artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

福岡陽子「本と物語、または時間の肖像」

会期:2015/04/20~2015/04/25

森岡書店[東京都]

本には、それ自体に写真の被写体としての独特の魅力があると思う。特に長い年月を経て現在まで残っている古書は、まさに「時間の肖像」とでもいえるような存在感を発しており、そこからさまざまな物語を引き出せそうな気がしてくる。福岡陽子は、ここ10年ほど古書店で洋書を扱う仕事をしており、次第にそれらを写真に撮ってみたいと思うようになった。2010年頃から17世紀~19世紀に出版された書籍を撮影しはじめる。その中から選んで、壁に10点、机の上に4点、ケースの中に1点展示したのが今回の個展である。
福岡のアプローチは、奇を衒ったものではなく、まず本をしっかりと観察し、細部に眼を凝らしつつ、その一部をクローズアップして提示している。そのことによって、革の表紙のほつれ、経年変化によって黄ばんだ紙、かすれた文字などが、あたかも生きもののような生々しさをともなって立ち上がってくる。それはまさに、本を「肖像」として撮影するという試みなのだが、そのプロセスが無理なく、自然体でおこなわれているように感じられるのは、彼女が長年古書を扱ってきたためだろう。いわば、それぞれの本を最も魅力的に見せる勘所のようなものを、正確に把握していることが伝わってきた。
会場構成で気になったのは、展示作品の上方の壁に、切り離された洋書のページが「鳥の群れ」のように貼り付けてあったことだ。アイディアは悪くないが、インスタレーションとしての精度を欠いているので、やや取ってつけたように見えてしまう。それと、そろそろ撮り方がパターン化しはじめているように思える。本というテーマには、まだまだ可能性があると思うので、違う方向からのアプローチも試みてほしい。

2015/04/21(火)(飯沢耕太郎)

天才ハイスクール!!!!展覧会「Genbutsu Over Dose」

会期:2015/04/17~2015/04/23

高円寺キタコレビルほか[東京都]

「天才ハイスクール!!!!」が終わった。2010年以来、Chim↑Pomの卯城竜太が講師を務めた美学校のクラスからは毎年のように数々の異才が輩出され、とりわけ美術大学の教育を経由しない表現のあり方は、東京のアートシーンに物議を醸しながら新たな局面を切り開いてきた。その功績は間違いなく大きい。
ただ、既存の美術大学と対照的な教育を実践してきた「天才ハイスクール!!!!」とはいえ、卒業と同時に社会の荒波に揉まれることになる多くの美大生と同じように、卒業後に孤独な闘いに挑むことを余儀なくされる点は変わらない。今後アーティストとして大成するかどうかは、それぞれ一人ひとりが、「天才ハイスクール!!!!」という集団性で得た経験をもとに、どのように闘いながら生き残っていくかにかかっているだろう。
そのために重要な点は、おそらく3つある。
第一に、先人との関係性。「天才ハイスクール!!!!」は、Chim↑Pomの卯城竜太を講師にして始められたということもあり、もともと上下の関係性が乏しい。むろん、そこには不必要な束縛からは無縁であるという利点があると同時に、ほどよい緊張関係にある先人のアーティストからの激励や批判を受けにくいという弱点も抱えている。むろん会田誠やChim↑Pomなどの先人たちに恵まれていないわけではないが、それにしてもある種の偏りは否めないし、とりわけコミュニティが細分化されている東京では、そのような縦の関係性の恩恵はもたらされにくい。Chim↑Pomが彼らの師匠にあたる会田誠の芸風に影響を受けつつも、同時に軽やかに乗り越え、独自の芸風を確立したように、「天才ハイスクール!!!!」もまた、Chim↑Pomの影響圏内から鮮やかに脱出することが必要となるはずだ。
第二に、地方との関係性。「天才ハイスクール!!!!」とは、よくも悪くも、きわめて東京的な運動体だった。東京のアートシーンは、世代や美術大学、趣向などの条件によって細かく分割されており、その細分化された環境がある種の快適な自由を担保することは事実だとしても、その反面、外部との接点を見失いがちだという欠点も否定できない。外部とは、すなわち自分が帰属する世界以外の世界であり、外部を見失うとは、それらを視野に収めることなく、例えば東京という舞台を全国と錯誤することにほかならない。改めて言うまでもなく、東京とは日本の首都機能を担っているものの、少なくとも美術に限って言えば、全国にあるアートシーンのひとつにすぎない。東京のある部分で評価されたからといって、勝ち誇ったように振る舞うのは、まさしく「井の中の蛙」である。Chim↑Pomが広島という地方都市で決定的な挫折を味わい、その後自力で復活を遂げたように、「天才ハイスクール!!!!」のメンバーは、あえて東京から離れたところでの活動に身を投じるべきだ。東京とはまったく異なる、それぞれの土地の事情を肌で感じれば、自らの表現を根底から見直さざるをえないし、そのことを契機として、さらなる展開を期待できるからだ。
第三に、より根本的には、直情的かつ単発的な表現のあり方をどのように発展させ、展開していくか。「天才ハイスクール!!!!」にしばしば浴びせられがちな批判として、それらの表現がきわめて単純明快であり、まるで思いつきをそのまま可視化したような作品が多いという点が挙げられる。表現の初期衝動を具体的な作品として結実させる点では、なんら問題はない。他の文化表現に比べると、とりわけ現代美術は歴史や文脈、技術などの専門知によって不必要に初心者を遠ざけてきたことを思えば、むしろそのような直接性は推奨されるべきだろう。けれども、「天才ハイスクール!!!!」が解散したいま、彼らはもはや「初心者」ではありえない。少なくとも、そのようなアート・コレクティヴを経験したアーティストとしてみなされるとき、直情的かつ単発的な表現だけではあまりにも物足りない。それらを出発点としつつも、独自の方法を練り上げ、自らの世界観を深めていくことが必要とされるに違いない。
本展は、「天才ハイスクール!!!!」の最後の打ち上げ花火としては、じつに華々しいものだった。しかし、その華やかさの先へ伸びる道はすでに始まっているのだ。

2015/04/20(月)(福住廉)

プレビュー:palla/河原和彦「断面 SECTION」

会期:2015/05/02~2015/05/17

COHJU contemporary art[京都府]

写真や映像を折り返し重ね合わせ、それらを規則的にずらしていくことにより、現実の風景から思いもよらぬ時空間を取り出すpalla/河原和彦の作品世界。大阪を中心に活動していた彼が、初めて京都で個展を開催する。本展では、折り重ねられた空間をずらして行く過程に現れる瞬間に着目した映像作品2点を出品。我々の日常世界に隠された不可視の時空、それが現れる瞬間のクールなダイナミズムを味わいたい。
ウェブサイト:http://www.pallalink.net/modx/weblog/?p=2050

2015/04/20(月)(小吹隆文)

プレビュー:Studio Exhivisit 2015 12スタジオと12の展覧会

会期:2015/04/29~2015/05/10

trace、punto、凸倉庫、うんとこスタジオ、ウズイチ・ウズマキスタジオ、山ノ内造形室、shima、Ink、G Art Studio、むこうスタジオ、淀スタジオ、共同アトリエ蓮華荘[京都府]

美大が多い京都では、若手アーティストを中心に、複数の作家で共同スタジオを構えるケースが少なくない。それらのうち12の共同スタジオが一斉に企画展を開催する。作家の制作場所を公開するオープンスタジオは以前から行なわれていたが、この「Studio Exhivisit」は更なる発展形として企画展を行うのが目新しいところ。また、公開イベントやワークショップ、カフェも催され、共同スタジオの可能性拡張を目指している。会場が市内一帯に分散しているので全部を見るのは大変だが、チャレンジしがいのある企画である。
ウェブサイト:http://www.studio-exhivisit2015.com/about.html

2015/04/20(月)(小吹隆文)

大英博物館展──100のモノが語る世界の歴史

会期:2015/04/18~2015/06/28

東京都美術館[東京都]

大英博物館のコレクションから100のモノを選んで人類の歩みをたどるという、たんなるコレクション展とは異なる好企画。出品は、東アフリカで発見された180-200万年前の礫石器をはじめ、日本の縄文土器、メソポタミアの《ウルのスタンダード》、ガンダーラの仏像、ルイス島のチェスの駒、マヤ文明の祭壇、アフガニスタンの戦争柄絨毯(照屋勇賢を思い出す)、クレジットカードにまでおよんでいる。趣旨から察するに、選択基準は個々のモノの芸術的価値より歴史的価値のほうが優先されるわけで、だからロゼッタ・ストーンは出したい、けど門外不出だ、困った、ってんでそのレプリカを出してきた。もちろんレプリカとことわってはいるけれど、展覧会としては異例の荒技といえる。でももっとすごいのは「サッカー・ユニフォームのコピー商品」。チェルシーFCのユニフォームでドログバのネーム入りだが、インドネシアで製造されペルーで販売されたニセモノ。これを人類の歴史の1点として選ぶのもスゴイが、そもそもこれが大英博物館のコレクションに入ってること自体スゴイといわざるをえない。さすが大英博物館、ウツワが違う。

2015/04/17(金)(村田真)

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