artscapeレビュー
福山えみ「岸を見ていた」
2016年06月15日号
会期:2016/05/11~2016/06/18
POETIC SCAPE[東京都]
福山えみの同会場での個展は、2012年以来4年ぶりになる。前回は、旧作のヨーロッパのシリーズを出していたのだが、今回は新作の展示だった。といっても、作品の成り立ち、画面の構成の仕方にそれほどの大きな違いはない。
6×7判のカメラで折りに触れてシャッターを切る。被写体の幅はかなり広いが、特徴的なのは画面の手前にフェンスや建物の一部、植え込みなどがぼんやり写っていて、それら越しに奥を見渡すような写真が多いこと。撮り手がどこにいるのかというポジショニングが、手前の写り込みによって強調され、何かに視線を向けているという出来事の意味(といってもごく日長的なものだが)が強調される。もうひとつは、歩行中、あるいは移動中の車や電車から撮ったと思しき写真がけっこう多くあることで、一所に留まることなく通過していく視点のあり方が目についてくる。11×14インチサイズに引き伸されたモノクローム・プリントを含めて、その視覚形成と画像定着のシステムは、ほぼ固定されてはいるが、そのなかで独自の進化を遂げ、洗練の度を増してきている。
そのこと自体に問題はないのだが、このまま続けていけばいいのかといえば、やや疑問が残る。ひとつのシステムに依拠して作品をつくり続けるのは諸刃の剣で、せっかくの写真家としての優れた資質を、充分に発揮しきれていないもどかしさも感じる。昨年体調を崩して、しばらく写真が撮れなかったとそうだが、従来の写真制作のシステムをもう一度見直して、新たなチャレンジをするいいチャンスではないだろうか。スナップショットの偶発性の呪縛から、いったん自由になるのもいいと思う。なお、展覧会にあわせて、同名の写真集(自費出版)が刊行されている。
2016/05/14(土)(飯沢耕太郎)