artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

宇佐美雅浩「Manda-la」

会期:2015/02/13~2015/02/28

Mizuma Art Gallery[東京都]

思いがけない角度から「震災後の写真」のあり方を照らし出す作品といえるのではないだろうか。宇佐美雅浩は1990年代半ばから、友人の部屋などをその人の私物や関連する人物を配置して撮影するというプロジェクトを進めてきた。ところが、東日本大震災以降、その作品の方向性が大きく変わってくる。より社会性の強い人物や場所が選ばれるようになり、制作のプロセスも数ヶ月から数年を要する大規模なプロジェクトへと発展していったのだ。
今回展示された20点余の作品は、どれも練り上げられたコンセプトで、大変なエネルギーを傾注して作り上げられている。実際に震災を直接的に扱っているのは、大津波で気仙沼の市街地に打ち上げられた共徳丸の前で撮影された「伊東雄一郎 気仙沼(宮城)2013/ワインバー風の広場 マスター」と白い防護服を着た人々が花見に興じる「佐々木道範 佐々木るり 福島 2013/浄土真宗大谷派真行寺住職、同朋幼稚園理事長、妻」の2点だが、広島の「原爆の子」執筆者の会、アイヌ民族運動家、秋葉原の書店経営者などをモデルとした他の作品からも、震災後の社会状況を見据えて制作していることがヴィヴィッドに伝わってくる。作品のスタイルもその指向性も、これまでの日本の「写真家」たちとはまったく異質のものであり、それだけに、このシリーズがこれからどんな風に展開していくのかという期待が膨らむ。
ただ、物や人物たちが、過剰に画面の隅々まで埋め尽くしていく視覚的効果はたしかに目覚ましいものだが、これでもか、これでもかと同じような趣向を見せつけられるとやや食傷気味になってくる。テーマによっては、やや異なる画面構築のやり方をとってもいいのではないかとも思う。個人的な嗜好と社会性とをよりラジカルに噛み合わせていくと、さらにユニークなプロジェクトに成長していくのではないだろうか。

2015/02/24(火)(飯沢耕太郎)

新宮さやか展「Longing for the Eternal Touch」

会期:2015/02/21~2015/03/15

ギャラリー器館[京都府]

新宮さやかは、イソギンチャクのような触手を持つ異形の花のオブジェで知られる陶芸家だ。彼女はギャラリー器館で発表するようになってから、器作品も手掛けるようになった。その出来栄えは、最初の頃はオブジェと実用性の関係性に強引さが感じられたが、徐々にコツをつかんだらしい。本展の新作《萼容》では、造形性と実用性の美しい合一を見せている。もちろん作品は今後も進化を続け、外見は変化していくだろうが、大崩れすることはなさそうだ。オブジェも引き続き制作を続けており、美術と工芸、双方の面から今後の展開が楽しみな作家である。

2015/02/24(火)(小吹隆文)

平成26年度 第38回 東京五美術大学 連合卒業・修了制作展

会期:2015/02/19~2015/03/01

国立新美術館[東京都]

巨大美術館の2フロアを占める5美大の絵画・彫刻系の卒業生と修了生、目録をざっと数えたら943人いた。不参加の学生も含めて、毎年東京だけで千人を超すアーティストの卵が「排出」されてるわけだが、たぶん10年後に活躍しているのは10人にも満たないでしょう。絵画では、ズバリ「絵画性」を追求したもの、支持体や展示方式をイジるもの、マンガやイラストを採り入れたサブカルものなど、いくつかのパターンが見られた。まず絵画性を追求したものでは、ハデな色彩と多彩な技巧で内臓的イメージを集大成した橋口美佐、モノクロームの抽象なのに見ごたえある画面を構築した山野兼、ジグソーパズルみたいなキャンバスに額縁状の矩形を描いた黒木彩衣(以上多摩美)、ピンクや紫などの微妙な色彩を巧みに使った梅本曜子と舘あかね(武蔵美)など。支持体をイジったものでは、30-40個の小さめの段ボール箱の表面に動物や魚の絵を描いた石黒ゆかり(武蔵美)、ホストのつかの間の人気ランキングをモザイクで表現した吉本絵実莉(女子美)など。サブカル系では、巨大画面に山水画とモガを強引に組み合わせた奥村彰一(多摩美)、さまざまなマンガの目を40個くらい並べて描いた藤城滉高(日芸)などが印象に残った。彫刻では、隅のほうにできそこないみたいな木彫の天使像を置いた池田かがみ(造形)、大きな台座の上にティッシュやハンガーなどの取るに足りない本体を載せた木彫の内堀麻美(武蔵美)などが逆に目を引いた。ところで、第2次大戦末期につくられた陶器の手榴弾を再制作した成清北斗(武蔵美)の作品が、美術館の指示により撤去されたという。どういうことだ?

2015/02/23(月)(村田真)

第8回 展覧会企画公募の真髄

会期:2015/01/24~2015/02/22

トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]

展覧会の企画そのものを公募するプログラム。入選したのは4組で、今回はニューヨークを拠点とするラザフォード・チャンと、淀川テクニックのひとり柴田英昭の2組の発表。チャンは「We Buy White Albums」と題し、1968年に発売されたビートルズの「ホワイト・アルバム」の初版プレスを収集、うち100点を壁に並べ、数百点をテーブル上で見られるようにしている。同じレコード(ジャケット)を並べてなにがおもしろいかというと、「ホワイト・アルバム」は文字どおり真っ白なジャケットなので(隅にシリアルナンバーが記されている)、日焼けしたり、シミや汚れがついたり、購入者が落書きしたりするなどして半世紀近い経年変化がよくわかるのだ。さらに、壁に並べた100枚のレコードの音を重ねて録音し、100枚のジャケットを重ねて印刷したジャケットに入れて3000円で売っているのだが、これがグラフィティのようなジャケットに入った現代音楽のレコードになっている。一方、柴田は「すもうアローン」と称して、他人には理解しがたい3組の風変わりな表現者を紹介している。つまり「ひとり相撲」を集めたってわけ。展示されるのは、両親の自殺という過去を知らなければごくありふれた家庭風景にしか見えない上田順平の家族写真、京都市役所前などで毎回異なるパフォーマンスを5年間で約500回行なったミネマルヒゲ代表・峯奈緒香、キノコやこけ類の研究から野糞を始め、大便が土に還るまでの過程を調査している伊沢正名の記録写真。これらは解説がなければ、いや解説があってもなかなか受け入れがたいものがある。ぼくが会場を訪れたとき、ウンよくというか悪くというか、伊沢氏の「うんこはご馳走」のトークをやっていた。興味ないわけではないが、時間がないのでスルーした。両展とも美術展の隙間を突いたいい企画だと思う。

2015/02/22(日)(村田真)

前谷康太郎「World in Motion」

会期:2015/02/06~2015/02/22

Gallery PARC[京都府]


新作《road movies》を最終日に観覧。複数のモニターにタテの線とヨコの線が交差して動く光のラインが映し出される映像作品。都合により短時間しか見られなかったが、鑑賞者のコンディションによっては長時間の視聴に耐えられない不快さも感じたかもしれない。過去にICCで見た《further/nearer》に感じた、前谷のミニマルなものの崇高さに加えて、ここではもう少し人間の身体感覚を持ち込んだようなスピード感と揺さぶりが感じられた。

2015/02/22(日)(松永大地)