artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
國政サトシ「スライドスライド」
会期:2015/02/17~2015/03/01
ギャラリー恵風[京都府]
大量の結束バンドを用いたオブジェ作品で知られる國政が、これまでとは異なるタイプの新作を発表した。それはビニールに染色を施した平面作品だ。作品には図柄の有無などいくつかの系統があるが、その制作法は相当に複雑であり、うろ覚えで説明するとかえって誤解を生じかねない。とにかく仕上がりが美しく、偶然の予期せぬ表情を取り込むこともできる。よくもこんな手法を思いついたものだ。筆者は最近、染色について原稿の依頼を受け、布、紙、皮革以外の新たな染色素材を研究すべきと無責任な提案を行なった。その記憶が冷めやらぬうち実践者が現われたのだから、これは嬉しい驚きだ。
2015/02/19(木)(小吹隆文)
大槻香奈実験室その2「かみ解体ドローイング」
会期:2015/02/12~2015/03/06
ondo[大阪府]
少女をモチーフにした、イラストあるいは漫画的画風の絵画で知られる大槻香奈。少女が意味するのは、自身の内面、現代の風俗、価値観といったものであろう。彼女は通常の個展とは別に、「大槻香奈実験室」と題した番外編活動を2014年から始めた。本展はその第2弾である。今回のテーマは「ドローイング」だ。過去のドローイングを大量に出品したほか、複数のドローイングを組み合わせたコラージュ作品も発表し、彼女の中で存在感を増しつつあるドローイングについて再考を試みている。また、会場の一角には制作スペースが設けられ、公開制作も随時行なわれているようだ。あいにく私が訪れた日は作家不在で、さらに深く創作の秘密を知ることはできなかった。
2015/02/18(水)(小吹隆文)
黄金町通路:記録
会期:2015/02/07~2015/03/22
高架下スタジオ・サイトAギャラリー[神奈川県]
黄金町にmujikoboを構える倉田拓朴と、昨年黄金町バザールに参加するため滞在・制作していたフィリピンのポール・モンドックの2人展。ふたりともモノクロ写真で(モンドックは数点カラーが混じってる)、倉谷は黄金町の住人のポートレートを撮り続け、モンドックは横浜を歩き回って風景をスナップしている。倉谷が定点観測とするなら、モンドックは遊歩観測だ。作品も倉谷が選び抜いた大判のポートレートをドンと展示しているのに対し、モンドックはその隙間を埋めるようにスナップ写真を並べている。質より量か、量より質か。この対照的なふたりが出会う瞬間があった。倉谷が黄金町で屋外撮影している場面を、たまたま通りかかったモンドックが撮影したのだ。そのとき撮った2点の写真がこの展覧会の白眉であると同時に、黄金町の目指す方向性を暗示しているように思えた。
2015/02/17(火)(村田真)
水谷吉法「COLORS/ TOKYO PARROTS」
会期:2015/02/03~2015/03/10
IMA gallery[東京都]
IMA galleryで開催された「LUMIX MEETS JAPANESE PHOTOGRAPHERS#2」展(2015年1月21日~29日)にも出品していた水谷吉法が、同会場で初個展を開催した。本欄でも何度か書いているように、水谷のように街をデジタルカメラで切りとって、パソコンの画面を思わせる鮮やかな色面のパターンとして再構築する若い写真家たちの仕事が、この所だいぶ目につくようになってきている。単なる流行というだけではなく、そこには、最初からデジタルカメラを使って撮影しはじめたこの世代(水谷は1987年生まれ)のリアリティが色濃くあらわれているということだろう。
だがこのままだと、都市空間と写真のあり方とをオートマチックに、何の抵抗感もなしに結びつけ、画像化してまき散らすだけに終わりそうな気がする。記憶、感情、身体性、他者性、地域性──どんなファクターでもいいので、写真化のプロセスに何らかのノイズを挟み込んで、のっぺりとした眺めに風穴をあける必要がありそうだ。それとともに、特に「COLORS」のシリーズにいえることだが、複数の写真を組み合わせて提示する時に、思いつきだけに頼るだけではなく、ロジカルな思考力を発揮してより強固な「構造化」をめざしてほしいものだ。
その意味では、今回展示されたもう一つの作品「TOKYO PARROTS」の方に面白さを感じた。輸入された鮮やかな黄緑色のインコが、東京都内で野生化して大量発生している状況を捉えたシリーズだが、均質化しつつある都市環境における異物に着目する視点が明確にあらわれている。この方向をさらに突き詰めていけば、彼らの世代から、頭一つ抜け出していくことができるのではないだろうか。
2015/02/17(火)(飯沢耕太郎)
須田一政「釜ヶ崎」
会期:2015/02/06~2015/02/28
ZEN FOTO GALLERY[東京都]
須田一政は、2014年8月に大阪・釜ヶ崎(西成地区)を撮りおろした。今回のZEN FOTO GALLERYの展示では、その6×7及び35ミリ判による新作に加えて、2000年に撮影したというハーフサイズ・カメラによる縦位置の画面を2コマ分プリントした作品(全16点)が並んでいた。
須田と釜ヶ崎というのは、ありそうでなかなかない絶妙な組み合わせなのではないかと思う。この日雇い労働者の街は、写真家たちを引きつける魅力的な被写体の宝庫であり、1950~60年代の井上青龍以来、数々の「名作」を生んできた。『日本カメラ』(2015年2月号)の「口絵ノート」に「私のような社会派にはほど遠い写真家が今更撮るのはどうかなと考えつつ」と書いてあるのを見てもわかるように、須田はむろんそれらを充分承知の上で、いつもより肩の力を抜いて、飄々と街と人のたたずまいにカメラを向けている。その結果として、この街を覆っているざらついた荒々しい触感が、やや軽みと丸みを帯び、エロス的としかいいようのない艶かしい雰囲気が漂ってきているように見えるのが興味深い。須田の眼差しの先で、乾ききった真夏の釜ヶ崎の光景が、しっとりとした、みずみずしい情感をたたえてよみがえってきているのだ。どうやら街との相性は抜群のようなので、また機会があれば、ぜひ撮り続けていってほしいものだ。
なお、オープニングには間に合わなかったのだが、会期に合わせて2冊組の写真集『走馬灯のように ─ 釜ヶ崎2000-2014』(ZEN FOTO GALLERY)が刊行された。
2015/02/17(火)(飯沢耕太郎)