artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

佐々木友恵展「変わりゆく残像」

会期:2015/03/03~2015/03/15

同時代ギャラリー[京都府]

漆を用いた平面表現で知られる佐々木友恵の新作展。「残像」をテーマにしており、彼女自身の幼少期の記憶をモチーフにした作品が並んでいる。佐々木は、それぞれ異なる宗教信仰を持つ両親に育てられ、家族、宗教、近所の風景など、5歳まで住んでいた埼玉県での記憶が今も鮮明に残っているという。それらは彼女の人生に大きな影響を与える一方、時の経過とともに薄れ、変質した部分もあるだろう。作品には、そうした記憶の情景が描かれているのだが、あくまでも断片的であり、具体的・説明的な描写はない。それでも見る者の心にグサリと突き刺さり、彼女が本作にかけた思いがひしひしと伝わって来る。赤裸々で、繊細で、寂しさ、孤独、優しさを感じる作品であった。


展示風景

2015/03/03(火)(小吹隆文)

上路市剛個展「re:male」

会期:2015/03/03~2015/03/15

ギャラリー知[京都府]

SF映画などで用いられる特殊メイクの技術を独学で習得し、デッサンで用いる石膏像を元にした立体作品を発表。ミケランジェロ、聖ジョルジョ、ジュリアーノ・ディ・メディチをモデルとしたそれらは、まるで生きているかのようなリアリティを放っており、現代の生き人形とでも賞すべき出来栄えだった。まだ大学の4回生で、これが初個展というのだから恐れ入る。また、絵画作品も出品されていたが、こちらは古典彫刻のポーズを取りながらも漫画的な絵柄で、少年愛・同性愛的嗜好が前面に出ていた。彼はこの春で大学を卒業し、特殊メイクの勉強のため東京の専門学校に進学するという。この才能を一度の個展だけで終わらせるのはもったいない。何年後でもよいので、ぜひ美術の世界に復帰してほしい。

2015/03/03(火)(小吹隆文)

谷原菜摘子展「Black is the Colour」

会期:2015/03/03~2015/03/14

galerie 16[京都府]

京都市立芸術大学の大学院に在籍中ながら、すでに美術関係者の注目を集めている画家・谷原菜摘子。彼女の作品は、漆黒のベルベット地に油彩やラインストーン、ラメ等を用いて描かれており、その内容は自身が見た悪夢や少女期の出来事に由来する。人間、人形、動物、物の怪などのキャラクターが異界を思わせる室内等で繰り広げる場面を見ていると、華麗、陰鬱、毒々しい、土俗的、呪術的といったキーワードが次々と浮かんでくる。強烈な吸引力を放つその作家性が、多くの人を虜にする日はそう遠くないだろう。本展では200号を含む大作4点に加え、小品も多数展示。大作はもちろんだが、磁器をモチーフにした小品の連作も斬新であった。

2015/03/03(火)(小吹隆文)

《showing》02「加納俊輔 山びこのシーン」

会期:2015/03/03

京都芸術劇場春秋座[京都府]


写真作品から、写真を使った立体作品と展開している加納俊輔が、京都芸術劇場・春秋座の企画で、劇場にて公演作品を発表した。これまでの作品のプロセス(撮影した写真を出力して撮影して、また出力して撮影して……)を、舞台上に展開。角材やプラスチックの日用品などが演者によって動かされ、撮影され、その写真が投影される。キーワードである山びこに倣って、さまざまが対になっている、と。多少機械的な進行と構成に単調さが気になったものの、舞台上に置かれたモノに込められた加納のセンスと、撮影された写真の偶然性が楽しい。写真を舞台の上に持ち込んだ構造をしているが、これは明らかに写真という技法をつかった美術作家としての表現で間違いないのだろうな。アフタートークで「(客席から見えない位置では)僕が撮影していたんですけどね」とさらりと言ってしまうあたりが好印象だったりする。

2015/03/03(火)(松永大地)

試写『ワイルド・スタイル』

会期:2015/03/21

渋谷シネマライズ[東京都]

1983年に公開された『ワイルド・スタイル』は、ニューヨーク名物のグラフィティをアメリカ以外の都市に飛び火させただけでなく、DJ、ラップ、ブレイクダンスといったヒップホップカルチャーを世界中に拡散させるきっかけとなった映画だ。ストーリーは、ひとりのグラフィティ小僧が商業主義の誘惑を受けながら覚醒していくありがちなものだが、出演者の大半が実際のグラフィティライターやラッパーだったことでも話題となった。私事だが、ぼくがキース・ヘリングの取材をするためニューヨークを初めて訪れたのが、1982年の暮れから83年にかけて。地下鉄のグラフィティはまだ健在で、キースのほかジャン=ミシェル・バスキアや、この映画にも出てくるレイディ・ピンクやパティ・アスターにも会えたし、ギャラリーのオープニングでは黒人の少年たちが床でクルクル回っていた。まさにこの映画の空気が息づいていたのだ。とはいえもう30年以上も前のこと、映画にはパソコンもケータイもCDもゲームも登場せず、みんな街に出てレコード回して歌ったり踊ったりしてるのがとてつもなく原始的で健康的に思えてきた。


映画『ワイルド・スタイル』予告編

2015/03/02(月)(村田真)