artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

蜷川実花:Self-image

会期:2015/01/24~2015/05/10

原美術館[東京都]

期待を裏切らない出来栄えといえるだろう。東京・品川の原美術館での蜷川実花展は、会期の長さを見てもわかるように力の入った展覧会だった。
会場は大きく1階と2階に分かれている。1階エントランスのギャラリー1は、3面スクリーンによる映像・音響インスタレーション(音楽/渋谷慶一郎)で、金魚の群れ、群衆、眼、唇などのイメージが、壁一面に浮遊する。ギャラリー2には写真集『noir』(2010年)の収録作品とその発展形の写真が、壁紙のように大伸ばしされた画像の上に架けられていた。ここまでは、従来の「見慣れた」作品世界を、見世物小屋的に開陳した造りになっている。
だが、2階は雰囲気ががらりと変わって、「PLANT A TREE」(2011年、撮影は2010年)、「Self-image」(2013年)のシリーズから抜粋した作品が並んでいる。この2作品は、今のところ蜷川のベストというべきシリーズであり、新たな作品世界を、数を押さえて抑制した展示で見せていこうという強い意欲が感じられた。特に最後のギャラリー5に展示されたモノクロームのセルフポートレートは、まさに「生身に近い、何も武装していない」蜷川自身をさらけ出すという暴挙を、あえて試みた注目作と言える。2階の廊下の床を白黒の市松模様に貼り替えるなど、会場全体の構成を含めて、蜷川の持ち前の演出力が際立った展覧会といえるのではないだろうか。
だが、「期待を裏切らない」というのは予想の範囲内でもある。超満員のオープニングを見ればわかるように、日本の写真界を牽引する立場に立った彼女に対しては、注目度も格段に上がっている。「次」が常に求められていることを心に留めていてほしいものだ。

2015/01/22(木)(飯沢耕太郎)

挿絵画家 依光隆 展

会期:2015/01/19~2015/01/31

文房堂ギャラリー[東京都]

3年前に亡くなった挿絵画家の回顧展。SF小説、児童文学、科学イラスト、法廷スケッチなど半世紀におよぶ画業を約250点の原画で振り返っている。ライフワークは1971年にスタートしたハヤカワ文庫の「宇宙英雄ローダン」シリーズらしいが、ぼくはそれ以前の児童書の表紙や挿絵でなじんでいたはず。はず、というのは、たとえば『海底2万マイル』とか、はっきり覚えてないけどたしかこんな挿絵だったという漠然とした記憶があるからだ。いわゆる美術史の名画を知るのはそれ以後のことだから、ぼくにとっては小松崎茂と並ぶ初期の絵画体験だった。当時は超絶技巧(そんな言葉なかったが)だと思っていたけど、いま見るとそうでもなかったりして。

2015/01/20(火)(村田真)

山本昌男「浄」

会期:2015/01/14~2015/02/07

Mizuma Art Gallery[東京都]

2009年以来というから、山本昌男の個展もひさしぶりだ。山本は日本よりもむしろアメリカやヨーロッパで評価の高い写真作家で、モノクロームの小さなプリント(時には微妙な調色が施される)を、壁面にまき散らすようにインスタレーションする作品で知られている。写真に写っているのは、身辺のこれまた小さな出来事が多いが、それらの付けあわせ方に独特の繊細で軽やかな美意識が働いており、「俳句的な表現」と評されることも多い。
今回のMizuma Art Galleryでの展示では、その山本の作品世界がかなり大きく変わりつつあることに驚かされた。「浄」シリーズの被写体は「作家の目に留まった路傍の石や木の根」であり、それらが黒バックで、クローズアップ気味にしっかりと撮影されている。複数の写真が響きあうように配置されていたこれまでの作品と比べると、一点一点の自立性が高く、しかも裏打ちされたパネルやフレームに入れる形で、それぞれ独立して展示されている。山本の被写体を見つめる眼差しも、緊張感と強度を孕んだものになってきていた。奥の部屋は、写真に鉄の鎖、鏡などを配したインスタレーションの展示だが、それらもシンプルで重々しい印象を与える。
彼が今後どんな風にこのシリーズを展開していくのかは、まだわからないが、新たな領域に踏み出していこうとする強い意欲を感じた。むろん以前の作風との融合・合体も考えられると思うので、もう少し、どうなっていくのかを見守っていきたい。

2015/01/20(火)(飯沢耕太郎)

プレビュー:映像芸術祭 MOVING 2015

会期:2015/02/06~2015/02/22

京都芸術センター、京都シネマ、METRO、ARTZONE、HAPS、アトリエ劇研、Gallery PARC、Antenna Media、児玉画廊[京都府]

2012年の第1回以来、3年ぶりに開催される映像芸術祭。京都市内のアートセンター、映画館、クラブ、ギャラリー、劇場など9会場を舞台に、映像展、上映会、映像メインの舞台公演、映像と音によるライブ、映像に関するトークなどが行なわれる。出品作家・出演者は、林勇気、前谷康太郎、水野勝規、宮永亮、八木良太(画像は彼の作品)、山城大督、あごうさとしなど。関西でこの手の映像芸術祭は貴重であり、第1回と比べても規模が拡大している。その成否が今後に与える影響は大きいだろう。

2015/01/20(火)(小吹隆文)

長町文聖「White Album」

会期:2015/01/16~2015/01/18

photographers’ gallery[東京都]

長町文聖は東京綜合写真専門学校写真芸術第二学科を卒業した1995年頃から、4×5インチ、さらに8×10インチサイズの大判カメラで、カラー写真の路上スナップを撮影しはじめた。それらを大きく引き伸ばして展示する個展を、東京都内のギャラリーや韓国・ソウルなどで開催し、注目を集めたのだが、2003年の個展「CUT-on white-」(東京・再春館ギャラリー)以来、活動を休止していた。今回のphotographers’ galleryでの展覧会は、実に11年ぶりということになる。
5点の展示作品は、以前とほとんど変わりないように見える。だが、仔細に見ると、以前は路上を行き交う人々のうちの誰かを、中心的な被写体として選択して画面に配置していたのだが、その所在がやや不明確になってきている。また、大判カメラ特有の被写界深度の浅さによるボケの効果を、積極的に取り込もうとしているのがわかる。作品によっては、手前ではなく後ろの人物にピントが合っていることがあるのだ。もう一つの大きな違いは、新宿や渋谷などで撮影していたのが、長町のホームタウンである東京都町田市が舞台になっていることだ。町田は都会とも地方都市ともつかない、中途半端な雰囲気の街であり、そのことが彼の路上スナップのあり方(人と環境との関係)に、微妙な、だが重要な変化をもたらしつつあることが予想できる。今回の展示はまだ中間報告というべきであり、数も少ないので、今後町田を撮りつづけることで、面白いシリーズに成長していくのではないだろうか。

2015/01/18(日)(飯沢耕太郎)