artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
内山聡 展 The human being to click, the animal to click, the machine to click クリックする人間、動物、あるいは機械
会期:2015/01/16~2015/02/15
Gallery OUT of PLACE NARA[奈良県]
内山聡は、芸術作品の創作行為を分解・再構築する作家だ。前回の個展ではカラフルな紙テープを用いて、おそろしく労力のかかった、それでいて美しい作品を発表した。本展でもその作風は健在で、エアマット(緩衝剤)のプチプチ部分に9色の絵具をランダムに注入した平面作品を、なんと1ロール(41メートル)にわたって展開したのだ。そこには「行為」と「連続」と「時間」があり、絵の具とビニールという「物質」があり、分解された各要素を統合することで生まれた「表現物」がある。観客は「この人よくやるよ」と半ば呆れつつ、作品の魅力から目が離せない。
2015/01/16(金)(小吹隆文)
富本憲吉 展 華麗なる色絵・金銀彩
会期:2015/01/17~2015/03/15
奈良県立美術館[奈良県]
日本の近代陶芸を代表する巨匠・富本憲吉の回顧展。初期から晩年までの代表作はもちろんだが、富本と郷里(奈良県安堵町)とのかかわりを示す作品・資料や、富本が色絵技法を研究した九谷焼とのかかわりを示す古今の九谷焼作品が多数展示されており、とても興味深かった。会場にはこと細かに説明パネルが設けられており、わかりやすさを第一に考えた展示が行なわれた。陶芸通にはサービス過剰だったかもしれないが、初心者に優しいことは間違いない。個人的に最も印象的だったのは、展覧会末尾に並んでいた多数の無地の白磁作品。色絵・金銀彩を強調した本展にあって、富本自身が最後まで器のベースとなる本体部分を重視していた事実を示すものだった。
2015/01/16(金)(小吹隆文)
神藏美子『たまきはる』
発行所:リトルモア
発行日:2015年2月8日
まさに「私小説/私写真」。神藏美子の前作『たまもの』(筑摩書房、2002年)は現在の夫「末井さん」と前夫の「坪ちゃん」との不思議な「三角関係」を描ききった作品だが、それから12年かけてようやく続編というべき『たまきはる』が刊行された。それだけの時間を費やしたということは、神藏が「私小説/私写真」の魔物に魅入られてしまったということだろうか。「あとがき」によれば「『たまきはる』に向かうことが、苦しくて苦しくて、逃れられない牢獄のように感じて、何年も過ごしていた」ということだが、「私」と向き合うことは、その毒を全身に浴び続けることでもあるのが、写真からもテキストからも伝わってきた。
とはいえ、『たまきはる』は「読ませる」写真集としてしっかりとでき上がっていた。何よりも夫・末井昭をはじめとして、両親、イエスの方舟の千石剛賢、作家の田中小実昌、アートディレクターの野田凪、ロックバンド、銀杏BOYZの「ミネタくん」、障害者プロレスの「がっちゃん」といった、生と死の間を漂う登場人物たちの悲哀と輝きが、決して押し付けがましくなく描かれている。特に、学生時代に撮影したという寺山修司のポートレートは驚きだった。「こんな写真を撮らせていたのか」というショックがある。写真も文章も、時間軸を無視して行きつ戻りつするのだが、そこにむしろ生活と経験に裏打ちされたリアリティがあるように感じた。あと何年かかるのかはわからないが、ぜひ撮り続け、書き続けて次作をまとめてほしいものだ。
なお、写真集にあわせてNADiff Galleryで「たまきはる──父の死」展が開催された(2014年12月12日~2015年1月30日)。こちらは、映画の録音技師だった父親の死の前後の写真を中心に構成している。
2015/01/15(木)(飯沢耕太郎)
京都老舗の文化史──千總四六〇年の歴史
会期:2015/01/06~2015/02/11
京都文化博物館[京都府]
京都といっても、これほどまでに由緒をとどめる商家はさほど多くはあるまい。京友禅の老舗、千總の歴史を紹介する展覧会。千總の歴史は、桓武天皇平安遷都の際に御所造営にかかわった宮大工にまで遡ることができるという。応仁の乱のあと京都に戻って法衣商をはじめたのが460年前のことで、千總の名は1669年に室町三条で法衣商を開業した千切屋与三右衛門の孫、千切屋惣左衛門に由来する。千總現会長、西村總左衛門氏は15代目というのだから驚くほかない。本展では、その歴史を物語る文書や系図などの多彩な資料をはじめ、ひな形や図案、法衣や小袖などが展示されている。1月20日以降には、博物館もよりの千總ギャラリーを第二会場にも展示が拡張される。
優れた衣装は、時に、美術品として鑑賞の対象とされる。本展においても、「秋草筒井筒文様小袖」や「鵜飼文様小袖」など、当代最高レベルの染織技法を駆使して「伊勢物語」や謡曲、能楽などから引いた文様を巧みに描いた逸品の数々は見応え十分である。明治期には名だたる画家たちが図案を手がけた工芸品が国内外の博覧会に出品されたことが知られているが、その流れを先導したひとりが12代西村總左衛門であり、本展でも岸竹堂や今尾景年、榊原文翠、望月玉泉らの作品を見ることができる。
しかしながら、あらためて家業としての歴史のなかでみなおすと美術品とは異なる側面が見えてくる。もともと千總の家業であった法衣商という仕事は、御装束師ともよばれるという。公家の儀式や行事、調度や文芸、料理や装束といったことに関わる広範な知識と規範を有職故実というが、装束師の仕事はその有職故実に則って装束を整えることだった。有職故実とは、いってみれば公家社会における秩序や常識である。時代を超えて伝え継がれ時代の流れのなかで変化する秩序や常識、それらにあわせて衣装を調整することが、代々つとめあげてきた千總の役割だったのである。[平光睦子]
2015/01/15(木)(SYNK)
パランプセスト──重ね書きされた記憶/記憶の重ね書き vol.6 西原功織
会期:2015/01/10~2015/02/07
gallery αM[東京都]
壁の片面には趣の異なる抽象の大作が数点、もう片面には縦8段、横16列、計128枚の具象画が並んでいる。具象といっても、描かれているのは自動車、戦闘シーン、食べ物など多様だが、いずれもフラットな描写で、なかにはフレームが描かれているものもあり、写真やネットから拝借したイメージのようだ。これら「具象画」の1点1点にさほど意味(価値)があるとは思えないが、こうして壁にびっしり並べることで向かい合う「抽象画」との差異が曖昧になり、抽象も具象も無意味になってしまう。
2015/01/14(水)(村田真)