artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
第33回 明日をひらく絵画 上野の森美術館大賞展
会期:2015/04/29~2015/05/10
上野の森美術館[東京都]
602人、854点の応募から選ばれた136点の展示。会場をざっと見回して異様に感じるのは、まず作品が過密なこと。入選作品数は昨年の半分に絞ったものの、その分これまで前後2回に分けてた会期を1回に収めたため、密度は変わらない。それに、過半数の作品が正方形のS100号であるのも異様だ。サイズは100号までという制限があるのだろう。Sサイズだと長辺×長辺なので同じ100号でも面積がいちばん広くとれるってわけだ。もうひとつ、すべてに額縁がついてること。これも条件に含まれているのかもしれないが、同じ美術館でやってる「VOCA展」はほとんど額縁なしなので、おのずと絵の目指す方向性は違ってくる。はずなのに、両者の差異は縮まってる気がする。良し悪しではなく、前後左右の違いがなくなり、似たり寄ったり化しているのだ。もっと保守本流に徹するとか、立場をはっきりさせてほしいなあ。
2015/05/04(月)(村田真)
ボッティチェリとルネサンス
会期:2015/03/21~2015/06/28
Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]
渋谷のBunkamuraザ・ミュージアム「ボッティチェリとルネサンス」展を見る。ウフィツィ美術館などから集めた作品を紹介したものだ。文句なく美しいものから、バランスや表情が雑なものまで、絵画のクオリティのばらつきが大きい。が、逆に同時代におけるそうした違いが比較できて興味深い。時代順に追っていくと、女性=ヴィーナスの顔もだんだんキャラ化している。
2015/05/03(日)(五十嵐太郎)
塩谷定好作品展
会期:2015/05/01~2015/07/31
フジフイルムスクエア写真歴史博物館[東京都]
塩谷定好(1899~1988)は鳥取県東伯郡赤碕町(現琴浦町)出身の写真家。裕福な廻船問屋の後継ぎだったが、家業を弟に譲って、写真撮影と制作に生涯を費やした。1928年創設の日本光画協会の会員として、「ベス単」カメラによるソフトフォーカス表現、印画紙を撓めて引き伸す「デフォルマシオン」などの技法を駆使して、大正・昭和初期の「芸術写真」の中心的な担い手の一人となった。同じ鳥取県境港出身の植田正治は、「塩谷さんといえば、私たちにとって、それは神様に近い存在であった」と常々語っていたという。
塩谷の作品は、一時やや忘れられた存在になっていたが、1970年代に欧米諸国で再評価の気運が高まり、国内外の美術館に収蔵されるようになった。今回の展示は、明治40年頃に建てられたという生家を改装した「塩谷定好写真記念館」に収蔵されている25点によるものであり、ほとんど公開されていない作品が多かった。これまではどちらかといえば、山陰のローカルカラーが色濃く滲み出ている、重厚な風景や人物写真が目についていたのだが、スキーのシュプールを写した「氷ノ山にて」(1938年)や「伯耆大山にて」と題された1920~30年代の山歩きの写真など、スナップショット的に切り取られた軽快な作品もかなりあることがわかった。二人の人物の脚を下から狙って撮影した「無題」(1927年)の斬新なカメラアングルには、モダニズム写真の息吹も感じられる。「日本芸術写真のパイオニア」という塩谷の位置づけも、もう一度見直していくべき時期に来ているのではないだろうか。
2015/05/02(土)(飯沢耕太郎)
マイク・カネミツ/金光松美──ふたつの居場所
会期:2015/04/24~2015/05/16
大阪府立江之子島文化芸術創造センター[大阪府]
1950~60年代にニューヨーク・スクールの画家として活躍、1965年以降は西海岸に居を移し、独自の色彩感豊かな抽象画を制作したマイク・カネミツこと金光松美。ジャクソン・ポロックやウィレム・デ・クーニングらと共に抽象表現主義の第一線で活躍した日系人画家がいたとは、誇らしい限りである。彼の個展は1998年に国立国際美術館で開催されており、本展はそれに次ぐ機会となる。出品作品は大阪府20世紀美術コレクションで、ニューヨーク時代の具象画と抽象画、西海岸時代の作品を合わせた約40点。もう少し広い場所で大規模な個展を行ってほしかったが、コレクションの有効活用という意味で意義深い企画であった。
2015/05/02(土)(小吹隆文)
没後100年 小林清親展
会期:2015/04/05~2015/05/17
練馬区立美術館[東京都]
これも日清戦争を描いた戦争画が出ているので見に行く。お目当ては、2月に静岡市美に行ったとき見られなかった《我艦隊黄海ニ於清艦ヲ撃チ沈ル之図》。清の戦艦が沈んでいく様子をまるで水族館のように水中から見た想像図なのだが、カタログでは気づかなかったけど実物を見て驚いたのは、沈没する船体に巻き込まれて沈んでいく無数の人間が細かく描かれていること。これは流体力学的にいえば理にかなった描写だと思うけど、なんでこんな不可視の情景を想像することができたんだろう。清親は最後の浮世絵師であると同時に、五姓田義松や高橋由一とともにワーグマンに習った最初の洋画家でもあり、かなり合理的な思考の持ち主だったのかもしれない。
2015/05/01(金)(村田真)