artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
iTohen新春企画展
会期:2015/01/07~2015/01/18
iTohen[大阪府]
iTohen新年の恒例は、この1年に展覧会を行う作家16名が一堂に集う企画展。特に、関西ではなかなか目にかかれない福田紀子作品は見応えがあった。同人誌『四月と十月』や、港の人より出版されている四月と十月文庫、『小石川植物園スケッチ会小冊子』など、印刷物で目にしていたことが多かったが、額装なしの3点で、原画を目の前にして入り込むことが出来た。カラフルながら、深みがあり、統一された雰囲気のある色遣い、そして、タッチから感じられる気配とリズム。もっとバリエーションを楽しみたくなる、心待ちの個展は、2015年の10月。
2015/01/09(金)(松永大地)
ウィレム・デ・クーニング展
会期:2014/10/08~2015/01/12
ブリヂストン美術館[東京都]
ブリヂストン美術館のウィレム・デ・クーニング展へ。全体の回顧展ではなく、ジョン・アンド・キミコ・パワーズ・コレクションから、少し具象に回帰した1960年代の女性像を中心にした内容である。絵の支持体として、「紙」を好んで使うのが興味深い。しかも、紙の折れ跡に従い、画面に奇妙な分割線が入ったり、絵具が滲んだり、余白に染みたりする。こうした視点でのデ・クーニングの分析はあるのだろうか。
2015/01/09(金)(五十嵐太郎)
国宝 松林図屏風
会期:2015/01/02~2015/01/12
東京国立博物館 本館2室[東京都]
上野の国立博物館にて、特別公開された長谷川等伯の松林図屏風を鑑賞する。本やネットで見ると、二次元だが、実際はジグザグに前後する屏風として、空間的には三次元に展開するので、いろいろな角度から観察すると面白い。計算された、2.5次元の絵というべきか。近づくと、細部は素早いタッチでラフに描かれており、遠目から全体のイメージを脳内で構築する絵だ。折れ曲がることで、一望できないため、まわりを動きながら、やはりイメージをつなぎあわせる。さすがに国立博物館のモノは他も興味深い。展示の手法は、部屋ごとにばらつきが大きい。
2015/01/09(金)(五十嵐太郎)
石原友明展「透明人間から抜け落ちた髪の透明さ」
会期:2014/11/29~2015/01/18
MEM[東京都]
デジタル化の進行により「写真」と「写真ならざるもの」との境界が溶解しつつある。石原友明の新作展に展示された6点の作品は、白いジェッソの下地を塗ったキャンバスに、重なり合った曲線が描かれたドローイングに見える。ところが、それらは「作家自身の毛髪を集めてスキャニングしたものをベクタ形式のデータに変換(数値化)して、平面作品として構成したもの、つまりセルフポートレート」なのだという。たしかにそれらをよく見れば、データ化された髪の毛の画像を微妙にずらして「特殊なインク」でプリントしたものであることがわかる。ただし、これを「写真」と見るにはかなりの違和感がある。カメラやレンズを媒介することなく、「スキャニング」によって直接転写された画像だからだ。だが、明らかに手描きのドローイングでもない。このような宙づりのイメージが提示されると、観客としては戸惑いと居心地の悪さを感じざるを得ない。
だが、石原がかつて発表した小説「美術館で、盲人と、透明人間とが、出会ったと、せよ」(1993年)で、髪の毛についてユニークな見解を打ち出していたことを知ると、一見素っ気ない画面が違って見えてくる。石原の記述では、透明人間になった自分から髪の毛が抜けて床に落ちると「徐々に透明では無くなって」いく。さらに「死んで、もはや自分の一部ではなくなってしまった髪の毛を見つめると、なぜかそれこそが自分自身の生きたからだを眼前するかのような反転した感覚」が生じてくるというのだ。この感覚は、たしかに身に覚えがあるもので、抜け落ちた髪の毛は、不気味であるとともにどこか生々しいものだ。石原の今回の作品は、その「反転した感覚」をスキャニングした画像データの転写という手法で、再構成しようとするものだろう。そのことを踏まえて作品を見直すと、抽象的なパターンの画面が、にわかに血なまぐさく思えてきた。
2015/01/09(金)(飯沢耕太郎)
東近江市ゆかりの芸術家シリーズ Vol.6 北山善夫 展 大声で笑い歌い、時には泣き
会期:2015/01/10~2015/01/30
東近江市立八日市文化芸術会館 展示室[滋賀県]
竹と木と紙などを複雑に組み上げたオブジェや、土偶の人型とそれをもとに描いた細密画の大作で知られる北山善夫。筆者はこれまでに何度も彼の作品を見てきたが、美術館の常設展示か画廊での新作展ばかりで、一度にまとまった数を見たことはなかった。本展では、絵画6点、彫刻1点、インスタレーション2点が展示され、彫刻が少なかったとはいえ彼の仕事を概観することができた。生、死、自我、宇宙、社会、歴史などのテーマが渦を巻いているかのような作品世界は圧巻で、一作家の全体像を示すことの大切さを改めて感じた次第。今後、美術館で本格的な回顧展が行なわれることを期待している。
2015/01/09(金)(小吹隆文)