artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
「Henri Matisse:The Cut-Outs」展
MoMA(ニューヨーク近代美術館)[アメリカ合衆国ニューヨーク市]
マティスの「カット・アウト」展は、彼の切り抜き系の作品にしぼって紹介するもので、最初は小さい書物の挿絵くらいの大きさだが、チャペルのステンドグラスやスイミング・プールになると、壁全体、部屋まるごとのスケール感で展開する。切り絵を並べて、それで配置やサイズを検討する、創作のプロセスもよく示していた。1階では、あいちトリエンナーレの映像プログラムで紹介したビル・モリソンの作品を上映する。激しく劣化したフィルムを意図的に使うために、もとの物語と関係なく、独特のイメージをつくるのが興味深い。ロバート・ゴーバー展は、シンクや壁紙など、日用品をしつこく作品化し、不気味なズレを生じさせる。スターテバント展は、オリジナルをつくらず、いわばパクリアートを追求する。その他、美術系では、デビュッフェ、ロートレックの特集展示など、充実したラインナップである。
Robert Gober:The Heart Is Not a Metapor
会期:2014/10/4~2015/1/18
2014/12/30(火)(五十嵐太郎)
「ZERO:明日へのカウントダウン、1950-60」展
会期:2014/10/10~2015/01/07
グッゲンハイム美術館[アメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタン]
グッゲンハイム美術館のZERO展が思いがけず、素晴らしい。1950-60年代にドイツ、オランダ、ベルギー、イタリアのアーティストらが展開した、戦後の新しい出発としての芸術運動ゼロに焦点をあてたものだ。2013年にグッゲンハイムで同時代の具体美術展を開催していたが、20世紀の再考シリーズである。ゼロ展は、デュッセルドルフから始まった歴史、展覧会の再現、雑誌、映像、キネティック、振動や揺らぎによる視覚効果、火や煙で描く絵画、ニューマティックへの関心、光の操作などを紹介し、なるほど、その先駆性が確認できる。展覧会に参加したイヴ・クラインは、本当に才能があったのだと改めて感心させられる。
2014/12/30(火)(五十嵐太郎)
「CUBISM THE LEONARD A. LAUDER COLLECTION」展
会期:2014/10/20~2015/02/16
メトロポリタン美術館[アメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタン]
ラウダー・コレクションによるキュビスム展は、ブラックとピカソの二人が、1910年前後に毎年どのように急速に進化したかを並べつつ、グリやレジェの試みも紹介する好企画である。別のセクションでは、ブラックの40年代の室内絵画があり、上から見下ろす折りたたまれた不思議な遠近法だった。続いて、ポロックの6点の絵画を見る。3点はアメリカの抽象画の流れに置かれ、適度に余白を残した「秋のリズム30」が白眉である。残り3点は、彼が師事したベントンの巨大壁画「アメリカ・トゥデイ」(1930~31)をめぐる展覧会に関連して、ポロックの初期作品が紹介されていた。トーマス・シュトルートの特集展示は、1970年代半ばのニューヨークを撮影した初期の作品から、パンテオン、ミラノ大聖堂、天安門広場、タイムズスクエアなどの建築や風景写真までを紹介する。またエル・グレコ展も開催中で、複数の企画展が同時に開催できる巨大美術館ならではの充実した内容である。
2014/12/30(火)(五十嵐太郎)
エスプリ・ディオール──ディオールの世界
会期:2014/10/30~2015/01/04
銀座玉屋ビル[東京都]
東京銀座玉屋ビルでは4フロア全館を会場に、ドレス、香水、アクセサリー、映像、デザイン画やイラスト、資料をとおして、メゾン・ディオールの歴史を振り返る展覧会が開催された。なんといっても展示の中心は、贅と技巧のかぎりをつくしたオートクチュールのドレスの数々である。絢爛豪華な織、刺繍、縫いとり、スパンコール、フリル、チュール、リボン、ドレープ、プリーツなど、その緻密で精確な仕事は間違いなく一級の工芸品といえるだろう。たとえ数十年前に製作されたドレスを近年のドレスと並べでも、その高度な手仕事を集積したモノとしての確かな存在感は少しも古びることはない。装飾的で華やかなスタイルはディオールのドレスの特徴でもある。ディオール・オートクチュールのコンセプトは「フェミニニティの礼賛」だという。終戦直後にニュールックをかかげて華々しく登場したディオール以降、現アート・ディレクターのラフ・シモンズにいたるまで、女性らしいグラマラスなスタイルが着実に継承されてきたことをドレスの展示は物語る。また、本展には従来あまり人目に触れることがない、製作過程のトワルも出品されている。表面の装飾や色彩をのぞいてかたちだけをとりだしたかのような白無地のドレスは、まるで石膏の彫刻のような佇まいで、造形そのもののシンプルな美しさを呈している。そして、一点一点のドレスを誰がどのような場面で着用したのか、そのドレスをいかに解釈するべきか、さらにはドレスをとおしてどのようなイメージをいだくべきかが周辺の展示によって示される。製作当時の記録映像をはじめ、ソフィア・コッポラやウォン・カーウァイら著名な映画監督が手がけたコマーシャル・フィルム、パトリック・ディマルシェリエが撮影した写真集およびメイキング映像など、その仕掛けの規模に大きさにはドレスがたんなる工芸品ではなくあくまでもモードであるということをあらためて思い知らされた。入場無料の本展、大掛かりなウィンドウ・ディスプレイという見方もできるだろう。[平光睦子]
2014/12/28(日)(SYNK)
Stolen Names
会期:2014/12/19~2014/12/27
京都芸術センター[京都府]
「作品に関わるおよそ全ての情報(あるいは手がかり)が盗まれた状態にあ」り、作品がただ作品として、会場に混在するというコンセプト。床には漢詩が書かれ、粘土による造形が置かれている。または、モニターに映し出される集団行動、なにものかの資料などなど。そもそもタイトルしかテキストがない中、まったく心にひっかからない自分が居て、コンセプトにある「作品と向き合う時、いつから私たちは答えを求め、手がかりを探し続けるようになったのだろう」状態に。しかし、その空間自体の魅力や展覧会としてのトータルのおもしろさにまでたどり着くことが出来ない(と感じ)退室してしまった。会期中、名前を語らない放送室のようなプロジェクトなどが関連企画として行われ、ウェブサイト(http://stolen-names.tumblr.com/)にて公開されている。会場風景、ウェブ上には2時間強の映像作品もあり、試みとしては、ここを見るだけでもけっこう満足。では会場では、どう味わえば良かったのだろう。会場にいたのは短い時間、瞬く間の記憶としてだが、もう少し私の心に残ってくれそうではある。
2014/12/27(土)(松永大地)