artscapeレビュー
蜷川実花:Self-image
2015年02月15日号
会期:2015/01/24~2015/05/10
原美術館[東京都]
期待を裏切らない出来栄えといえるだろう。東京・品川の原美術館での蜷川実花展は、会期の長さを見てもわかるように力の入った展覧会だった。
会場は大きく1階と2階に分かれている。1階エントランスのギャラリー1は、3面スクリーンによる映像・音響インスタレーション(音楽/渋谷慶一郎)で、金魚の群れ、群衆、眼、唇などのイメージが、壁一面に浮遊する。ギャラリー2には写真集『noir』(2010年)の収録作品とその発展形の写真が、壁紙のように大伸ばしされた画像の上に架けられていた。ここまでは、従来の「見慣れた」作品世界を、見世物小屋的に開陳した造りになっている。
だが、2階は雰囲気ががらりと変わって、「PLANT A TREE」(2011年、撮影は2010年)、「Self-image」(2013年)のシリーズから抜粋した作品が並んでいる。この2作品は、今のところ蜷川のベストというべきシリーズであり、新たな作品世界を、数を押さえて抑制した展示で見せていこうという強い意欲が感じられた。特に最後のギャラリー5に展示されたモノクロームのセルフポートレートは、まさに「生身に近い、何も武装していない」蜷川自身をさらけ出すという暴挙を、あえて試みた注目作と言える。2階の廊下の床を白黒の市松模様に貼り替えるなど、会場全体の構成を含めて、蜷川の持ち前の演出力が際立った展覧会といえるのではないだろうか。
だが、「期待を裏切らない」というのは予想の範囲内でもある。超満員のオープニングを見ればわかるように、日本の写真界を牽引する立場に立った彼女に対しては、注目度も格段に上がっている。「次」が常に求められていることを心に留めていてほしいものだ。
2015/01/22(木)(飯沢耕太郎)