のたうち回った軌跡を定着させたレリーフ作品。ヘビはいってみれば手足のない1本の線なので、砂紋や流水跡のような比較的美しい軌跡が残る。でも流動体の硬さを調整したり、ヘビに思ったような動きをしてもらうのが難しいそうだ。まあいろんなアートがあるもんだ。

2016/05/14(土)(村田真)

没後50年“日本のルソー” 横井弘三の世界展

会期:2016/04/17~2016/06/05

練馬区立美術館[東京都]

目黒区美でやってる 島野十郎とほぼ同時代に生きた、でも画風は 島とは正反対の画家、横井弘三の回顧展。高島と同じく横井も絵は独学だが、華々しいデビューを飾ったのは横井のほうだ。初出品した二科展に入選し、若手の有望画家に贈られる樗牛賞を受賞、翌年には二科賞を受賞するなど快進撃。受賞作は残っていないが、その絵は「日本のルソー」と呼ばれるようにプリミティブ。在野の二科展は文展(文部省主催)との差異化を図るため、素人らしい絵も積極的に評価したという。やがて二科会から離れて前衛美術団体を立ち上げたりしたが、第2次大戦後は故郷の長野に居を構え、ひとりで制作に打ち込む。板を横につないで大画面にしたり、板の表面を焼いて効果を出したりいろいろ試みたが、絵は終始一貫してプリミティブだった。まあ 島のようなねじれた魅力はないけれど、埋もれたままでいい画家ではない。区美も捨てたもんではない。

2016/05/14(土)(村田真)

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福山えみ「岸を見ていた」

会期:2016/05/11~2016/06/18

POETIC SCAPE[東京都]

福山えみの同会場での個展は、2012年以来4年ぶりになる。前回は、旧作のヨーロッパのシリーズを出していたのだが、今回は新作の展示だった。といっても、作品の成り立ち、画面の構成の仕方にそれほどの大きな違いはない。
6×7判のカメラで折りに触れてシャッターを切る。被写体の幅はかなり広いが、特徴的なのは画面の手前にフェンスや建物の一部、植え込みなどがぼんやり写っていて、それら越しに奥を見渡すような写真が多いこと。撮り手がどこにいるのかというポジショニングが、手前の写り込みによって強調され、何かに視線を向けているという出来事の意味(といってもごく日長的なものだが)が強調される。もうひとつは、歩行中、あるいは移動中の車や電車から撮ったと思しき写真がけっこう多くあることで、一所に留まることなく通過していく視点のあり方が目についてくる。11×14インチサイズに引き伸されたモノクローム・プリントを含めて、その視覚形成と画像定着のシステムは、ほぼ固定されてはいるが、そのなかで独自の進化を遂げ、洗練の度を増してきている。
そのこと自体に問題はないのだが、このまま続けていけばいいのかといえば、やや疑問が残る。ひとつのシステムに依拠して作品をつくり続けるのは諸刃の剣で、せっかくの写真家としての優れた資質を、充分に発揮しきれていないもどかしさも感じる。昨年体調を崩して、しばらく写真が撮れなかったとそうだが、従来の写真制作のシステムをもう一度見直して、新たなチャレンジをするいいチャンスではないだろうか。スナップショットの偶発性の呪縛から、いったん自由になるのもいいと思う。なお、展覧会にあわせて、同名の写真集(自費出版)が刊行されている。

2016/05/14(土)(飯沢耕太郎)

アートフェア東京 2016

会期:2016/05/12~2016/05/14

東京国際フォーラム ホールE&ロビーギャラリー[東京都]

古美術と現代美術のアートフェアも11回目。今回は海外19ギャラリーを含め計157軒の出展で過去最大らしい。アートマーケットも少しは活気づいてるのかな。おもしろいのは「100KIN」企画。昨年1月から税制が改正され、これまで20万円未満の「書画・骨董」しか減価償却資産の対象にならなかったのが、改正後は「美術品」も対象になり、金額も100万円未満に引き上げられたという。つまり100万円までの美術品が減価償却の対象になったので、さっそく各画廊とも100万円未満の作品を特別展示エリアで展示・販売したってわけ。米田知子とか佐藤翠とか森万里子とか出てるけど、彼女たちの作品が減価償却されるって、どうなの?

2016/05/13(金)(村田真)

水野里奈個展 絵画とドローイングの境界線

会期:2016/04/13~2016/05/20

第一生命ギャラリー[東京都]

これはにぎやかで華やか。リキテンスタインばりの骨太なブラッシュ・ストロークを流水や木の幹に見たて、筆触を生かした緻密な花模様やボカシを利かせたストライプで画面を埋め尽くし、家具や建物の一部も顔をのぞかせる。具象抽象が入り交じった日本画にも通じる装飾的な画面で、なにより色彩が美しい。はて、どこかでよく似た作品を見たことあるなあと思ったら、トーキョーワンダーサイトでやってた田中里奈だ。名前も同じ里奈。調べたら、なんと生まれは1年違いだが、同じ愛知県生まれで、同じ年に名古屋芸大洋画2コースを卒業した同窓生ではないか。違いがあるとすれば、田中が余白を生かそうとするのに対して、水野は画面を埋め尽くそうとすることか。いやあ驚いた。

2016/05/13(金)(村田真)