artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

大村雪乃 展「Perfect Midnight」

会期:2015/01/24~2015/02/22

OVER THE BORDER[東京都]

恵比寿のギャラリー「OVER THE BORDER」にて、大村雪乃の「Perfect Midnight」展を見る。黒い背景に丸いシールのドットだけを貼って夜景を描く手法が明快だ。通常は横浜や渋谷など、イルミネーションに彩られた、華やかな大都市を選ぶが、今回は光が少ない盛岡など、地方の場所に挑戦し、いつもより黒い面積が多い。シールを自分で貼る東京タワーの制作キットも販売しており、そのまま美術の教材にできそう。

2015/02/17(火)(五十嵐太郎)

広川泰士「BABEL Ordinary Landscapes」

会期:2015/02/13~2015/03/24

キヤノンギャラリーS[東京都]

広川泰士には『STILL CRAZY - Nuclear power plants as seen in Japanese landscapes.』(光琳社出版、1994年)という作品集がある。日本各地の海岸線に沿って建造された53基の原子力発電所を、大判カメラで撮影した写真を集成したものだ。いうまでもなく2011年3月11日の東日本大震災によって、福島第一原子力発電所が大事故を起こしたことで、原発が「狂気」の産物であるという広川が抱いていた予感は現実のものとなった。
東京・品川のキヤノンギャラリーSで展示された彼の新作「BABEL」もまた、日本各地の風景に対して彼が育て上げていった違和感、不安感を形にしたものといえる。1998年から15年以上にわたって、8×10インチの大判カメラで撮り続けるうちに、大地を引き裂き、捏ね上げ、旧約聖書のバベルの塔を思わせる醜悪な建造物を作り上げていく人間の営みは、さらにエスカレートしていったように見える。それにともなって、自然のしっぺ返しといえるような地震や津波も起こり、その後には黙示録的といいたくなるような無惨な光景が広がることになる。『STILL CRAZY』でもそうだったのだが、広川はそれらの眺めを声高に、情感を込めて描き出すのではなく、むしろ素っ気なく、投げ出すように提示している。だがそのことによって、写真を見る者はより苦く、重い塊を呑み込むような思いに沈み込むのではないだろうか。掛け値なしに、ここにあるのが、いまの日本の「普通の風景」(Normal Landscapes)なのだ。
今回の展示では、キヤノンの大判デジタルプリンターの威力を見せつけられた。最大2.60×3.25メートルという大きさのカラープリントを、継ぎ目なしで出力することで、風景のディテールが異様な物質感をともなって立ち上がってくる。10年前には考えられない展示が、ごく当たり前に実現できるようになってきている。

2015/02/16(月)(飯沢耕太郎)

小平雅尋「他なるもの」

会期:2015/02/07~2015/03/07

プラザ・ギャラリー/タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

東京・仙川のプラザギャラリーと六本木のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムで、小平雅尋の「他なるもの」展が開催された。このシリーズは2013年の表参道画廊での個展で既に発表されているが、新作を加え、プリントの大きさを変えて2箇所の会場でほぼ同時期に開催されることで、以前とは違った眺めが見えてきているように感じた。
写されているのは、エスカレーターのような身近な事物から、やや距離を置いて撮影された風景までかなり幅が広い、昆虫や人の体の一部をクローズアップで撮影した作品もある。だが驚くべきことは、それらのすべてがある共通の質感を備え、互いに強い絆で結びついているように見えることだ。同展のカタログを兼ねた小冊子に倉石信乃が書いたエッセイを引用すれば、すべてが写真家から「等距離」にあるように見えてくるのだ。
「無限大の彼方に光る星辰も、眼前にいるあなたのいま開いたばかりの掌も、「私」には同じ隔たりだ。だから「私」はどこへでも行くことができる。たとえこの場を動かないときにも」
たしかに、倉石がいうように、小平の写真を見ていると森羅万象の一角からイメージを「等距離」で切り出してくる小平の選択が、きわめて厳密で揺るぎないものであることがわかる。しかも特筆すべきなのは、その手つきが決して小難しく窮屈なものではなく、ふっと頬が緩むような柔らかなユーモアをたたえているように見えてくることだ。理屈ではなく五感を解放して味わうべき、チャーミングな写真群といえるのではないだろうか。

会期: 2015年2月7日(土) ~ 3月1日(日)
会場: プラザ・ギャラリー
会期: 2015年2月7日(土)~ 3月7日(土)
会場: タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム

2015/02/15(日)(飯沢耕太郎)

佐久間里美「○△□」

会期:2015/01/24~2015/03/08

POETIC SCAPE[東京都]

東京・六本木のIMA galleryで開催された「LUMIX MEETS JAPANESE PHOTOGRAPHERS#2」展(2015年1月21日~29日)に参加するなど、このところ精力的に作品を発表している佐久間里美の個展が、東京・目黒のPOETIC SCAPEで開催された。ただし、出品作の「○△□」は既発表の作品であり(15点中8点は新作)、その意味での新鮮さはない。デジタルカメラで「エレクトリカルな人工光」の乱舞を撮影して、新たなコンセプトを展開した「LUMIX MEETS JAPANESE PHOTOGRAPHERS#2」展の出品作「Snoezelen Landscape」と比較すると、むしろ表現意識が後退しているように見えてしまう。ただ、都市風景を色面の連なりとして再構築していく「○△□」が、若い世代の表現意識を典型的に指し示す作品であることは間違いない。今後も彼女の代表作として評価を高めていくのではないだろうか。
ところで、ちょうど海外に出ていたので見過ごしてしまった「LUMIX MEETS JAPANESE PHOTOGRAPHERS#2」展だが、佐久間の他に加納俊輔、水谷吉法、山崎雄策、Kosuke、山本渉が出品していた。たしかに、力のある写真作家をフィーチャーしているのだが、カタログを見る限り、どうしても小綺麗に小さくまとまってしまっている印象を拭いきれない。表面性へのこだわりや軽快な画像構築への志向は、たしかにこの世代の特徴といえるのだが、これだけ「切っても血が出ない」貧血気味の作品が並ぶと、これでいいのかと思ってしまう。なお、この展覧会はもともと「TOKYO 2020」というタイトルで企画されていたのだが、東京オリンピックに関連してJOCが商標登録しており、使えなくなってしまったのだという。何とも後味が悪い顛末だが、それ以上に2020年の「日本写真」がこの程度のものとはとても思えない。

2015/02/14(土)(飯沢耕太郎)

御苗場 横浜2015

会期:2015/02/12~2015/02/15

パシフィコ横浜[神奈川県]

総入場者数6万5千人を超えるという日本最大のカメラ・写真の総合イベント「CP+2015」。ほとんどは撮影、プリントの機材のブースなのだが、その一角で隔月刊の写真雑誌『ファットフォト』を刊行し、各種の写真講座を企画しているCMSが主催する「御苗場 横浜2015」が開催されていた。
今回で16回目になる「御苗場」は、まだ初心者といっていい撮り手を中心とした写真作品の発表の場であり、料金を払って縦横数メートルのブースを借り、そこに4点以内の作品を展示するというシステムになっている。今回のブースの数は一般用、学生用合わせて300余りであり、会場をびっしりと埋め尽くす様はなかなか壮観だった。CMSを主宰するテラウチマサトをはじめとする6名のレビュアーが選ぶ賞もあり、「自分の未来に苗を植える場所」、「日本最大級の参加型写真展」として順調に成長しつつあるといえるだろう。
2月14日に会場内で開催されたトークイベントに参加したので、展示された写真をざっと見たのだが、たしかに数年前に比べて技術的にも、内容的にも作品のレベルは格段に上がっている。ただ当然ながら、写真家として突出した存在感を発している出品者はいなかった。気になるのは、作品が均質化していることで、たしかに風景、スナップ、ポートレート、私写真、演出写真と表現の幅は広いのだが、心揺さぶるような不穏な空気感を発しているものはほとんどない。気持ちよく目に飛び込んでくる、感じのいい写真ばかりがこれだけ並んでいるのは、どこか不気味でもある。ここでの展示をきっかけにステップアップしていく、その踏み台として利用していってほしいと思うが、「その次」のステージをきちんと準備していくことが、課題となるのではないだろうか。
ウェブサイト:http://www.cpplus.jp/

2015/02/14(土)(飯沢耕太郎)