artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

近代日本の社会と絵画──戦争の表象

会期:2015/04/11~2015/06/07

板橋区立美術館[東京都]

鎌倉から乗り継いで成増で「戦争画」仲間と合流し、板橋と練馬をハシゴ。板橋区美は駅から遠いけど、コレクション展なので入場無料なのがうれしい。ほんとは公立美術館はすべて入場無料が原則のはずなんだけど。さて、タイトルは「戦争の表象」だが、第2次大戦前後(おもに30-60年代)に描かれた絵画を集めたもので、必ずしも戦争がモチーフになっているわけじゃなく、いわゆる戦争記録画は皆無。でも新海覚雄の《貯蓄報国》のような銃後の風景や、山本日子士良や古沢岩美のように従軍中に戦地で描いたスケッチもある。おそらく美術館としては、戦時中にもかかわらず戦争とは関係ない主題に取り組んだ松本竣介や麻生三郎、寺田政明ら新人画会をメインにしたかったんじゃないかと思うけど、それ以上に目立ったのが古沢岩美、福沢一郎、小川原脩、高山良策、山下菊二らシュルレアリスム系で、ざっと半数を占めている。板橋はとくに多く集めたのかもしれないが、30年代に一部でシュルレアリスムが猛威を振るったのも事実だろう。それにしてもシュルレアリスムと戦争とは近そうで遠い、およそ思想的にも表現的にも水と油のような関係のはず。だとすれば、シュルレアリスムから戦争画に流れた画家たち(同展には出品されていないが福沢も小川原も山下も戦争画を描いた)は、両者をどのように融合させたのか、あるいは融合させなかったのか、興味深いところではある。

2015/05/01(金)(村田真)

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鎌倉からはじまった。1951-2016「PART1: 1985-2016 近代美術館のこれから」

会期:2015/04/11~2015/06/21

神奈川県立近代美術館 鎌倉[神奈川県]

今年度いっぱいで閉館する「鎌近」最後の企画展。1951年の開館以来60年を超す展覧会活動を、現在から過去に向かって3回に分けて振り返っている。パート1では、85年から現在まで30年間に開かれた展覧会のなかから、斎藤義重、井上長三郎、山下菊二、田淵安一、山口勝弘、宮脇愛子、李禹煥、河口龍夫、畠山直哉、内藤礼ら約70作家の作品を展示。あれ? 85年以降といいながら、最後の3、4人を除けばそれ以前の古い作家ばかりじゃないかと思うのだが、あくまでこの30年間に展示された作品というだけで、制作年も作家の活躍した時代も大半はそれ以前のもの。だから必ずしも時代を反映した展示になってるわけではないのだ。展示全体を通して感じたのは、どこかしら文学性(文学臭も含めて)を漂わせる作品が多いこと。基本的にひとり1点の出品なのに、なぜか詩人の西脇順三郎だけが3点(飯田善國との詩画集を合わせれば4点)も出品しているせいもあるかもしれないが、そうじゃなくても、例えば田淵安一はあるけど桑山忠明はないとか、李禹煥はあるけど高松次郎はないとか、河口龍夫はあるけど菅木志雄はないとか、また関西の作家がごっそり抜けてるとか、なんとなく趣味の偏りがうかがえる。つまり鎌近は文学好きというか、文学好きな美術が好きなのだ。ところで坂倉準三設計の美術館は、近代建築の記録と保存を目的とする国際組織DOCOMOMO(最初NTTドコモが出資してるのかと思ってた)の「日本近代建築20選」に選ばれたこともあるモダニズムの名建築。それだけに来年、敷地を所有する鶴岡八幡宮に返還される前に取り壊されるんじゃないかと心配していたが、現在は県と八幡宮のあいだで保存を前提に調整が進んでるらしい。でもどうせ残すならただ保存するだけでなく、文化的に活用してほしいものだ(八幡宮の宝物殿は似合わないけどね)。

2015/05/01(金)(村田真)

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西村多美子「猫が...」

会期:2015/04/24~2015/05/16

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

1969年に東京写真専門学校(現東京ビジュアルアーツ)を卒業した西村多美子の雑誌デビューは『カメラ毎日』(1970年8月号)の「4 GIRL PHOTOGRAPHERS」という特集だった。渡辺眸、鹿間英子、中西喜久枝とともに、写真学校を卒業したばかりの女性写真家たちの作品が、それぞれ2~3ページずつ特集されたのだ。
たまたま家に泊まりがけで遊びにきた女友だちをスナップしたこのシリーズは、東京写真専門学校在学中の「状況劇場」の役者たちの写真とも、70年代以降に日本各地への旅を重ねて撮影された「しきしま」のシリーズとも違って、まさに偶然の産物というべきだろう。至近距離から、寝転がっているモデルの姿を撮影し続けた一連のショットには、のびやかな開放感とともに濃密なエロティシズムを感じる。『カメラ毎日』の編集部で、作品ページの構成を担当していた山岸章二に写真を見せたところ、「多美子がお行儀の悪い写真を撮ってきた。でもおもしろい」と評されたのだという。たしかに「女の部屋に飼われた猫」のようなモデルを、あくまでも「女」の目でとらえようとしていることが、その「お行儀の悪い」、ふわふわと宙を舞うようなカメラワークからしっかりと伝わってくる。
今回展示された18点は、しまい込んでいて、たまたま見つけ出したネガから再プリントしたのだという。西村自身は、このような仕事をさらに展開していくことはなかったのだが、四半世紀後の90年代半ばに登場してきた女性写真家たちの、「女」の視点を強力に打ち出した写真の先駆けとなる作品といえそうだ。展示を見て、2つの世代のつながりと断絶を、もう一度考え直したいと思った。なお、展覧会にあわせて、ZEN FOTO GALLERYから同名の写真集が刊行されている。

2015/05/01(金)(飯沢耕太郎)

國府理の仕事と仲間たち

会期:2015/05/01~2015/05/30

ARTCOURT Gallery[大阪府]

昨年4月に急逝した國府理を偲んで、彼の作品15点と、彼と交流のあった仲間たちの出品物65点(作品37組、文章28名)から成る展覧会が開催された。筆者と國府の出会いは、彼が1994年に発表した《電動三輪自動車》にさかのぼる。その後も機会があるごとに作品を見てきたが、このように改めて彼の仕事を振り返る機会を得ると、やはり感慨を禁じ得ない。國府の作品は、前述した《電動三輪自動車》の他、《ROBO Whale》、《Sailing Bike》、《Parabolic Garden》などが展示された。それに花を添えたのが、仲間たちの65点である。國府理というアーティストが、どれだけ多くの人に愛され、影響を与えたかがよく分かる。今後は同輩や後輩のアーティストが、彼のスピリットを継承してくれるであろう。

2015/05/01(金)(小吹隆文)

若林奮 飛葉と振動

名古屋市美術館[愛知県]

若林奮は、一般的に鉄の彫刻家で知られるが、ランドスケープ的な作品も紹介されており、興味深い内容である。神慈秀明会の神苑は、取材で内部も訪れたことはあったが、流政之の彫刻、ミノル・ヤマサキ、I.M.ペイの建築しか見ておらず、若林の作庭もチェックしておけばよかった。近くのケンジタキギャラリー(会期:2015/04/11~2015/05/23)でも、タイミングを合わせて、若林の小さなドローイングなどを紹介している。

2015/04/30(木)(五十嵐太郎)