artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
山本昌男『小さきもの、沈黙の中で』
発行所:青幻舎
発行日:2014年12月10日
やや前に刊行された作品集だが、山本昌男の新作を取り上げておきたい。山本はどちらかといえば、日本より欧米諸国で評価の高い写真家で、小さいプリントを、「間」を意識しながら、撒き散らすように貼り付けていくインスタレーションで知られている。だが、日本では展覧会を見る機会はあまりなく、アメリカのNazraeli Pressなどから刊行されている写真集も、少部数であるだけでなく絶版になっているものが多い。その意味で、今回青幻舎から代表作をおさめた作品集が刊行されたのは、とてもよかったと思う。
「混沌」、「静謐な気」、「逍遥」、「構築された光」、「超空間時間」、「浄」の6部で構成された作品の並びは、とても注意深く考えられており、ほぼ実物大の写真のレイアウトの仕方に、独特のリズム感がある。山本が書いた序文にあたる文章に、彼の制作の姿勢がよくあらわれているので、引用しておくことにしよう。
「見過ごされそうな小さな物や些細な出来事を発見した喜び、ボタンのかけ違いのような感覚、思わず入り込んでしまった霞の中で立ち位置を失った瞬間などに強く興味を引かれ、こだわってきたことではないかと思っています。[中略]私の作品から、有るのか無いのか分からないくらいの微かな電磁波のようなものが発せられて、弱いけれど弱いからこそ強いメッセージとなり、皆様に届くように願っています。」
こんな写真家がいるということを、ぜひ知ってほしいと思う。
2015/04/27(月)(飯沢耕太郎)
飯川雄大「ハイライトシーン」
会期:2015/04/03~2015/04/26
高架下スタジオ・サイトAギャラリー[神奈川県]
仮設壁に何台かモニターを埋め込み、サッカーのゴールキーパーの映像を流している。腹ボテボテのおやじやくわえタバコでボールを処理する兄ちゃんなど、ほとんど草サッカーのゆるいレベルで、ユーチューブでしばしば見られるようなスーパーセーブや珍プレーを期待したら大間違い、ずっと見ててもなにも起こらない。つまらないといえばこれほどつまらないものはない。昨年ベルリンに滞在したときに制作した作品。
2015/04/26(日)(村田真)
楢橋朝子 写真展「biwako2014-15」
会期:2015/04/15~2015/04/26
galleryMain[京都府]
galleryMainの移転リニューアルのオープニング企画。倉庫を改装した新スペースに、写真家の楢橋朝子が2014 年から15 年にかけて琵琶湖を撮り下ろした新作が展示された。
展示作品はいずれも、水中に浸かりながら岸辺の光景を撮った、半水面/半陸上・空が写った写真。揺れる波間に身を置き、コントロールを手放して撮影することで、安定した水平線が画面から姿を消し、水面/陸上、自然/人工、形の定まらない流動体/輪郭をもった固体といったさまざまな境界が不安定に揺らぎ、遠近感までもが狂っていく。生き物のように蠢く水、その彼方にあるはずの岸辺の光景は蜃気楼のように曖昧にぼやけ、クリアな輪郭を失い、不安定に斜めにかしぎ、あるいは眼前にせり上がった奔流に山並みや建物、ヨット遊びの人などが飲まれていくような感覚を覚える。画面を見ている私たちもまた波間に浮き沈み、飛沫に飲み込まれてしまうような不安定さ、重力を失った身体が上下する浮遊感……だがその感覚は不思議と心地よい。安定した二項関係、構図、視点が撹乱されるさまを、浪間に漂う身体感覚を共有し、撮る快楽とともに身体感覚ごと追体験して味わうことが、楢橋作品の大きな魅力であるだろう。
加えて今回の展示では、琵琶湖が一年間かけて撮影されている。咲き誇る桜を背景に半ばまどろむかのような灰色混じりの水、夏の青空を映し出す透明感をたたえた青、雪山の白さに突き刺さるような冴え冴えとした冬の黒、鉛のように重くたゆたう鈍い灰色……季節ごとに色を変え、多彩な表情を見せる湖面が実に魅力的だった。
2015/04/26(日)(高嶋慈)
六本木アートナイト2015
会期:2015/04/25~2015/04/26
夜11時ごろから2時間ほど徘徊してみた。ヒルズの毛利庭園に置かれたチームラボの《願いのクリスタル花火》は、円筒形に吊るしたクリスタルに観客がスマホから選んだ打上げ花火を投影できるというもの。これは華やかだけど、金がかかってそう。街なかのビルの一室でやっていた曽根光揮の《写場》には頭をひねった。スクリーン上にカメラおやじが登場し、スクリーン前の椅子に座った観客を撮影するという参加型の映像インスタレーションだが、1分もたたないうちにいま写した写真がプリントされてスクリーン上に一瞬だけ映し出される。どういう仕掛けか、スクリーンと現実が交錯するのだ。さてそんなインタラクティヴなメディアアートが大勢を占めるなか、ひとり反旗を翻すかのようにアナクロ・アナログ路線を突っ走ったのが中崎透の《サイン・フォー・パブリックアート》。六本木の各所に置かれたパブリックアートをダサいスナックの看板みたいに仕立てた秀作。これはおもしろい。でも元作品を知らなければ理解不能だけど。ともあれ夜通し人騒がせなアートイベントであった。
2015/04/25(土)(村田真)
project N 60 富田直樹
会期:2015/04/18~2015/06/28
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
日常的な画像をそのまま(ただし分厚いマチエールで)写した絵画。最近ありがちな作品だが、0号(18×14センチ)のキャンバス計40点に描いた肖像画はいいなあ。これに徹せば道が開けるかも。
2015/04/25(土)(村田真)