artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
Unknown VOID No.6 村田峰紀
会期:2015/06/26~2015/07/12
void+[東京都]
紙から辞書、ベニヤ板、液晶テレビ画面へと引っ掻く相手を乗り換えてきた村田だが、今回はギター。掻き鳴らすというより掻き散らした5本のギターは弦が切れ、胴体に穴が開き、無惨な姿をさらしている。しかしこれは実際に引っ掻いてるパフォーマンスを見なきゃ、おもしろみは半分しか伝わらないだろう。音を聞きたかったなあ。玄関横のギャラリーのほうは1畳ほどのスペースを残して白い壁を立て、そこに大きな赤い円形の引っ掻き傷をつけている。ボロボロの、傷だらけの日の丸。ところどころ黒点のように穴も開いてる。かつてここまで力を込めて日の丸を描いた人がいただろうか。早くも今年のベスト10入りだ。
2015/07/09(木)(村田真)
TWSエマージング2015
会期:2015/07/04~2015/08/02
トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]
阿部友美、菅雄嗣、須藤美沙の3人。阿部は雪景色のなか背中を丸めて歩く男や、パンツ一丁でケータイする男など淋しい男の姿ばかりを2、3色でシンプルに描いている。2階では3面の壁に3面のキャンバスを配し、男が後ろ姿でたたずむ緑の草原風景をパノラマ的に展開。これはご苦労さんだが、この展示室のサイズに合わせた作品なので、ほかの場所では展示しにくいだろう。菅は、男にライフルを突きつける女をステンドグラスみたいに輪郭を強調して描いたり、プラモデルのセットをグラデーションの上に描いたり。ていねいな仕事だ。須藤はNASAおたくなのか、ハッブル宇宙望遠鏡を描いたり、白と黒の2枚の紙に穴を点々と開け、裏から光を当てて銀河系のように見せたりしている。絵に対するこだわりより、NASAや宇宙への愛のほうが勝ってる。
2015/07/09(木)(村田真)
井村一巴「physical address」
会期:2015/06/23~2015/07/12
みうらじろうギャラリー[東京都]
井村一巴の作品は、「ピン・スクラッチング」というユニークな手法で制作されている。モノクロームのプリントの表面を、虫ピンのようなもので引っ掻いて、微かな傷をつけていく。元になっている写真のほとんどはセルフポートレート(ヌード)で、漆黒の闇から身体の輪郭が浮かび上がってきている。その繊細な陰翳の描写と、スクラッチによって生み出されていく蜘蛛の巣の網目やプランクトンのような有機的なかたちとが、絡み合いつつ増殖して、静謐だが深みのあるイメージの小宇宙があらわれてくるのだ。同じネガからプリントしたり、裏焼きしたりした写真も使われているが、スクラッチのやり方でまったく違う作品として成立しているのも興味深かった。
今回展示されたのは2008~15年に制作された26点だが、近作になるにつれて、技法的に洗練され、内容的にも成熟してきているように感じられた。「絹の糸」(2014年)、「春の雪」(同年)のような、80×30センチという「大作」もあるが、大部分はサイズの小さな「小品」である。だが、井村の作品世界にふさわしいのは、むしろ「小さい」作品のようにも思える。「小視症」(2013年)というのはいいタイトルだが、他にもこのタイトルにふさわしい作品がたくさんあった。また、最近では「ピン・スクラッチング」だけでなく、鉛筆のドローイングと写真をコラージュした作品も制作しはじめている。こちらは、より自由にイメージを展開できるので、作品が別な方向に広がっていく可能性を感じた。
2015/07/09(木)(飯沢耕太郎)
須田一政「SOLO」
会期:2015/06/27~2015/07/18
成山画廊[東京都]
一時体調が悪かった須田一政の「復活」は、昨年あたりから続いていて、止まる所を知らない。各地で開催される個展の数だけでも相当のものだし、旧作だけでなく新作も次々に発表している。創作意欲が以前にも増して高揚してきているようだ。
今回の東京・九段南の成山画廊での「SOLO」展も、2014年に撮り下ろされた新作16点による展示である。DMにも使われた、画廊主の成山明光氏を撮影したポートレートが、まず強烈な印象を与える。諏訪敦が描いた自分の肖像画を前に煙草をくゆらす姿をストロボで写し止めた写真だが、画面全体に漂う魑魅魍魎が跋扈するような不穏な空気感がただ事ではない。他にも靖国神社や神保町など、神田界隈の写真が多く目についた。須田自身が神田の出身(1940年生まれ)なので、その辺りの地霊に促されてシャッターを切っているようにも見えてくる。この世ならざる異界の住人たちに取り憑かれるような気配は、既に須田の初期の写真から色濃かったのだが、それがさらに強まっているように思えてならないのだ。
会場には、まだタイトルも決まっていないという、未発表のカラーのスナップ写真も展示してあった。サービスサイズにプリントして構想を膨らませている段階だが、こちらも面白くなりそうな予感がする。モノクローム中心だった須田の作品世界に、風穴が開きはじめてきているのだろうか。
2015/07/09(木)(飯沢耕太郎)
Ren Hang「NEW LOVE」
会期:2015/06/19~2015/07/25
matchbaco[東京都]
1987年中国・吉林省生まれのRen Hang(任航/レン・ハン)は、北京を拠点に活動している現代写真家。最近はパリ、ニューヨーク、ウィーンなどでも展覧会を開催し、注目度が急速に上がってきている。今回の新宿のギャラリー、matchbacoでの展示が、日本では最初の個展になる。
「NEW LOVE」は、ニューヨークで撮り下された新作だが、Ren Hangの作品を特徴づけるヴィヴィッドな色彩感覚と、ヌードの男女が絡み合う、あっけらかんとしたエロスの表現は健在である。特に男女が野外で彫刻のようにポーズをとる、身体のフォルムを強調した作品群の面白さが際立っており、思わず笑ってしまうような楽しい写真に仕上がっていた。よくライアン・マッギンレーと比較されるようだが、彼の写真には、アメリカやヨーロッパの写真家にはない、中国人(アジア人)の微妙な身体感覚が投影されているように感じる。中国ではごく最近まで写真による裸体表現はタブーになっており、作品を公表するにあたっては、裸が「自然な、ありのままの」あり方である欧米諸国とは比較にならないような、プレッシャーがあったはずだ。それを乗り超え、突き抜けていくことで得られる解放感が、ポジティブなエネルギーとしてあふれ出ている。日本の若い写真家たちにも、これくらいのびやかな身体表現を期待したいのだが、最近なかなかそういう作品に出会えないのが残念だ。
なお、写真展にあわせて同名の写真集も刊行された。今回はニューヨークの写真だけだったが、北京で撮影されたより過激で過剰な作品群も、ぜひもう一回り大きな会場で見てみたいものだ。
2015/07/08(水)(飯沢耕太郎)