artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

cha_bo絵画展「ミクダヨー」

会期:2016/05/01~2016/05/08

八番館[神奈川県]

黄金町への道すがら入ってみる。初音ミクをモチーフにした絵が100点以上、いや200点はあるかな。小品が中心だが、単なるオタク趣味のイラスト展ではない。もともと初音ミクはヴァーチャルな存在だが、それを実在の人物のようにではなく、3次元の彫刻のように描いてるところがおもしろい。しかもオフィーリア風、点描風、ピカソ風、ヴラマンク風、リキテンスタイン風、岡本太郎風とさまざまなスタイルを借りて、モダンアートにおけるものの見方、捉え方の多様性も提示している。ときにバーバラ・クルーガー風の言葉を配したかと思えば、バーネット・ニューマンの絵を見てるミクもいて、美術の造詣もハンパない。これは見てよかった。ちなみに会場の八番館は初音町にあり、「ミクダヨー」にはうってつけの場所。

2016/05/05(木)(村田真)

森村泰昌アナザーミュージアム(NAMURA ART MEETING '04-'34 Vol.05「臨界の芸術論Ⅱ─10年の趣意書」より)

会期:2016/04/02~04/04、05/03~05/05、06/10~06/12

名村造船所跡地[大阪府]

国立国際美術館の「森村泰昌:自画像の美術史─「私」と「わたし」が出会うとき」展と連動した本展では、森村の作品に使用された舞台セットや背景画、小道具などが展示され、映像作品《「私」と「わたし」が出会うとき─自画像のシンポシオン─》のメイキングシーンを収めたドキュメント映像も上映されている。日頃は立ち会うことができない制作現場を覗けるのは、美術ファンにとって大きな喜びだ。舞台セットや小道具を生で見ることにより、森村の作品が多くのスタッフを擁するプロジェクトであることが実感できた。また、美術史に侵入する森村の作品世界に、さらに自分が侵入することで、もともと複雑な構造を持つ作品世界にさらなるひと捻りが加わるのも面白かった。本展は4月から6月まで開催されているが、各月とも3日間しかオープンしない。筆者は4月に行きそびれて、1カ月待たされたが、出かけた甲斐があった。幸い会期がまだ残っているので(6月10日~12日)、国立国際美術館の森村展を見た人は、こちらも併せて鑑賞するようおすすめする。

2016/05/05(木)(小吹隆文)

ライアン・マッギンレー「BODY LOUD!」

会期:2016/04/16~2016/07/10

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

1977年、アメリカ・ニュージャージー州ラムジー生まれのライアン・マッギンレーは、2000年代に入ってから頭角をあらわし、2003年にはホイットニー美術館で個展を開催するなど、写真の新世代の旗手と見なされてきた。「ポスト・ティルマンス」の一番手ともいわれ続けてきたのだが、日本での最初の大規模点となる本展を見て、そのことには疑問符をつけざるを得ない。
マッギンレーの撮るあくまでもポジティブな若い男女のヌードは、たしかにアメリカのユース・カルチャーの本質的な部分を掬いとっている。「9.11」以後の社会の不安感、閉塞感に対して、若者たちのポジティブな生命力で対峙するというのは、たしかにひとつの戦略としては成り立つだろう。だが、それがいつまでたっても一本調子、同工異曲のイメージの繰り返しになっていて、ヴォルフガング・ティルマンスのように多層的なレイヤーとして現実世界を捉え返す視点に欠けているのは、あまりにも能天気としか言いようがない。
今回の展示の目玉は、壁一面に「ビニールステッカー」のプリント約500点を貼り巡らした巨大作品「YEARBOOK」(2014)だろう。だが、その圧倒的なスケール感にもかかわらず、そこに写っている男女の姿は、次第に区別がつかなくなり、均質化して見えてくる。まさにインスタグラム的な見え方の極致というべきで、その親しみやすさは、写真に向かってスマートフォンのシャッターをひっきりなしに切っていた観客たちに、大いにアピールするのではないだろうか。だが、おそらくこれらの写真は、会場を出れば、あっという間に忘れ去られてしまうだろう。スマホのデータもそのうち消去されてしまうのではないか。「それでいいのだ」という考え方もあるかもしれないが、「それでいいのか?」という疑問は残る。

2016/05/04(水)(飯沢耕太郎)

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生誕300年記念 若冲展

会期:2016/04/22~2016/05/24

東京都美術館[東京都]

連休中なのでものすごい人。若冲っていつからこんな人気者になったんだ? でも若冲で見るべきものって《動植綵絵》計30幅だけでしょ。動物たちを升目描きにした屏風絵も、石灯籠を点描風に描いた屏風絵も、おもしろいけどしょせんキワモノ。《動植綵絵》だってキワモノといわれるかもしれないが、ここまでキワめたらもういうことない。《動植綵絵》だけ見て帰ったわ。

2016/05/03(火)(村田真)

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SICF17

会期:2016/05/01~2016/05/04

スパイラルホール[東京都]

スパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル(SICF)も17回目。2000年に始まったんで「17」なんだろうけど、今年は2016年だからややこしい。というのも下のスパイラルガーデンでやってる「SICF16 受賞者展」を、今年の受賞者と間違えそうになったからだ。1回休んで年号と一致させるのはどう? もひとついわせてもらうと、会期わずか4日間を2グループに分けて50組ずつ2日間ずつしか展示しないので、すべて見るには4日間以内に2回見に行かなくてはならない。こりゃ不便だ。まとめて文句を書いたのは、語るに値するクリエーターが少なかったからだ。注目したのは二人だけ。ひとりは、静物画みたいな絵から絵具を削り取ったキャンバスや、紙をはがしたパネルを並べた野内俊輔。明らかに周囲から浮いていたが、そのことも含めてこういうの好きだ。もうひとりは、ソラマメやチクワを原寸大で描いたり、小さな布袋を「あぶらあげ」と称したり、タイルの上に富士山のせて「ポケット銭湯」をつくったりしている橘川由里絵。セコさの向こうに高橋由一の影が見える。

2016/05/02(月)(村田真)