artscapeレビュー
石塚公昭「ピクトリアリズムII」
2015年06月15日号
会期:2015/04/25~2015/05/09
Gallery and Cafe Hasu no hana[東京都]
江戸川乱歩、泉鏡花、永井荷風、谷崎潤一郎ら作家の人形を作り、彼らの小説の場面にあわせてインスタレーションして撮影する作品で知られる石塚公昭は、1990年代から古典技法のオイルプリントによる写真印画を制作しはじめた。きっかけになったのは、91年に東京都渋谷区の松濤美術館で開催された「野島康三とその周辺」展のカタログをたまたま目にして、野島の写真に衝撃を受けたためだという。オイルプリントは、画像を硬化・脱色してゼラチンのレリーフを作り、そこにインク(顔料)をブラシや筆で叩き付けるようにして塗布する技法である。大正時代の技法書をひもといて、手探りで制作しはじめたのだが、画像が何とか出てくるまでに数ヶ月を要したのだという。
今回は、江戸川乱歩、村山槐多などをテーマにした「作家シリーズ」に加えて、「ピクトリアリズムII
裸婦」シリーズが展示されていた。こちらの方が、まさに野島康三の作品世界のオマージュとしてきちんと成立しているように思える。独特の粘りつくような画像の質感に加えて、モデルの女性たちの風貌やたたずまいが、いかにも大正・昭和初期らしいのだ。1990年代と比較すると、ブラシの操作(インキング)の技術もかなり進歩し、スキャニングしたデジタルデータを印刷用フィルムに出力できるようになって、より大きな作品も制作できるようになった。
このところ、デジタル化の反動なのか、古典技法に目を向ける写真作家が増えている。だが、石塚の仕事はその中でもひと味違っているのではないだろうか。彼のイマジネーションの広がりと、それを形にしていくプロセスとが、ぴったりとはまっているように思えるからだ。このオイルプリントによる作品群も、まだこの先の展開の可能性がありそうだ。
2015/05/08(金)(飯沢耕太郎)