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美術に関するレビュー/プレビュー

《写真》見えるもの/見えないもの #02

会期:2015/07/13~2015/08/01

東京藝術大学大学美術館陳列館[東京都]

東京藝術大学美術学部写真センターを中心とする実行委員会が主催する「《写真》見えるもの/見えないもの」展は、2007年以来8年ぶりの開催になる。ただ、その前身といえる「写真で語る」展が1988~95年に4回にわたって開催されているので、25年以上の歴史を含み込む展示となっていた。
東京藝術大学写真センターは1980年代以来、写真表現の「アート化」の一翼を担って、ユニークな写真作家を輩出してきた。今回の展覧会には、佐藤時啓、鈴木理策、今義典、佐野陽一、下村千成、塚田史子、永井文仁、野村浩、村上友重、安田暁といった、写真センターにかかわりを持つ教員、スタッフが、クオリティの高い作品を出品していた。また韓国のArea Park、アメリカ在住のOsamu James Nakagawa、中国と日本のカップル榮榮&映里という「海外にベースをおきながら。日本をテーマとした作品を発表してきたアーティスト」が加わることで、より重層的な、広がりのある展示が実現した。
「写真で語る」の頃から本展を見続けている筆者にとっては、とても感慨深い展示だった。かつては、写真をアート作品として制作・発表すること自体に、乗り超えなければならないハードルがあったのだ。それが四半世紀を経過して、むしろこの種の展覧会はあたり前になり、クラシックな趣さえ呈するようになった。さらに1990年代半ば以降は「デジタル化」というもうひとつのファクターが加わり、「新たに生まれたデジタル技術の様々な可能性とともに、現在における「写真」を再考する必要」が生じてきた。25年の歴史をもう一度ふりかえりつつ、それぞれの写真作家の未来像を提示していく時期に来ているということだろう。

2015/07/14(火)(飯沢耕太郎)

吉田重信「2011312313」

会期:2015/07/11~2015/07/26

ギャラリー知[京都府]

ギャラリーに展示されているのは、新聞記事を極端に露出アンダーな状態で撮影し、大きく引き伸ばした写真作品4点と、真っ黒なタブロー状の平面作品。前者は、2011年に起きた東日本震災の翌日3月12日とその翌日の13日に発行された地元新聞2紙で、福島県双葉郡浪江町(福島第一原発から10キロ圏内で現在も放射線量が高く帰宅困難地域に指定されている)の販売所に放置されていたものだ。後者にはその新聞の実物を鉛で覆った容器が入っており、作品表面には震災が起こった日時が刻印されている。紙面を見ると当時の緊迫した様子が伝わるが、画面が暗すぎて判読できない部分も少なくない。これは薄れゆく記憶の暗喩であり、それに抗おうとする作者の意志の表われでもある。吉田は福島県いわき市在住の作家で震災の被災者でもあるが、これまでも折に触れ東日本大震災をテーマにした作品を発表してきた。そのブレない姿勢、継続する意志を前にすると、こちらも襟を正さざるをえない。

2015/07/14(火)(小吹隆文)

東學女体描写展──戯ノ夢

会期:2015/07/10~2015/07/24

乙画廊[大阪府]

女性の裸体に墨絵を描き、撮影した写真作品の連作を出品。まず墨絵が素晴らしい。描かれているのは動物、魔物、植物、花、骸骨などだが、それらが身体のフォルムにそって装飾性豊かに配置されている。おそらく短時間で制作したと思われるが、その画力には驚かされるばかりだ。また、モデルの女性たちの表情、ポージングも作品と調和しており、東のディレクション能力の高さが窺える。写真も本人が撮影しており、紙の選択や特殊な印画法(色分解して出力しているのか?)が効果的だった。すこぶる魅力的な作品なので、一度限りの実験作ではなく、今後も継続してシリーズ化することを望む。

2015/07/13(月)(小吹隆文)

コレクション展1 あなたが物語と出会う場所

会期:2015/05/26~2015/11/15

金沢21世紀美術館[石川県]

実は「われらの時代」展で唯一共感したのが、藤浩志のビニール・プラスチックを使ったインスタレーション《ハッピーパラダイズ》だが、あとで確認したらコレクション展だった。知らないうちに別会場に紛れ込んでたみたい。藤の作品は何千(何万?)個ものカラフルな樹脂製のリサイクル玩具を分別し、恐竜を組み立てたもの。コンセプト的にもヴィジュアル的にも有無をいわせぬ迫力がある。あとは、できやよい、大巻伸嗣、小沢剛、中村錦平、イ・ブルの出品だが、前にどこかで見た作品が大半。コレクション展だからね。

2015/07/12(日)(村田真)

われらの時代:ポスト工業化社会の美術

会期:2015/04/25~2015/08/30

金沢21世紀美術館[石川県]

まだ先の話だが、金沢21世紀美術館と水戸芸術館が共同で「80年代展」を計画してるらしく、そのプレイベントとして峯村敏明氏とともに「80年代美術」について話しに行った。そのトークの直後に見せてもらったため、頭が「ポストもの派」のまま切り替わらず、「ポスト工業化社会」には追いつきませんでした。出品は金氏徹平、小金沢健人、泉太郎、三瀬夏之助、束芋、スプツニ子!ら10組で、ひとつのハコ(展示室)に1組の個展形式。日本人が殺害された砂漠の風景を映像で再現した小金沢や、気宇壮大なヴァナキュラー絵画を復活させようとする三瀬など、惹かれる作品もないではないが、「美術」を1から構築し直そうとしたポストもの派ほどにはシンパシーを覚えない。まあ世代も違うし、比べるのも大人げないが。

2015/07/12(日)(村田真)

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