artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

注目作家紹介プログラム チャンネル5 木藤純子|Winter Bloom

会期:2014/12/06~2014/12/21

兵庫県立美術館[兵庫県]

上空から花びらが落ちてくる静かなインスタレーション《winter bloom》作品を中心に、館内のさまざまな場所に作品を点在させている。作品の前が行列状態となるほどの盛況だった特別展「だまし絵展II」を観覧した後でも発見できるほどに、館内数カ所に桜色の季節外れな花びらが散乱していて、こちらの小企画への導入としては最適。
また、美術館の外で見られる上空6mほどに舞うという1枚の花びら《flower bird》は、外壁のコンクリートの巨大な塊と青空をバックに、とても詩的で、か弱さの象徴として揺れながら力強さを讃える様は見事だった。


写真では見えないが、手前の屋根の建物よりの辺りに花びらが1枚浮かんでいる

2014/12/20(土)(松永大地)

原田恵×森綾花「12月のゆうげ」

会期:2014/12/17~2014/12/21

iTohen[大阪府]

原田恵は木版画で、お菓子や食べ物といったモチーフだけをシンプルに、そしてカラフルに描く。森綾花は木炭で、とある食卓のあるシーンをモノクロームで描く。テーブルやお皿の上の物語だ。色やモチーフ、作風が対照的な2人だが、作品同士の関係性がまた別の物語を生むという相乗効果があって楽しめるようになっていた。イラストレーションの2人展としては、とても親しみやすい構成。


展示風景

2014/12/20(土)(松永大地)

山部泰司展─溢れる風景画2014─

会期:2014/12/16~2014/12/28

LADS GALLERY[大阪府]

会場の入り口正面にどんと展示された200号の大作の迫力が印象的だった山部泰司展。森のなかを流れる川や滝。水の流れる風景が褐色を帯びた赤で描かれた絵画が多数展示されていた。一見均整と調和のとれた奥行きのある世界なのだが、よく見ると画面の遠近やモチーフのバランスに違和感を覚えて、こちらの感覚も少し混乱する。作品ごとにやたら画面の細部に目が引き寄せられるのもそのせいだろうか。画面にいくつもの時間と空間が入り混じり、じっと見ていると「見る」ということ自体を意識させられるから不思議。今展にはデルフトブルーのような青で描かれた作品シリーズも展示されていた。赤褐色の画面を眺め続けた目にそのブルーがなんとも心地よく映る。展示自体も魅力的だった。

2014/12/20(土)(酒井千穂)

宇加治志帆 Learning to be human

会期:2014/12/12~2014/12/21

FUKUGAN GALLERY[大阪府]

最近はアクセサリーなどの制作も行っているアーティストの宇加治志帆が久しぶりに個展を開催していた。平面作品、実際に身につけることができるウェア、立体作品をインスタレーションにした展示空間はリズミカルな色やかたちで彩られていて目にも心地良く、タイトルからイメージをつなぎあわせて連想を膨らますのが楽しい会場だ。ちょうど居合わせた他の来場者とともに、展示された貫頭衣スタイルのワンピースやスカートを着て一緒に写真を撮影することにもなったのだが、作家に立ち位置やポーズを指示され、まるでファッション雑誌かなにかの1ページをつくるように慎重に撮影が行われたのが面白かった。これもまた作品の一部だったのだろうか。視覚的なイメージがパズルを組み合わせていくように展開していく、映画みたいな展覧会。なかなか素敵だった。


会場の様子

2014/12/20(土)(酒井千穂)

「福島写真美術館プロジェクト 成果展/福島」

会期:2014/12/06~2015/12/21

キッチンガーデン2&3F[福島県]

2012年から福島県立博物館と同県内の各団体が連携して展開している「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」の一環としておこなわれているのが「福島写真美術館プロジェクト」。写真家やアーティストが、福島県内で作品を制作して発表するというもので、今回はその第2回目の「成果展」が福島市栄町のキッチンガーデン内のスペースを使って開催された。
今回発表されたのは、華道家の片桐功敦の「南相馬環境記録プロジェクト」、ニューヨーク在住のアーティスト、安田佐智種の「南相馬住まいの記憶プロジェクト」、写真家の赤阪友昭の「福島環境記録プロジェクト」、写真家の本郷毅史の「福島の水源をたどるプロジェクト」の4作品だった。福島第一原発の「20キロ圏内」に咲く花を器に生けたり、風景の中に配置して撮影する片桐、津波で流された家々の土台部分を撮影した画像を繋ぎ合わせて再構成する安田、震災後の自然環境の変化を克明に撮影し続ける赤阪、福島を代表する河川、阿武隈川の源流をたどる本郷の4作品とも、長い時間をかけた労作であり、そのクオリティもとても高い。このプロジェクトが、「震災後の写真」のあり方を再考、更新していく重要な試みであることが、あらためて証明されたのではないだろうか。
なお12月20日には同会場で、筆者をモデレーターとして、出品作家の片桐、赤阪に加えて、郡山で花の写真を撮り続けている写真家の野口勝宏、立ち入り禁止区域に指定されていた原発敷地内と作業員の写真を発表したフォト・ジャーナリストの小原一真を交えて、「福島で撮る」と題するトークイベントが開催された。「福島写真美術館」というのは、まだ今回のプロジェクトに与えられた呼称に過ぎない。だが将来的には、福島及び東北地方の写真を蒐集、保存、展示する恒久的な施設としての「福島写真美術館」を、ぜひ実現するべきではないだろうか。その可能性を探っていく第一歩として、とても意義深いイベントだったのではないかと思う。

2014/12/20(土)(飯沢耕太郎)