artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
Grow up!! Artist Project 2014 報告会
会期:2015/02/13~2015/02/19
アサヒ・アートスクエア[東京都]
GROW UP!! ARTIST PROJECT2014の報告会へ。大崎晴地の障害者の家プロジェクトは、バリアフリー化に向かうのではなく、その特殊条件をポジティブに読み替えて、既存の枠組みを外し、新しい建築的な提案を行なう。模型やドローイングが並び、建築畑の人にも興味深い内容である。次に毛利悠子の展示を見る。5階は、地下鉄の天井からの漏水に対する駅員のブリコラージュ的処置を記録したモレモレ東京のフィールドワークの成果を紹介する。4階はキッチンとトイレを使い、人工的に水漏れ現象を起すが、ワークショップで、参加者と水漏れ対策を行なうという。島貫泰介を司会に迎え、「即興建築としてのモレモレ東京」のトークを行なう。通行人の邪魔をせずに、天井からの漏水を近くの柱や壁に誘導し、床に帰着させるというシンプルな条件だが、その中間のデザインは実に多様だ。モレモレ東京の宝庫と聞いて、帰りに浅草の古い地下街(1955)に寄ったが、なるほど、すごい密度で存在する。これに対応する担当の人の、野生の思考というか、知恵がまた面白いらしい。
写真:上から、大崎晴地「障害者の家プロジェクト」、毛利悠子の展示、モレモレ東京のフィールドワーク、浅草の地下街
2015/02/14(土)(五十嵐太郎)
映像芸術祭 MOVING2015
会期:2015/02/06~2015/02/22
京都芸術センター 講堂ほか[京都府]
京都芸術センター・ギャラリーを使った八木良太、毛原大樹作品は、どちらも研究対象としての映像表現といった趣。作品自体はとても興味深いのだが、同センター内に配置された、坂西未郁や水野勝規、浦崎力の作品らとともに、全体を際立たせるキュレーションがあってもよかったのでは、と感じてしまう。大きく括る必要はないとも思うが、別会場、ARTZONEでの山城大督による濃いめのメッセージが詰まった映像作品や、ギャラリーの大きさを生かした大画面で迫る児玉画廊の宮永亮など、作品のパワーが溢れ出していた連携プログラムに本プログラムがやや見劣りしてしまう印象。
2015/02/13(金)(松永大地)
岸野藍子「輪の内に外にそのものに」
会期:2015/03/09~2015/03/14
ビジュアルアーツギャラリー・東京[東京都]
毎年2月~3月には、いくつかの写真学校の卒業制作を審査・講評している。今年は東京ビジュアルアーツ・写真学科の審査がなかなか面白かった。デジタル化以降、学生の写真が多様化し(以前は学校ごとに同じような作品が並ぶことが多かった)、レベルも格段に上がってきている。今回は特に東京ビジュアルアーツの卒業制作に、熱気を感じさせるいい作品が多かったのだ。そのなかから2作品が優秀賞に選ばれたのだが、そのうちの一人の岸野藍子の個展「輪の内に外にそのものに」が、早稲田のビジュアルアーツギャラリー・東京で開催された(優秀賞のもう1作品は坂本瑠美の「#坂口美月」)。
テーマになっているのは、友人の実家である真言宗のお寺の仏壇である。鉦、燭台、経本などの仏具は、割に見慣れたものだが、まじまじと観察すると独特の存在感、物質感を備えた面白いオブジェであることがわかる。岸野は子供の頃に仏具に「触ってはいけない」と言われたことが、ずっと気にかかっていて、今回あえて「輪の内に」踏み込むことにした。そこにあらわれてきたのは、日常と非日常(彼岸)とを結びつける、宇宙的といっていいような広がりを備えた回路であり、そのことへの驚きが12点の写真パネル、及び母親の針箱を作り替えたという三幅対の箱形の作品で的確に表現されていた。まだ撮影やプリントの技術には甘い所があるが、持ち前の発想力と思考力をうまく発揮していけば、ユニークな作風が育ってくるのではないだろうか。学校から社会に出ると、自分の作品制作に集中する時間が取れなくなることが多いが、何とかうまく乗り切ってほしいものだ。
2015/02/12(木)(飯沢耕太郎)
津田直「NAGA」
会期:2015/02/03~2015/02/22
POST[東京都]
津田直の写真の発表のスタイルが明らかに変わったのは、本展の前作にあたる「SAMELAND」(POST、2014年)からである。それまでは、一点一点の独立性が高い少数の作品を、それぞれ屹立させるように提示していたのだが、「SAMELAND」ではより緩やかな流れの中で、彼自身の旅や移動の移りゆきに即して写真を見せるようになっていった。そのスタイルは、2013年と14年に、ミャンマー北部のインドとの国境に近いザガイン管区に住むナガ族の人々の暮らしと祭礼を撮影した、今回の「NAGA」のシリーズでも踏襲されている。ただ、今回の展示は、書店に併設する展示スペースの大きさの問題もあって、数自体は7点とそれほど多くない。むしろ、73点の作品をおさめて、同時刊行された同名の写真集(limArt刊、デザインは前回と同じく田中義久)の方に、津田の意図がよくあらわれているように感じた。
津田の写真の叙述のスタイルは、人類学者の「フィールドノート」を思わせる所がある。つまり、飛行機とジープを乗り継いでナガ族の村に入り、いつもの旅と同じようにメンター、すなわちよきガイドの役目を果たす人物と出会い、彼の導きによって未知の精神世界の深みへと入り込んでいく、そのプロセスが細やかに、ほぼ時間的な経過を踏まえて辿られているのだ。その「フィールドノート」を、整理、推敲して整えていくのではなく、むしろより「生の」形で提示しようとするのが「SAMELAND」や「NAGA」の試みなのだ。ただ、その試みがうまくいっているかどうかについては、まだもう少し判断を留保したい。むしろ以前の、一枚の写真に視覚的な情報をぎっしりと埋め込んでいくやり方の方が、効果的に思える場合もあるからだ。いずれにしても、さまざまな方法論を模索していく中で、津田の写真の世界は、もう一つスケールの大きなものに脱皮していくのではないだろうか。
2015/02/11(水)(飯沢耕太郎)
倉谷拓朴、ポール・モンドック「黄金町通路 第二期:記録」
会期:2015/02/07~2015/02/22
高架下スタジオSite-Aギャラリー[神奈川県]
かつては性風俗店が並んでいた横浜市中区黄金町の大岡川沿いの一帯は、2006年以降にアートによる街の再生を図って大きく変貌していった。2009年に設立された黄金町エリアマネジメントセンターが展開してきた国内外のアーティストたちが交流するアーティスト・イン・レジデンスの活動「黄金町バザール」も、ようやく地に足が着いたものとなり、3期にわたってその成果を発表する展覧会シリーズ「黄金町通路」が開催された。
2015年1月開催の「第一期:再訪」ではこれまでの参加アーティストを再度招いて彼らの新作を紹介したのだが、今回の「第二期:記録」では二人の写真家の黄金町のドキュメント作品が展示されていた。2011年から黄金町でアートスペースmujikoboを主宰している倉谷拓朴は、地域の住人たちを白バックで撮影したポートレートのシリーズ「White Light」を、フィリピンのアーティスト、ポール・モンドックは、黄金町滞在中に撮影したモノクロームとカラーのスナップショットのシリーズ「Summer Days Come」を発表している。倉谷の大判カメラによる緻密な描写のポートレートと、モンドックの街の気配に寄り添うようにシャッターを切り続けたスナップショットは、まるで対照的な作品だが、両者が合わさることで黄金町という土地の特異な磁場が立ち上がってくるように感じる。互いの作品を、混じりあうように交互に展示していく会場構成も、とてもうまくいっていたのではないだろうか。
2015年3月7日~22日には、黄金町を拠点としてきたアーティストたち、6名(Atsuko Nakamura、岡田裕子、小畑祐也、久保萌菜、関本幸治、吉本直紀)の作品を展示する「第三期:成果」展が開催される。地域密着型のアート・プロジェクトとして新たな展開が期待できそうだ。
2015/02/10(火)(飯沢耕太郎)