artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
未見の星座〈コンステレーション〉──つながり/発見のプラクティス
会期:2015/01/24~2015/03/22
東京都現代美術館[東京都]
「MOTアニュアル」かと思ったらそうではないらしい。「未見の星座」とは、宇宙に散在する星が見えない線でつながって人や動物のかたちに見えてくるように、自分と他人、こことそこ、過去と未来などの「見えないつながり」について考えようというもの。展示室を迷路のようにパネルで仕切り、大小10数個のモニターやプロジェクターに館内風景を映し出す北川貴好のインスタレーションは、ほかならぬ東京都現代美術館との対話といえるし、天井から垂らしたリボンのカーテンに川(運河)のきらめきを投影したり、銭湯の湯桶の底に荒波を映し出したりする志村信裕の映像インスタレーションは、美術館のある深川地域の再発見とも受け取れる。これらは都現美のためにつくられた、都現美ならではの「地域アート」といえるだろう。一方、切手の作品で知られる太田三郎は、東日本大震災の起こった2011年発行の新聞を1日1枚ずつ葉書に漉いたり、土砂災害にあった広島の稲籾を使って三角おむすびをこしらえたりすることで、被災地への連帯を表明。また、淺井裕介はいつものように公開制作で、奥行き20メートルほどもある展示室の壁、床、天井まで泥絵具でびっしり埋め尽くそうとしているが、ここで使われている絵具はアジアやアメリカなど各地で採集した土だそうだ。「見えないつながり」は日本中、世界中に広がっている。
2015/01/23(金)(村田真)
3331 千代田芸術祭 スカラシップ受賞者展 vol.5
会期:2015/01/10~2015/01/25
都美から都現美に向かう途中、秋葉原に立ち寄る。昨年夏の「千代田芸術祭2014」で受賞し、選抜された16組のアーティストによるグループ展。「展示」「映像」「インタラクション」の3部門に分かれているが、見たのは展示部門の9人の作品。いぬいかずとは具象と抽象の境界を狙ったような絵を描いている。たとえば、経線(南極と北極を結ぶ地表の線)のような円弧を何本も引いてタマネギのように見せたり(タマネギを円弧の組み合わせとして描いてるともいえるが)、直線と色面の組み合わせで街路図みたいなネオ・ジオ絵画にしたり。ボールペンやクレヨンを用いてるのでアウトサイダー風に見える。増田ぴろよは刺繍作品だが、よく見るとどれもペニスをモチーフにしていて、男性へのオブセッションがあるのか。「ペニ手芸部」部長らしい。椋本真理子はダムやプールなど貯水した地形を切り取って持ってきたようなFRP彫刻。水も含めて地形や風景を彫刻化しようという発想がいい。でもこれ、ダムとかプールとかいわれればそう見えるだけで、作品だけ見れば抽象彫刻ともいえる。まあ2、3人でも見てよかったと思える作品があったので、寄った甲斐があるというもの。
2015/01/23(金)(村田真)
新印象派──光と色のドラマ
会期:2015/01/24~2015/03/29
東京都美術館[東京都]
新印象派を、色彩理論に基づく点描技法の創始者スーラと、その技法を受け継いだシニャック、リュス、クロス、その他ベルギーの画家たちに限定してしまうとかなり地味な展覧会になる。なので、点描技法を試みたピサロ(1830年生)からドラン(1880年生)まで、いいかえれば印象派からフォーヴィスムまで約半世紀をカバーすれば、モネやマティスらビッグネームも入ってくるってわけだ(なぜかゴッホは外れてるが)。でも、狭義の新印象派だけでもいろいろ発見はある。もともと点描は絵具を画素のようにキャンバス上に置いていく技法だから、描く喜びに欠けるし、手仕事では限界があった。そんな欠点を彼らはいかにして克服していったか、できなかったか。たとえば筆触を大きくしたり、ぼかしたり、装飾性を強めたり、さまざまに試行錯誤した形跡が読み取れるのだ。そのあげく、最後のセクションでは色彩も形態もグズグズになり、やがてフォーヴィスムに回収されていく。新印象派がフォーヴィスムを方向づけたともいえるが、フォーヴィスムが新印象派を解放したともいえるのだ。そのへんの美術史のせめぎ合いがおもしろい。
2015/01/23(金)(村田真)
小林亮介 展「森へ」
会期:2014/12/20~2015/01/25
名古屋造形大学黄金町サテライトスタジオ[神奈川県]
森を撮った幻想的な風景写真。のように見えるが、よく見るとどこか不自然。写真の下には「霧の背後に樹影が見えた。森の向こうにはまた森が続いているらしい」とか「幼い頃、限りなく続く山並みを画面の隅々まで描いた」とか「夢から覚めてまた夢の森を歩く。音は無い」といった詩のようなタイトルが記されている。これらの詩を読み上げた音声波形を森のかたちに合成したのが、この風景写真のように見えるデジタルプリントなんだそうだ。小林は30年以上も前に、たしか緑色の森のようなインスタレーションを神田の画廊で発表していた。いい作家だなと目をつけていたから覚えていたのだが、その後ドイツに留学し、以来30年ほど消息を聞かなかった。それが昨年、黄金町のY氏邸で遭遇。なんと名古屋造形大学の学長になっていた。作品は大きく変わったけど、森のテーマは一貫している。
2015/01/22(木)(村田真)
黄金町通路:再訪
会期:2015/01/10~2015/01/25
高架下スタジオ・サイトAギャラリー[神奈川県]
黄金町にはかつての売春宿を改装したアーティスト・イン・レジデンスがひしめく。そこで滞在・制作したアーティストたちの作品を通して、レジデンスプログラムの意義を問い直そうという趣旨。アーティストから見れば黄金町は通過点のひとつだから、タイトルは「黄金町通路」に。出品は加藤翼、和田昌宏、韓国のユ・ソラ、インドネシアのヤヤ・スンら7人で、それぞれ新作や滞在中のドキュメントなどを出している。なかでも目を引くのが吉野ももの襖絵。4枚の襖に透視図法で襖がずっと奥まで続いているように描いている。これをたんなるイリュージョン・アートとして片づけるのはもったいない。襖は日本では(日本にしかないか)絵の支持体のひとつであり、その襖に襖を描くという自己言及的な作品であり、もっといえば襖という字に隠れてる「奥」を視覚的に感じさせる作品でもある。その吉野が描いた黄金町の壁画は昨年のバザールの前に消され、ベトナムから来たライヤー・ベンが新たにグラフィティ風の壁画を制作。その制作過程をコマ撮りした映像もおもしろい。
2015/01/22(木)(村田真)