artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
豊穣なるもの──現代美術 in 豊川
会期:2015/01/17~2015/02/22
豊川市桜ヶ丘ミュージアム、豊川信用金庫旧いなり支店、古民家[愛知県]
豊川の「豊穣なるもの」展へ。三カ所で展開し、メイン会場のリニューアルオープンした桜ヶ丘ミュージアムは、タイトルどおり、豊穣なイメージの作品が多く、特に絵画ががんばっている。アーツチャレンジ2015の坂本和也も、オールオーバーな水草で埋め尽くす絵画を出品していた。佐藤雅晴の鏡面、リフレクション、対称性にこだわるインスタレーションが、空間をうまく使っている。
また豊川信金旧いなり支店の1~3階と、古民家の1~2階は、荒木由香里、セシル・アンドリュ、平松伸之+伊東里奈など、使われなくなった場所の記憶を引き出そうとするインスタレーションを設置していた。今回、豊川の街を初めて訪れたが、豊川稲荷と参道がにぎわっている。巨大な本殿は、善光寺風である。新宗教でも使うが、ポピュラリティのあるスタイルだ。
写真:左上から、坂本和也の作品、佐藤雅晴の作品、豊川信金いなり支店 右上から、荒木由香里の作品、豊川稲荷表参道、豊川稲荷本殿
2015/02/22(日)(五十嵐太郎)
あいちアートプログラム アーツ・チャレンジ2015
会期:2015/02/17~2015/03/01
愛知芸術文化センター[愛知県]
愛知芸術文化センターのあちこちをまわりながら、アーツ・チャレンジ2015の展示を見る。選考審査を担当したのだが、むしろそれぞれの場所が作品を選んでいるような気分になった。この公募の最大の特徴は、ホワイトキューブ以外のクセのある空間を使うこと。つまり、若手アーティストのチャレンジだけでなく、場所への挑戦なのである。幾つかの作品を紹介しよう。
11階の展望回廊は、光あふれる空間で、その変化を音に変える片岡純也。12階は、家庭に死蔵された作品を公的なギャラリーに持ち込む藤井龍、7mの細長いテーブルの上の歪んだ日用品が「揺れる大地」感をただよわす廣瀬菜々&永谷一馬。2階の巨大吹抜けのフォーラムでは、繊細な無数の線が光できらめきながら、空間の現象をつくる千田泰広。地下1階では、デッドスペースを巧みに作品の条件とし、多視点の運動を誘発する2.5次元と言うべき記憶の絵画を描く田中里奈。地下通路展示ケースは、伊佐治雄悟の日用品を集積する幾何学的な小品。南玄関の階段踊り場では、音と振動を発生させるために、ここに設置した山田哲平の踊る洋服と三上俊希の膨らむ黒い袋群は、ともに動きを伴い、生命を感じさせる。地下2階の通路には、忘れたい言葉をリテラルに水に流す、コミカルだけどドキッとする星崎あいの映像作品。地下2階フォーラムでは、場の特性を考えて、壁に対する水平軸を床に対する垂直軸に転換した後藤あこの彫刻。将来の活躍を期待したい。
写真:左上から、片岡純也、廣瀬菜々&永谷一馬、田中里奈の作品。右上から、伊佐治雄悟、三上俊希、後藤あこ
2015/02/21(土)(五十嵐太郎)
だまし絵II
会期:2015/01/10~2015/03/22
名古屋市美術館[愛知県]
名古屋市美術館の「だまし絵II」展へ。子どもにもすぐ楽しめる内容だからなのか、人が多い。ただ、この手の企画としては、アルチンボルドやオランダの絵画を紹介して終わりではなく、現代美術の比重が結構多く、意欲的だと感じた。階段の踊り場にて、a-haの曲「TAKE ON ME」の懐かしいPVも紹介していたが、こういう文脈に入ると興味深い。窓学的にも重要な映像だ。展覧会の最後に登場する、エヴァン・ペニーの引き伸ばされた女が強烈だった。ありえない巨大さと、異様なリアルが同居し、時空が歪んだかのようだ。
2015/02/21(土)(五十嵐太郎)
ルーヴル美術館展 日常を描く──風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄
会期:2015/02/21~2015/06/01
国立新美術館[東京都]
ルーヴル美術館の厖大なコレクションのなかから、日常生活を描く風俗画を特集した展示。そもそも絵画とは「絵空事」というように、神や英雄など非日常的なイメージを現出させる装置だったから、風俗画は絵画のジャンルのなかでも地位が低く、またジャンルとして認められるのも遅かった(そのせいか、風俗画は英語で「ジャンル・ペインティング」という)。ここではまず「風俗画とはなにか」を知るために、プロローグとして日常的な情景が描かれた古代の墓碑や壷絵を紹介し、さらに歴史画、肖像画、風景画などを並べて絵画のジャンルについておさらいしている。なかなか啓蒙的な構成だ。肝腎の風俗画は時代順に並べると、16世紀のティツィアーノ、クエンティン・マセイス、ピーテル・ブリューゲル1世から、全盛期の17世紀のルーベンス、ル・ナン兄弟、レンブラント、デ・ホーホ、そしてフェルメールを経て、18世紀のヴァトー、シャルダン、ブーシェ、19世紀のドラクロワ、コロー、ミレーまでおよそ3世紀におよんでいる。そこに描かれているのは、金持ちも貧乏人もおおむねケチで下品でスケベなどうしようもない人間像だが、唯一の例外がフェルメールの《天文学者》だ。つーか、この天文学者が超俗してるというより、絵そのものが一段上の世界に属している感じ。まあ風俗画というなら、ルーヴルにあるもう1点のフェルメール、《レースを編む女性》のほうがふさわしいかも。ともあれ、これらの作品を「労働」「恋愛」「女性」といったテーマ別に展示しているのだが、なかでも興味深いのが最後の「アトリエの芸術家」で、絵を描く画家本人(サルが描いてるのもある)を自己言及的に描いた作品を集めているのだ。これも風俗画か。最後の最後は、開館間もないルーヴル美術館を描いたユベール・ロベールの《ルーヴル宮グランド・ギャラリーの改修計画、1798年頃》で終わってる。風俗画の最後というより、「ルーヴル美術館展」のシメですね。
2015/02/20(金)(村田真)
FACE展
会期:2015/02/21~2015/03/29
損保ジャパン日本興亜美術館[東京都]
数ある絵画コンクールのひとつ。これを見に行った理由はただひとつ、チラシに載ってた下野哲人の実物を見たかったから。一見、白黒のストライプ模様だが、よく見ると白い画面に黒い絵具を、黒い画面に白い絵具を上辺から等間隔に流している。だから上のほうだけ見るときれいなストライプだが、下のほうに行くにつれ間隔が開いたりくっついたり、絵具が途中で止まったり、さまざまな表情を見せるようになる。これは見事。あとは画面いっぱいにチューリップを勢いよく描いた児玉麻緒、マンガにフィギュアを組み合わせたオタク的ポップな戸泉恵徳が目を引いた。
2015/02/20(金)(村田真)