artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
伊藤隆介「All Things Considered」
会期:2015/08/22~2015/09/26
児玉画廊[東京都]
広島の「TODAY IS THE DAY」展で瞠目すべき作品を出していた伊藤の個展。作品は計4点で、いずれもミニチュアでつくられた風景のなかをマイクロカメラが行き来し、その映像をスクリーンに映すというインスタレーション。広島で見た作品とほぼ同様の原発ものをはじめ、無人飛行機、暗黒に人やものが吸い込まれていくブラックホールなど。雲は綿で、原発の壁は菓子箱でみたいな手づくり感がたまらなくいい。
2015/09/11(金)(村田真)
島尾伸三「二分心 Bicameral Mind」
会期:2015/09/01~2015/09/12
THE WHITE[東京都]
このところ、個展、写真集の刊行(『じくじく』Usiomada)、大学時代の仲間たちとの同人誌『number』の復活展(「Lost “number” Update」THE WHITE、エスパス・ビブリオ)と、島尾伸三の活動に弾みがついている。今回の東京・神田のTHE WHITEでの個展でも、新たな展示の形を試みていた。
60点あまりの写真はいくつかのパートに分けられている。仮に「夜空/空き地」、「ショーウィンドー/商品」、「椅子」、「青い光」、「黄色」、「ゴシックとアールヌーボー」などと名づけることができる写真群である。写真は東京だけでなく、ヨーロッパやアメリカへの旅の途上でも撮影されていて、リスボンの地下鉄の隣にニューヨークの中央駅の写真が、その隣に自宅の写真が並ぶ。つまり、これまで折に触れて撮影してきた写真を、もう一度シャッフルして、テーマごとに再構成しようという試みなのである。
その結果として見えてくるのが「二分心」ということなのだろう。写真家は「思うように撮影が進まない、もがくように困難な時間帯」に落ち込むときがあるが、それでも「そんな時でも私の目玉は景色の中に撮影に値すると思われる空間を見いだしている」のだという。その二つに分けられた目と心の動きを導いている「生命の根源に近い何か」を、写真の再構築を通じて浮かび上がらせようとしているのが今回の試みなのだ。写真を撮るという行為の根元にある「衝動と啓示」を探り当てようというその作業は、まだ始まったばかりのようだが、さらなる展開が期待できそうだ。
2015/09/11(金)(飯沢耕太郎)
六甲ミーツ・アート 芸術散歩2015
会期:2015/09/12~2015/11/23
六甲山上のさまざまな施設を舞台に現代アート作品の展示を行い、アートと六甲山の魅力を同時に満喫できるイベント。6回目を迎える今年は約30組のアーティストが出品し、会期中にはパフォーマンスやワークショップなど多彩な催しも行われている。筆者が毎年楽しみにしているのは、六甲高山植物園から六甲オルゴールミュージアムに至るルート。ここでは、貝殻のような陶の小ピースを森の中に散りばめた月原麻友美の《海、山へ行く》と、旧六甲山ホテルの電気スタンドを組み合わせて光と音がコール&レスポンスする久門剛史の《Fuzz》がお気に入りだった。また、六甲有馬ロープウェーで大規模なインスタレーションを行っている林和音の《あみつなぎ六甲》と、六甲ガーデンテラスで光とオルゴールを駆使した作品を夜間に展示している高橋匡太の《star wheel simfonia》もおすすめしたい。そして、今年にはじめて会場となった旧六甲オリエンタルホテル・風の教会では八木良太が音の作品《Echo of Wind》を出品しており、安藤忠雄建築との充実したコラボレーションが体験できる。作品、展示、環境、ホスピタリティが高いレベルで安定しているのが「六甲ミーツ・アート」の良い所。関西を代表するアートイベントとして、胸を張っておすすめできる。
2015/09/11(金)(小吹隆文)
角田みどり「Messages.I」
会期:2015/08/06~2015/09/19
キヤノンギャラリーS[東京都]
角田みどりは1977年、東京生まれ。2000年に上智大学外国語学部ロシア語学科卒業という、やや異色の経歴の持ち主である。その後、雑誌や広告の仕事をしながら、ここ10年余り世界中を旅して風景写真を撮りためてきた。今回の展示が最初の本格的な個展ということになる。
東京・品川のキヤノンギャラリーSは汎用性の高いスペースで、可動式の壁面とライティングを工夫して作品をインスタレーションすることができる。今回の角田の展示では、渡り廊下のような暗く、細い通路をくぐり抜けると、ロールペーパーを3枚つなげた巨大なプリントが並ぶ大きな空間が出現するように仕組まれていた。照明を極力抑えているので、最初のうちは画像の細部が見えてこないが、少し目が慣れてくると、世界各地の「聖地」をテーマにした構えの大きな写真群が浮かび上がってくる。数はあまり多くないが、写真はよく選び抜かれており「魂とはなにか? 祈りとはなにか? 神とはなにか?」という生真面目な問いかけに、彼女なりの答えを出していこうとする志の高さが充分に伝わってきた。
ただ、その「Message」の出し方があまりにも大上段にふりかぶり過ぎているので、気負い過ぎでやや単調になっているようにも見える。マクロコスモス的なイメージだけではなく、より小さな日常の宇宙にも目を凝らし、そこからも魂や祈りや神を引き出していくようになるといいのではないかと思う。次回の「Message.II」では、「壮大な大自然」だけではなく、人間の暮らしの細部も見てみたい。
2015/09/09(水)(飯沢耕太郎)
超克する少女たち
会期:2015/09/08~2015/09/26
ギャルリーパリ[神奈川県]
「超克する少女たち」というタイトルから「超少女」を連想するのは50代以上の人たち。30年ほど前に『美術手帖』が、80年代に急増した若手女性作家を取り上げて「美術の超少女たち」という特集を組み、賛否ともども話題になったものだ。そのころ評論活動を始めた同展キュレーターの室井絵里は、「超少女」にそれ以前の「女流」という言葉と同じく「男性目線的な語感を感じ」たというから、これは「超少女」を超えるべく企画された30年目のリベンジともいえる。といっても別にガチなフェミニズム展ではないし、「少女性」や「女性性」を否定しているわけでもないことは、団塊の世代の石内都から20代の片山真理まで8人の幅広い作品を見ればうなずける。ちなみに、このなかで先の「超少女」特集に登場したのは菅野由美子ただひとり。その彼女も、80年代前半はユーモラスなインスタレーションを発表していたが、やがてシリアスな立体に移行、その後しばらく沈黙し、数年前から油彩による静謐な静物画を手がけるようになって、超少女時代とは完全に断絶している。ほかに立体、写真、映像など作品は多彩だが、花(細淵太麻紀)、器(菅野由美子)、貝殻(アキイノマタ)、衣服や靴(舟田亜耶子)など、女性のシンボルを連想させるようなモチーフが多いのは偶然ではないだろう。
2015/09/08(火)(村田真)